ジャズとミステリーの日々
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2006年9月〜2022年12月のコラム

映画備忘録〜毎日が2本立て

古い映画の鑑賞備忘録。洋の東西を問わず、いずれ見ようと思って録画したり購入したりして積み上げられた映画のDVDをかたっぱしから手に取る。いわば、手塩にかけて育て上げ、たわわに実った稲の穂を刈り取る、という心境か。評点はAからEまでの5段階。評価の基準は、A=万人が見るべき名作、B=極力見るべき傑作、C=見て損はない佳作、D=見るに値しない凡作、E=見るのは時間の無駄の愚作。あくまで私的な評価であり、世間の評判や人気とは関係がない。感想にはネタバレをできるだけ含まないよう留意した。

2024年4月

2024年4月某日  備忘録309 ロバート・アルドリッチを見る その3

合衆国最後の日
1977米・独 ロバート・アルドリッチ 評点【B】
60年代半ばの優れた政治パニック映画「5月の7日間」と「未知への飛行」を足して2で割ったような作品。ベトナム戦争から帰還し、理不尽な政府の方針に異を唱えたため無実の罪で投獄された元将軍のバート・ランカスターが、仲間とともに脱獄して核ミサイル基地を占拠し、大統領のチャールズ・ダーニングに機密文書を公表しなければミサイルを発射すると要求する。大統領は交渉のかたわら、司令センターの将軍リチャード・ウィドマークに基地奪還を命じる。基地があまりに簡単に侵入者に占拠されることや、基地の発射ボタンを押すだけで核ミサイルが発射できることなど、理屈に合わない箇所もあるが、この映画は全体として緊迫感に富んでおり、見る者をとりこにする。アルドリッチは余計な挿話をはさまず、一直線にストーリーを物語り、緊迫感を醸成する。分割スクリーンによってミサイル基地、大統領府、指令センターの動きが同時に映し出され、サスペンスが高まる。ベトナム戦争を推し進めた米国政府を大胆に告発するこの映画は、ハリウッドの一匹狼だった反骨の男アルドリッチの面目躍如たるものがある。これはウクライナ戦争に肩入れする現代の米国への批判にもなっている。それにしても、この邦題はセンスがなく、大げさすぎる。米国国歌の一節に由来する原題「Twilight's last gleaming」(黄昏の最後の輝き)を生かしたものにすべきだった。

フリスコ・キッド
1979米 ロバート・アルドリッチ 評点【C】
アルドリッチの晩年、最後から2番目の作品。ジーン・ワイルダーとハリソン・フォードが主演するコメディ西部劇。当時フォードは「スター・ウォーズ」の第1作に出演して売り出し中の若手スターだった。ポーランドから渡米したユダヤ教宣教師のワイルダーが、気のいい強盗のフォードと知り合い、追い剥ぎやインディアンの襲撃や雪山の吹雪に遭いながら、2人でサンフランシスコまで珍道中するバディもののロード・ムーヴィ。皮肉とユーモアととぼけた味わいがほどよく入り交じっており、上出来のコメディ作品に仕上がっている。

2024年4月某日  備忘録308 最近の映画を見る その3

Perfect Days
2023日・独 ヴィム・ヴェンダース 評点【D】
公衆トイレ清掃作業員の男の日常をたんたんと描いた映画。浅草近辺の木造安アパートに住む男は、朝起きると植木に水をやり、ワゴン車に乗って音楽を聴きながら仕事場に向かい、黙々と丁寧に何ヵ所かのトイレ掃除をこなしたあと、銭湯に行き、飲み屋で一杯だけ酎ハイを飲み、本を読んだあと眠りにつく。彼はカーステレオのカセットで音楽を聴き、フィルム・カメラで樹木の写真を撮るアナログ人間。彼が聞く音楽は、アニマルズ、オーティス・レディング、ルー・リード、キンクスなどの60〜70年代の地味な洋楽であり、読む本はフォークナー、幸田文、パトリシア・ハイスミスなど、古本屋で買う100円均一の文庫本だ。男の素性は明らかにされないが、おそらく何かの理由でドロップアウトした良家出身のインテリであろうということが分かってくる。主演の役所広司をはじめ、柄本時生、石川さゆり、三浦友和など、みな好演している。この映画は、多くの観客を、人生もそれほど捨てたものではないという安らかな気持ちにさせるに違いない。だが、頻繁に映し出される緑豊かな木々や東京の街路が、叙情的な風景によって雰囲気を醸し出そうというあざとい意図を感じさせる。また、男が掃除するトイレがどこも妙にきれいでモダンなのが違和感を湧き起こす。見終わったあと、映画に関する説明を読んで納得した。これは笹川良一が設立した日本財団の主導で行なわれた渋谷区に快適な公共トイレを設置するプロジェクト「The Tokyo Toilet」の依頼によってヴェンダースが作ったものであり、もともとは短編の予定だったが長編として再構想されたという。実際の公衆トイレはもっと汚いものだし、いろんな問題が発生する場所だが、そんな現実はいっさい省かれており、そこにもこの映画の非現実性と底の浅さを感じる。つまり、現実を描いている体裁を取りながら、実際には絵空事の世界なのだ。同趣向の映画でジム・ジャームッシュが監督した米国の田舎町のバス運転手の日常を描いた「パターソン」があったが、その映画のほうが「Perfect Days」よりもはるかに好ましい作品だった。

マエストロ
2023米 ブラッドリー・クーパー 評点【C】
レナード・バーンスタインの伝記映画だが、彼と妻のフェリシアとの夫婦愛が中心に描かれており、音楽を期待すると裏切られる。この夫婦は結婚して3人の子供に恵まれる。バーンスタインは家族思いの父親だが、妻を愛するいっぽうで男も愛するバイセクシャルで、結婚後も男たちと関係を持ち続けたため、妻は思い悩む。監督を務めると同時にバーンスタインを演じるブラッドリー・クーパーは巨大な鼻が目立つメイクにより、本人そっくりの容貌になっている。クレジット上では妻を演じるキャリー・マリガンが主役の扱いだ。バーンスタインといえば「ウェスト・サイド物語」だが、この映画ではそれほど有名ではない「踊る大紐育」のダンス・シーンは登場するのに、「ウェスト・サイド物語」からは「クール」の音楽が背景にながれるだけ、また有名な「Young People's Concert」についてもほとんど触れられず、肩透かしを食らう。これはバーンスタイン家の遺族公認の映画だが、男色嗜好、酒好き、コカイン癖といった彼の影の部分も生々しく描かれる。この映画ではキャリー・マリガンの抑えた演技が素晴らしい。当方は2011年の「ドライヴ」を見て以来、幼女のような不思議な顔立ちと落ち着いた佇まいに惹かれてキャリー・マリガンのファンになった。今年のアカデミー主演女優賞はエマ・ストーンが取ったが、内面的な演技の巧みさからしてキャリー・マリガンのほうが取るべきだったと思う。

2024年4月某日  備忘録307 ロバート・アルドリッチを見る その2

甘い抱擁
1968米 ロバート・アルドリッチ 評点【C】
アルドリッチの映画のなかではあまり語られることのない地味な室内劇ドラマ。アメリカ映画だが場所の設定はロンドンだし出演者はほとんど馴染みのない英国の俳優だ。「シスター・ジョージ殺し」という舞台劇の映画化で、テレビ界の内幕とレズビアン同士の三角関係が描かれる。主人公はジョージという渾名の中年のテレビ女優と、彼女と同居するアリスという若い女性。ジョージは人気テレビドラマにシスター・ジョージという役名で主演しているが、性格はわがまま、言動は粗暴、酒好きでしょっちゅうリハーサルをすっぽかす。同居するアリスはジョージの愛人だが彼女の独占欲に辟易している幼児性の抜けない女。ジョージを演じるベリル・リードは短躯で肥満気味、無名の俳優だがこの漫画的な役柄にうまくマッチしている。アリス役のスザンナ・ヨークは「トム・ジョーンズの華麗な冒険」のヒロインとして知られるアヒル口の可愛い女優。テレビ局がジョージを降板させるため劇中で彼女を事故死させることを決め、そこからドラマが動き出す。ジョージは最後にテレビの役も愛人も失い、セットの暗がりでひとり座り込む。筋立てはフェリーニの「道」を想起させるが、雰囲気は「何がジェーンに起こったか」を思わせるし、今村昌平風の重喜劇とも一脈通じるものがある。終盤にアリスとテレビ局の女幹部の濡れ場があるが、これが真に迫っており、なんともエロチックだ。我々は背後の暗闇からナイフを振りかざしたジョージが現れるだろうと固唾を呑んで待つが、その期待は肩透かしを食らう。アルドリッチの冷徹な視線を感じさせる映画だ。

燃える戦場
1970米・英 ロバート・アルドリッチ 評点【C】
第2次大戦下、南太平洋の島での英軍と日本軍の戦いを描いた戦争映画。日本軍の通信施設を破壊するために作戦に従事する英軍の工作隊の活動と日本軍兵士との戦いが描かれる。英軍衛生兵役のマイケル・ケインと任務に参加する米軍将校役のクリフ・ロバートソンが主人公。日本軍の司令官を高倉健が演じる。やる気のない英軍兵士たちは無謀な作戦で次々に命を落とす。最後の2人になったケインとロバートソンは日本軍の追跡を受けながら必死に帰還しようとする。当時のハリウッド映画にしては珍しく、日本軍は悪者として描かれていないし、拡声器を使って英軍兵士を心理的に追いつめる司令官の高倉も人間味のある人物に描かれており、好感が持てるが、全体としてはアルドリッチの前作「特攻大作戦」のような痛快さがなく、出来はイマイチ。

2024年4月某日  備忘録306 最近の映画を見る その2

哀れなるものたち
2023英・米・愛 ヨルゴス・ランティモス 評点【C】
フランケンシュタインの女性版といった趣の映画。ヴィクトリア朝のロンドン、自殺した女性が外科医により赤児の脳を移植されて生き返る。当初は聞き分けのない幼児のような状態だった彼女はしだいに語彙や感情を覚え、セックスの喜びを知り、放蕩者に連れ出されてヨーロッパ各国を旅し、世の中と人間について目覚めていくというストーリー。一種のセックスを題材としたSFコメディと言えようか。主演の人造人間にエマ・ストーン、怪物のような容貌の外科医にウィレム・デフォー、彼女に惚れる放蕩者にマーク・ラファロが扮する。全体の筋立てとしては、「トム・ジョーンズ」や「モル・フランダース」など、英国の古典的なピカレスク・ロマンを想起させる。アカデミー主演賞を得たエマ・ストーンは大熱演、胸も下半身もさらけ出してセックス・シーンを演ずるが、そこまでやる必要があるのか、いささかやり過ぎの感がある。

関心領域
2023米・英・波 ジョナサン・グレイザー 評点【A】
アウシュヴィッツ強制収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻や家族の、収容所の隣に建つ豪邸での生活を描いた、画期的な視点でホロコーストを告発する戦慄すべき映画。川辺でピクニックしたり、庭のプールで水浴びしたり、草花を手入れしたりする所長一家の日常生活がたんたんと描かれる。所長の妻を演じるのは最近国際的に注目されているドイツ人女優ザンドラ・ヒュラー。塀の向こうには収容所があり、ときおり銃声や怒号や悲鳴が響き、煙突から煙が上がるが、それらに家族はまったく無関心だ。妻は豪華な毛皮を姿見に映し、子供は宝石で遊ぶが、それらは収容されたユダヤ人から押収したものであろう。所長は家族を愛する穏やかな人物だが、会議室で部下とガス室の設計について議論する。映像は終始、ロングショットで撮られており、クロースアップやバストショットはほとんどない。収容所の内部はいっさい描かれないが、終盤に至り、博物館になった現在の収容所の様子が映し出される。この映画はハンナ・アレントの「悪の陳腐さ」という言葉を想起させるし、ナチスの時代にドイツ国民がホロコーストを知っていながら知らぬ振りをした事実と重なる。そしてまた、当然ながら、欧米各国がイスラエルのガザ攻撃とパレスチナ人虐殺を黙認している現状を思い起こさせる。ウクライナ系ユダヤ人である英国の監督ジョナサン・グレイザーは、アカデミー国際長編賞の授賞スピーチの最後で、人間性の喪失が最悪の事態を招くことを描きたかった、いま私たちはガザの犠牲者に目を向けなければならないと言った。ユダヤ人社会であるハリウッドにおける勇気ある発言だったが、拍手はまばらだった。

2024年4月某日  備忘録305 ロバート・アルドリッチを見る その1

ガンファイター
1961米 ロバート・アルドリッチ 評点【B】
大昔に見た映画を再見する。監督がアルドリッチ、脚本がダルトン・トランボで面白くないわけがない。メキシコからテキサスへの牛の群れのロングドライヴのために雇われた2人の男、カーク・ダグラスとロック・ハドソンを主人公とする西部劇。ダグラスはお尋ね者のガンマンで、ハドソンはダグラスを追う保安官。牧場主にジョセフ・コットン、牧場主の妻にドロシー・マローン、その娘にキャロル・リンリーが扮する。ダグラスはかつての恋人マローンとよりを戻そうとするが、マローンはハドソンに惹かれており、リンリーはダグラスに愛を抱く。物語は2人の男の対立関係と、彼らと女たちをめぐる四角関係を軸に進行する。登場人物たちの性格が巧みに描き分けられており、展開もスピーディで間延びするところがない。ドロシー・マローンは「三つ数えろ」の本屋の店員を彷彿とさせる。最後の決闘が緊迫感にあふれており、決闘が終わってたたずむ男と女、倒れた男と彼を抱きかかえる女のロングショットが哀切感を際立たせる。しかし、この邦題はセンスがないし紛らわしい。「ガンファイターの最後」など、似たようなタイトルの西部劇がたくさんある。原題「The Last Sunset」を生かして「最後の落日」のような題にすべきだった。

ふるえて眠れ
1964米 ロバート・アルドリッチ 評点【B】
この映画も以前見ているはずだが、内容はまったく覚えていなかった。話題になった62年の「何がジェーンに起こったか」に続く、アルドリッチとベティ・デイヴィスのコンビによるサイコ・ホラー映画。デイヴィスの相手役には前作同様、ジョーン・クロフォードが予定されていたが、デイヴィスと不仲のため降板し、代わりにオリヴィア・デハヴィランドが出演した。南部の旧家で起きた殺人の謎と遺産相続をめぐる争いが描かれる。前作と同じく、この映画でのデイヴィスも怪演しているが、グロテスクさはやや控えめ。一見やさしそうな風貌のハヴィランドは、デイヴィスの屋敷に乗り込み、旧知の医者ジョセフ・コットンと組んで、精神不安定なデイヴィスをたぶらかし、財産を乗っ取ろうとする悪女を演じる。後半の展開はクルーゾーの「悪魔のような女」を想起させる。ヒットしたフランク・デヴォル作の主題歌の美しい旋律が忘れがたい。

2024年4月某日  備忘録304 最近の映画を見る その1

ゴジラ -1.0
2023東宝 山崎貴 評点【C】
久しぶりに映画館で映画を見た。アカデミー視覚効果賞を受賞しただけあって特撮はさすがに迫力たっぷりで素晴らしく、CG処理もまったく違和感はない。CG技術の進展を痛感する。しかし物語はかなりお粗末で、終戦直後、米軍占領下の日本の話であるのに、ソ連を刺激するからという理由で米軍がゴジラを撃退しようとしないなど、ご都合主義的な話の展開が目立つ。この映画では、ゴジラは米国の水爆実験で巨大化するし、東京に上陸したゴジラが吐く熱線によって湧き上がる爆雲は原爆のキノコ雲を思わせる。だが、ゴジラ第1作のような核兵器の廃絶を願う視点は乏しい。

オッペンハイマー
2023米 クリストファー・ノーラン 評点【C】
これも劇場で鑑賞。アカデミー賞の主要部門を制覇した映画、見ずばなるまい。おそらく原爆を作った男の心の葛藤を描いた映画であろうし、監督がクリストファー・ノーランだから話の展開が分かりにくいものになっているであろう、と予想していたが、まさにそのとおりの映画だった。怪物兵器を生み出したオッペンハイマーの苦悩と共産主義者と糾弾されて暗転する彼の人生が描かれるが、そこに原爆の悲惨な被害や非人道性は浮かび上がらない。この映画はまるで米国が原爆を落としたことについて言い訳し、免罪符を得ようとしているように見える。時間軸を錯綜させて分かりにくくするのはいつものノーラン監督のやり方だが、ここでもその手法が使われており、見ていて苛立たしくなる。


2024年3月

2024年3月某日  備忘録303 ドン・シーゲルの映画 その5

ドラブル
1974英 ドン・シーゲル 評点【C】
シーゲルが英国で撮った、スパイ映画と誘拐映画をミックスしたようなアクション作品。主演はマイケル・ケイン。好敵手のショーン・コネリーを茶化すような箇所がある。英国情報部員が息子を誘拐されて陰謀に巻き込まれる話。途中で陰謀の構図と黒幕が誰かは見当がつく。シーゲルらしく、テンポは小気味いいが、あちこちで不自然な筋の展開が目につく。

テレフォン
1977米 ドン・シーゲル 評点【B】
シーゲル晩年のスパイ映画だが、出来はなかなかのもの。KGBの違反分子が米国に渡り、米ソ関係を悪化させるため、かつてソ連が米国各地に潜入させていた自爆工作員たちに指令を発して戦略基地を攻撃させようとする。それを知ったKGBはスパイのチャールス・ブロンソンを送り込み、それを阻止しようとする。ブロンソンは現地要員の女レー・レミックの助けを得て犯人を追い詰める。傑作「影なき狙撃者」を彷彿とさせる映画であり、潜入工作員たちは「森は暗く美しい・・・」というフロストの詩を電話で聞かされると、催眠術にかかったように行動を起こす。話の展開が面白いし、KGBとCIAの両者の駆け引きも興味深く、最後までサスペンスが持続する。

2024年3月某日  備忘録302 ドン・シーゲルの映画 その4

マンハッタン無宿
1969米 ドン・シーゲル 評点【C】
シーゲルがクリント・イーストウッドと組んだ第1作。アリゾナの保安官助手イーストウッドが凶悪犯の身柄受け渡しのためニューヨークにやって来る。彼は手続きを無視して病院から強引に犯人を連れ出すが、空港で犯人の仲間に襲われ、逃亡される。イーストウッドは市警の制止を振り切り、単独で捜索し始める。のちの「ダーティ・ハリー」を彷彿とさせるアクション映画であり、とぼけたユーモアもちりばめられているが、どこか間延びした感じがあり、盛り上がりに乏しく、出来はいまいち。NY市警警部補役のリー・J・コッブがいい味を出している。

白い肌の異常な夜
1971米 ドン・シーゲル 評点【B】
シーゲルとイーストウッドのコンビによる第3作でホラー風味の異色作。南北戦争末期の南部、傷ついた北軍兵士が女子寄宿学校に担ぎ込まれ、教師や生徒に看病される。彼は口八丁手八丁の色男で、彼に惹かれた学校の女たちのあいだに嫉妬と憎悪が渦巻く。女たちの異常な心理と行動がサスペンスたっぷりに描かれ、見る者を恐怖に陥れる。ブルース・サーティズが撮る南部の森やそこにぽつんと建つ寄宿学校の風景が美しい。この映画でいろんな女にちょっかいを出して散々な目に遭う男を演じるイーストウッドは、このあと自らが監督した「恐怖のメロディ」で、同じような趣向の、一夜の情事を持ったがゆえにストーカー女から付け狙われる男を演じた。

2024年3月某日  備忘録301 ドン・シーゲルの映画 その3

燃える平原児
1960米 ドン・シーゲル 評点【B】
エルヴィス・プレスリー主演の西部劇。以前、高校生のころエルヴィス目当てで見たときはあまりに暗い内容でがっかりした記憶があるが、今回見直して、これはなかなかの傑作だと感じた。テキサスの牧場主一家。妻は後妻でカイオワ・インディアン。長男は先妻の子で白人だが、次男は白人とインディアンの混血。この次男をエルヴィスが演じる。カイオワ・インディアンが決起し白人を襲う。牧場主一家は仲間の白人たちから白い目で見られる。母が白人に撃たれて死に、次男のエルヴィスはインディアンの仲間に入る。しかし父親がインディアンに襲撃されて死ぬと、エルヴィスは一転してインディアンと戦う。白人とインディアンの双方の悪を描き、混血であることに悩む青年を主人公にしたこの映画は、修正主義西部劇の先駆けだと言える。エルヴィスはタイトル・ロールで流れる歌を除けば、この映画では民謡風の歌を1曲しか歌っておらず、演技に徹しており、好感を与える。シーゲルの演出はきびきびしてテンポが良く、混血児の悲劇を巧みに描いている。

ガンファイターの最後
1969米 アラン・スミシー 評点【C】
リチャード・ウィドマーク主演の西部劇。新しい時代を迎えようとしているテキサスの町。昔気質の頑固で暴力的な保安官と近代化するため保安官を辞めさせようとする町の実力者たちとの反目と抗争を描いた映画。反感を買った保安官は最後に大勢の住民から銃口を向けられる。筋立てはドミトリクの「ワーロック」を思わせる。ウィドマークはその「ワーロック」でこの映画とは反対の役を演じていた。ウィドマークは好演しているが、全体の印象は暗い。シーゲルは撮影の途中から監督を引き受けたがクレジットに名前を載せることを拒否したため、監督クレジットには架空の名前が使われた。


2024年2月

2024年2月某日  備忘録300 ドン・シーゲルの映画 その2

裏切りの密輸船
1958米 ドン・シーゲル 評点【C】
ヘミングウェイ原作「持つと持たぬと」の3度目の映画化。前の2作はハワード・ホークスの「脱出」(1944)とマイケル・カーティスの「破局」(1950)。釣り船の船長が金に困り、キューバへの武器密輸商人に船を提供し、トラブルに陥る話。3作のなかではこれがいちばん地味でB級色が強い。主演のオーディ・マーフィに冴えが見られず、脚本も良くない。シーゲルにしては緊迫感に乏しく、平板な出来だ。しかしエディ・アルバートの悪役ぶりはなかなかのもので、「金があれば誰でも動く。動かないのは死人だけだ」という名台詞を吐く。

突撃隊
1961米 ドン・シーゲル 評点【B】
以前に見たことがあると思っていたが、今回見たら内容をまったく覚えていない。もしかしたら初見かもしれない。ともあれ、これはアルドリッチの「攻撃」と並ぶ戦争映画の傑作だ。第2次大戦中のヨーロッパ戦線、米軍の小隊がドイツ軍のトーチカを攻略するため死闘を繰り広げる。スティーヴ・マックイーンがキャラクターを生かして反抗的だが命知らずの兵士を演じる。撮影当時、マックイーンは売り出し中の俳優であり、この翌年「大脱走」でスターの座に着いた。ジェームス・コバーン、ボビー・ダーリンが共演。終盤の戦闘シーンは異様な迫力に満ちており、エンディングも秀逸。

2024年2月某日  備忘録299 ドン・シーゲルの映画 その1

ビッグ・ボウの殺人
1946米 ドン・シーゲル 評点【C】
シーゲルの長編監督第1作。41年の「マルタの鷹」で注目された堂々たる巨漢シドニー・グリーンストリートとおどおどした小男ピーター・ローレはその後コンビを組んで10作ほどの映画に出演したが、これもその1作。ビクトリア朝のロンドン。刑死した犯人が誤認逮捕と分かり責任を取って辞職した元警視をグリーンストリートが、その友人の画家をローレが演じる。彼らの周辺で殺人事件が起き、二人は警察を出し抜いて犯人を探そうとする。密室殺人の謎と意外な犯人を絡めた推理映画だが、霧に煙るロンドンの街路やアパートの中の階段の映像などにフィルム・ノワールの雰囲気が感じられる。

抜き射ち二挺拳銃
1952米 ドン・シーゲル 評点【B】
オーディ・マーフィ主演の西部劇。金の採掘場を強奪する強盗団に父を殺された若者が、町に行って保安官の助手となり、一味を追い詰めて仇を討つ。80分弱の尺のB級映画だが、シーゲルの的確な演出により、小気味いいテンポで話が展開する。オーディ・マーフィは抜群の身体能力を発揮し、決闘で早撃ちを披露し、窓枠を破って部屋に飛び込む。撃たれて右手が使えなくなった保安官、悪漢一味の手先になって病人を絞め殺す女などの挿話も生々しく、最後の銃撃戦も迫力十分だ。

2024年2月某日  備忘録298 未見だったカウリスマキの4作

イカ墨同盟 1985 アキ・カウリスマキ 評点【D】
レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ 1989 アキ・カウリスマキ 評点【C】
レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う 1994 アキ・カウリスマキ 評点【D】
白い花びら 1999 アキ・カウリスマキ 評点【C】
フィンランドの鬼才カウリスマキの未見だった4作を一挙に鑑賞。「イカ墨同盟」は長編第2作。ヘルシンキの貧民街に住む若者たちが街の反対側の高級住宅街を目指して出発するが、その過程で彼らは意味もなくつぎつぎに死んでいく。これといった筋立てはない間の抜けた感覚の不条理劇で、ゴダール映画のパロデイを思わせる。「レニングラード・カウボーイズ」の2作はペンギンを模した扮装のロックバンドによる、人を食った挿話、とぼけた描写が満載のロード・ムーヴィ。前篇は故郷シベリアからアメリカを経てメキシコに行く旅、後編はメキシコからヨーロッパ各地を経てシベリアに戻る旅。常連俳優マッティ・ペロンパーがマネージャー役を演じる。「白い花びら」は田舎に住む農夫とその妻が主人公。夫婦は仲良く暮らしていたが、妻は都会から来た男に騙されて家出し、接客業を強要されて辛酸を舐め、夫は悲しみの日々を送るという新派悲劇のような疑似リアリズム風の作品。妻を演じるのはお馴染みのカティ・オウティネン。サイレント仕立てのモノクロ映画。夫が悪漢たちの巣窟に乗り込むシーンは「タクシー・ドライバー」を、ラスト・シーンは「灰とダイアモンド」を想起させないでもない。

2024年2月某日  備忘録297 米国のB級SF怪奇映画

惑星Xから来た男
1951米 エドガー・G・ウルマー 評点【D】
B級ホラーやフィルム・ノワールで知られる監督ウルマーが手がけたSFホラー映画。地球に接近する謎の惑星から異星人が小型宇宙船で孤島に着陸し、村人たちを拉致する。村の要塞で惑星を観測していた科学者たちと来訪した新聞記者は村の巡査と協力して異星人と戦うという話。典型的な低予算映画であり、霧が立ちこめる孤島の風景はウルマーらしさを感じさせるが、美術設定は陳腐だし、異星人は弱すぎるし、筋立ても他愛ない。

放射能X
1954米 ゴードン・ダグラス 評点【B】
子供のころ、巨大なアリと恐怖におののく人々の写真が載ったこの映画の宣伝記事を雑誌で見て、面白そうだと思った記憶がある。その意味では、見たことはなかったが、懐かしさを覚える映画だ。ニューメキシコの砂漠に原爆実験で巨大化したアリが現れて人間を襲う。政府は軍隊を出動させ、科学者の協力を得てアリの大群と戦うというSFパニック映画。住民や観光客が惨殺される不気味な出だし、巨大なアリの出現、砂漠での掃討作戦、ロサンジェルスの地下水道での攻防と、ドキュメンタリー・タッチ、小気味いいテンポで生々しく描かれ、見るものを飽きさせない。唯一期待外れなのは、アリがそれほど強大ではなく、マシンガンと火炎放射器ですぐやられてしまうこと。地味な俳優陣のなかでは、科学者の娘に扮するジョーン・ウェルドンという女優がなかなかの美形で印象に残る。

2024年2月某日  備忘録296 ディケンズ原作の映画

孤児ダビド物語
1935米 ジョージ・キューカー 評点【B】
デイヴィッド・リーンが監督したディケンズ原作映画を見て思い立ち、その他のディケンズの映画化作品を見た。これはディケンズ円熟期の代表作「デイヴィッド・コパフィールド」の映画化で、ハリウッド製作。当時にしては珍しい2時間を超える大作。ぼくは中学生のころに岩波文庫で全4巻のこの小説を読んだ。主人公の妻になるアグネスや蛇のような卑劣漢ユライア・ヒープの名前はいまも覚えている。この映画は原作に比較的忠実に作られており、細部は忘れていたが見ているうちに頭に甦ってきた。孤児コパフィールドの作家として功成り名を遂げるまでの波瀾万丈の物語。前半の苦難に見舞われる少年時代の話はそれぞれのエピソードがテンポよく丁寧に描かれているが、後半の成長してさまざまな人と巡り会い人生経験を積む青年時代の話はやや駆け足気味で舌足らずの感がある。出演者たちの演技はみな見事だが、なかでも落ちぶれた好人物の紳士を演じる喜劇役者W・C・フィールズと、少年のころの主人公を虐待する冷酷な義父役のベイジル・ラズボーン(のちにホームズ役者として有名になる)が出色。主人公が最初に結婚する純真無垢な女性モーリン・オサリヴァン(ターザン映画でジェーンを演じた)の美しさが印象に残る。

悪魔と寵児
1947英 アルベルト・カヴァルカンティ 評点【C】
これはディケンズの長編3作目「ニコラス・ニクルビー」の映画化。本国の英国制作で、ハリウッド製の作品と比べると、描写が堅実で映像も奥行きを感じさせる。父を亡くした青年ニコラスが、母、妹とともに叔父を頼ってロンドンにやって来る。叔父は守銭奴の冷血漢で、彼らを利用して金儲けしようと画策する。主人公のニコラスは正義感の強い真面目な青年であり、苦境を乗り切り、叔父の奸計を見破って成功を収める。いかにもディケンズらしく、主人公を助ける叔父の職場の事務員、主人公が牢獄のような寄宿学校から救い出す少年、主人公が旅先で知り合う旅芸人一座の座長(「マイ・フェア・レディ」に出演したスタンリー・ハロウェイが演じる)、主人公が恋に落ちる薄幸の女性画家など、多彩な人物が数多く登場する。悪漢の叔父を演じるセドリック・ハードウィックはサーの称号を得ているから名優なのだろう。風貌はどことなくハンフリー・ボガートを想起させる。

2024年2月某日  備忘録295 デイヴィッド・リーンの初期映画 その3

情熱の友
1949英 デイヴィッド・リーン 評点【B】
三角関係を描いた恋愛ドラマだが、原作は未来小説で有名なH・G・ウェルズ、脚本はスパイ小説の大家エリック・アンブラーというのが面白い。アン・トッドは生物学者トレヴァー・ハワードと相思相愛だが、彼を振って銀行家のクロード・レインズと結婚する。それから数年後、彼女は夫の出張中にハワードと浮気するが、帰宅した夫に見つかる。夫のレインズは彼との関係を絶縁することを条件に妻を許す。さらに数年後、スイスに旅行に来た彼女のホテルに偶然ハワードが宿泊し、二人は一緒に湖で遊び、山に登るが、それを知った夫は激怒して離婚しようとする・・・というストーリー。映画はホテルに着いたアン・トッドの回想で始まり、3分の2を過ぎたあたりで現在の場面になる。全体の構成がよくできており、撮影と演出も見事なので、メロドラマ風だが退屈しない。最後は悲劇で終わるかと思いきや、ハッピーエンドになる。

マデリーン 愛の旅路
1950英 デイヴィッド・リーン 評点【C】
ゴシック・ロマン風の恋愛と犯罪をミックスさせたドラマ。実話に基づく映画だという。これも主演はアン・トッド。良家の長女マデリーンは貧しい青年と恋仲だが、厳格な父にそれを言い出せない。やがて彼女は青年の打算に気づき、父が薦める名家の息子との結婚を承諾する。それを知った青年は自分たちの関係をバラすと彼女を脅迫する。そして青年がヒ素中毒で死に、彼女が容疑者として逮捕される。最後の1/3ほどは法廷場面になる。彼女が犯人かどうかは最後までわからない。最初の2/3はメロドラマだが、これも撮影と演出がしっかりしており、見ていて飽きさせない。

2024年2月某日  備忘録294 デイヴィッド・リーンの初期映画 その2

大いなる遺産
1946英 デイヴィッド・リーン 評点【B】
原作は有名なディケンズの小説。これが2度目の鑑賞になる。田舎に住む孤児の少年が謎の人物からの金銭的援助でロンドンに出て紳士としての修行を積む話。主演はジョン・ミルズ。ミルズの親友役でアレック・ギネスが出演。撮影が見事で、田園地帯やロンドンの街並みの光景が鮮やかに映し出される。以前に見たときは主人公が恋に落ちる大邸宅の養女の少女時代を演じる16歳のジーン・シモンズの美しさに陶然となった。50年前のことになるが、この映画とオフィーリア役をやったオリヴィエの映画「ハムレット」を見て、たちまちシモンズのファンになったことを思い出す。

オリヴァ・ツイスト
1948英 デイヴィッド・リーン 評点【C】
これもディケンズの代表作の映画化。全部で5作ある映画版のなかの第3作。救貧院で虐待される孤児オリヴァーが夜逃げしてロンドンに行き、少年窃盗団に入って盗み方を仕込まれ、心優しい紳士に拾われて幸福を味わるが、再び窃盗団に連れ戻される。その間しだいにオリヴァーの出生の秘密が明らかになる。ストーリーの展開には不自然な箇所があるし、型通りの勧善懲悪物語なのも興を削ぐ。だがロンドンの貧民街の描写は見事であり、窃盗団の親玉フェイギンを演じるアレック・ギネスの凝ったメイクも一見の価値がある。

2024年2月某日  備忘録293 デイヴィッド・リーンの初期映画 その1

逢びき
1945英 デイヴィッド・リーン 評点【A】
ずいぶん昔に見た映画だが、細部を覚えていないので再見。いわずと知れた不倫恋愛映画の古典。デイヴィッド・リーンの細やかな演出、ノエル・カワードの含蓄ある原作・脚本、ロバート・クラスカーによる陰影に富んだ列車と駅舎の撮影、背景音楽として使われる美しいラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、主演のシリア・ジョンソンとトレヴァー・ハワードの自然な演技、どれをとっても文句のつけようがない完全無欠の名作。

陽気な幽霊
1945英 デイヴィッド・リーン 評点【D】
幽霊を題材にしたノエル・カワード原作のコメディ。主演はレックス・ハリソン。田舎に2番目の妻と住む作家が自宅に霊媒師を呼んで友人たちとともに降霊会を催すと、事故で亡くなった先妻の幽霊が現れる。彼にしか見えない幽霊は悪ふざけをして彼を困らす・・・というストーリー。最後のオチが効いているが、全体としてはあまり面白くない。


2023年12月

2023年12月某日  2023年海外ミステリ小説ベスト・テン

『頬に哀しみを刻め』S・A・コスビー (ハーパーBOOKS)
『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル (ハヤカワ・ミステリ)
『愚者の街』ロス・トーマス (新潮文庫)
『アーマード 生還不能』マーク・グリーニー(ハヤカワ文庫)
『8つの完璧な殺人』ピーター・スワンソン (創元推理文庫)
『渇きの地』クリス・ハマー(ハヤカワ・ミステリ)
『寒波:P分署捜査班』マウリツィオ・デジョバンニ(創元推理文庫)
『正義の弧』マイクル・コナリー(講談社文庫)
『処刑台広場の女』マーティン・エドワーズ (ハヤカワ文庫)
10『最終法廷:ヨアヒム・フェルナウ弁護士』エリザベート・ヘルマン(小学館文庫)

1位の「頬に哀しみを刻め」は緊迫感あふれるハードボイルド風犯罪小説。ゲイのカップルが殺され、彼らの父親が犯人を捜し出して復讐する話。父親のひとりはかつて犯罪者だったが今は更生して造園業を営む黒人、もうひとりはトレーラーハウスに住むアル中の貧乏白人。どちらも息子の性的嗜好に理解を示さなかったことを悔やんでいる。二人は最初のうち反発し合うが、しだいに仲間意識が芽生え、親近感を抱くようになる。人種偏見、性的偏見を背景にしたストーリーの展開がいい。憤怒と悔恨に駆られて犯人を追い詰める二人の中年男のコンビ、片方は寡黙で真面目な黒人、もう片方は軽薄でだらしない白人というキャラクターの造形が見事。◆2位の「真珠湾の冬」はいっぷう変わった叙事詩的ミステリー。1941年のハワイ、連続殺人事件を捜査する若い刑事が犯人を追って香港に行き、太平洋戦争が勃発して日本軍に捕えられるが脱走し、東京に流れ着き、官憲の目を逃れて生き延び、終戦後、ハワイに戻る、という波瀾万丈のストーリー。ヒルトンの「鎧なき騎士」を彷彿とさせる、歴史に翻弄される男の奇想天外な半生が描かれる。主人公が戦時下の東京で遭遇する恋愛や空襲が興味深い。大部の小説だが、物語の面白さに惹かれ、一気に読み終えてしまう。◆3位の「愚者の街」は初訳されたロス・トーマスの旧作。壮絶な過去を持つ元スパイが、腐敗した街をさらに腐敗させて再興するという仕事を依頼され、南部の小さな街に潜入する話。ハメットの「血の収穫」を下敷きにしているのは明らかで、登場するのはクセのある怪しげな人物ばかり、暴力と裏切りが充満している。ロス・トーマス特有の乾いたユーモアに心惹かれる。◆4位の「アーマード 生還不能」はグレイマン・シリーズのマーク・グリーニーによる新シリーズの第1作。義足をつけた退役軍人が民間軍事会社に雇われ、チーム・リーダーとして要人警護のためメキシコの麻薬カルテルの本拠地に赴き、欺瞞と裏切りのなか、生還しようとする。主人公が家族を愛する男であり、超人的な能力の持ち主ではない点、チームワークで任務を遂行する点がグレイマン・シリーズとは異なっているが、さすがにグリーニー、この新シリーズでも手に汗握る危機脱出行が繰り広げられる。◆5位の「8つの完璧な殺人」は、「ABC殺人事件」「見知らぬ乗客」「殺意」「赤い館の秘密」などの有名なミステリー小説の手口を模倣した殺人事件が発生し、ミステリー古書店主が女性FBI捜査官と手を組んで犯人を解明しようとする話。古典ミステリーへのオマージュが込められたサスペンス小説。

2023年12月某日  備忘録292 1960年代の東宝映画 その3 三船敏郎主演作品

怒濤一万浬
1966東宝 福田純 評点【D】
三船プロの製作。カナリア群島ラスパルマスを基地とするマグロ船の乗組員たちの物語。船の漁獲量が減り、てこ入れのため本社から新任の漁労長が送り込まれる。船長と乗組員は漁労長の厳格な方針に反発するが、漁をするうちに彼の力量が分かり、苦難を乗り越え団結して操業に精を出す。漁労長に三船敏郎、船長に三橋達也、船員のひとりに佐藤允、紅一点のラスパルマス病院の看護婦に浜美枝が扮する。ラスパルマスで現地ロケ、実際の船を使っての撮影で、かなり力のこもった映画だが、出来はお粗末。船員たちの心意気、友情、反発と和解などが描かれ、マグロ漁や嵐の光景はそれなりに迫力がああるが、ありきたりの筋立てと底の浅いヒューマニズムに終始している。

暴れ豪右衛門
1966東宝 稲垣浩 評点【C】
戦国時代、加賀の国における土豪と領主の戦いを描いた時代劇。土豪の頭目に三船敏郎、その妻に乙羽信子、三船の弟に佐藤允と田村亮が扮し、そのほか加東大介、西村晃、星由里子、大空真弓が出演する。これが「隊長ブーリバ」を下敷きにしていることは明らかだ。細かい設定は異なっているが、話の展開は「隊長ブーリバ」をほぼなぞっている。62年の米国映画「隊長ブーリバ」でのユル・ブリンナー役が三船敏郎であり、悲恋の恋人たちであるトニー・カーティスとクリスチーネ・カウフマンの役が田村亮と星由里子だ。稲垣浩はそつなく演出しており、騎馬による戦闘シーンも迫力があるが、侍を毛嫌いし集落を独裁的に支配する粗野な頭目に扮する三船の演技は、力が入りすぎて空回り気味。ここでも出番は少ないが星由里子の可愛さが絶品。

2023年12月某日  備忘録291 1960年代の東宝映画 その2 千葉泰樹監督作品

河のほとりで
1962東宝 千葉泰樹 評点【C】
石坂洋次郎原作のホームドラマ。東宝創立30周年記念と銘打たれており、配役はなかなか豪華。山村聰と草笛光子、加東大介と淡島千景、東野英治郎と乙羽信子、小林桂樹と池内淳子、加山雄三と星由里子というさまざまな夫婦や恋人カップルが織り成す、一種の群像劇に仕上がっている。会社重役の山村聰はかつて淡島千景と夫婦だったが、淡島はいとこの草笛光子に夫を寝取られて離婚し、いまは新しい夫の加東大介とともに熱海で旅館を経営している。星由里子は山村と草笛の娘で、加山雄三は加東と淡島の息子。山村が東京に帰る飛行機のなかで偶然、かつての妻、淡島と再会するところから話がスタートする。同じ大学に通っている加山と星はやがて恋仲になる。人間関係が複雑なわりには、話はよくまとまっている。とはいえ、石坂洋次郎特有の、出演者はみな善人であり、解放された性を謳歌するというテーマはあざとさが目立つ。出演者のなかでは、淡島千景のしっとりした大人の美しさと星由里子の若々しいピチピチした美しさが出色。

河内フーテン族
1968東宝 千葉泰樹 評点【D】
今東光原作のコメディ映画だが、締まりがなく盛り上がりに欠けている。20年ぶりに河内に舞い戻った元やくざが、悲恋の恋人たちの結婚を仲立ちし、新興やくざと対決し、町内に遊興施設を作り、新風を吹き込む話。主演はフランキー堺。原作者の分身の和尚にハナ肇が扮する。コメディだが、人情映画、任侠映画風の雰囲気もあり、中途半端であまり面白くない。フランキーの妹を演じる酒井和歌子の可愛さが印象に残る。町内の祭りでフランキーが本職のドラムスを叩くシーンでラストとなる。

2023年12月某日  備忘録290 キャロル・ロンバート主演のコメディ映画

襤褸と宝石
1936米 グレゴリー・ラカーヴァ 評点【C】
スクリューボール・コメデイの名作とされている映画。主演はウィリアム・パウエルとキャロル・ロンバード。富豪の娘ロンバードはパーティの余興の「屑探し」競争で薄汚いルンペンのパウエルを連れていき、一等賞を得る。それをきっかけにロンバードはパウエルを家の召使いに雇う、という出だしで話が展開する。ロンバードの住む家は本人をはじめ、父親、母親、姉、居候の男など、奇人変人ばかり、パウエルは身なりを整えると立派な男に変身し、有能な召使いとしての働く。そんなパウエルにロンバードが惚れる。だがパウエルはただのルンペンではなかった。前半は洒落た会話やシチュエーションの面白さもあって快調に進むが、後半は失速する。上流階級への風刺も全体としてお座なりの感がある。

無責任時代
1936米 ウィリアム・A・ウェルマン 評点【B】
スクリューボール・コメディの女王キャロル・ロンバードの代表作と言われる映画。当時にしては珍しくカラー撮影であり、ロンバードをカラーで見られる映画はこれ1本しかない。共演はフレドリック・マーチ。新聞記者マーチの言葉に乗せられ田舎町からニューヨークにやって来たラジウム中毒で余命幾ばくもないロンバードをめぐる珍騒動が描かれる。ニューヨークは市を挙げて彼女を歓迎し、新聞記者は彼女の独占記事を書くが、じつは彼女はニューヨークに行きたいため病気が誤診だったことを隠していた。新聞社は売り上げ至上主義で悲劇を演出し、大衆はそれに乗せられて熱狂するという話の流れは、キャプラの「群衆」を思わせる。終盤のロンバードとマーチの寝室での殴り合いが見もの。ロンバードの体当たり演技はなかなかの迫力で魅力を全開させる。

2023年12月某日  備忘録289 画家を題材にしたハリウッド製伝記映画

赤い風車
1952英・米 ジョン・ヒューストン 評点【B】
19世紀末、名門貴族の息子だったが、脚の発育が止まり矮人になり、パリのムーラン・ルージュを毎晩訪れ、安酒場や娼館に入り浸って絵を描き続けたロートレックの伝記映画。主演はホセ・ファーラー。映画はハリウッド風に脚色されており、ロートレックは心の底に優しさを持っているものの、表面的には傲慢で自己嫌悪する孤独な男に設定されている。彼は粗野な娼婦と同棲するがあまりの性悪さに耐えきれず追い出し、知的で気品のある仕立て屋のマヌカンから好かれるが愛を信じられず身を引き、酒に溺れる。だが実際のロートレックは陽気で明るく、キャバレーの芸人たちから好かれ、多くの女たちと関係をもったという。しかし映画としての出来は素晴らしい。冒頭の20分、ムーラン・ルージュの店内の描写が圧巻。踊り子たちの激しい踊り、カンカンの群舞、酔客の狂態、それを隅のテールで鮮やかにスケッチするロートレック、閉店してひとり寂しく帰路に就く彼の姿がたたみかけるように映し出される。死の床で彼がそれらを幻視するエンディングも秀逸。パリ下町の歓楽街のセットが見事だし、有名なポスター「ムーラン・ルージュのラ・グリュ」の制作過程を物語る挿話も興味深い。出演者のなかではマヌカン役のシュザンヌ・フロンのどことなくデボラ・カーを思わせる美しさが忘れがたい。ジョルジュ・オーリック作の流麗な主題歌はパーシー・フェイスの演奏でヒットした。

炎の人ゴッホ
1956米 ヴィンセント・ミネリ 評点【C】
天才画家ゴッホの伝記映画。主演のゴッホ役はカーク・ダグラス、アンソニー・クインが友人ゴーギャン役で出演。牧師として貧しい炭坑夫を助けようとして挫折し、画家を志すが父母と不和になり、従姉への失恋、娼婦との同棲を経て、パリに出て修行、その後アルルへ移住し、黄色い家にゴーギャンを呼び寄せるも友情が決裂、耳切り事件のあとサンレミ療養所での精神病の治療、オーヴェルで最後の日々過ごすに至る、ゴッホの痛ましい不運な生涯がていねいに綴られる。ゴッホが本格的に絵を描いたのはほぼ4年間だった。その点では同じく4年間しかプロとしての活動しなかったクリフォード・ブラウンを想起させる。短期間でかなりの作品を世に送り出した点でも共通している。ゴッホは善意でした行為が裏切られ、絵が売れず貧乏生活を送り、それでも魂に突き動かされて描き続けた。その間、弟テオが一貫してゴッホを支えた。この映画は映像の美しさが印象深い。随所にゴッホの代表的な絵が挿入され、有名な「夜のカフェテラス」や「跳ね橋」などの風景が映し出される。パリ時代の日本の浮世絵から受けた影響やロートレックなどの画家たちとの交友がほとんど描かれていないのが難点か。カーク・ダグラスはひげ面の風貌がゴッホが描く自画像とそっくりで、力演している。耳切りに関して、ゴッホの自画像だと右耳に包帯を巻いているが、映画では左耳を切り落としているのはなぜだろう。


2023年11月

2023年11月某日  備忘録288 1960年代の東宝映画 その1

恐怖の時間
1964東宝 岩内克己 評点【D】
エド・マクベイン作87分署シリーズの一作「殺意の楔 」を翻案映画化したもの。自分の恋人を射殺された若い男が警察署に押し入り、拳銃とニトログリセリンを持って刑事たちとともに立てこもり、復讐するため恋人を撃った若い刑事が帰ってくるのを待つ、というストーリー。犯人の男を山崎努、刑事部屋の刑事たちを志村喬や土屋嘉男など、若い刑事夫婦を加山雄三と星由里子が演じる。サスペンスはあるが、どこか間延びしており、犯人逮捕の瞬間もあっけなく、いまいち盛り上がりに欠ける。


1968東宝 森谷司郎 評点【C】
弁護士の正木ひろしが戦時中の1944年に実際に携わった首なし事件を題材とした、地味だが骨太の映画。脚本は橋本忍。小林桂樹が主演の正木に扮している。炭坑業者が警察の取調中に死亡する。警察は脳溢血として処理しようとするが、拷問による殴打が原因だとにらんだ正木は埋葬された被害者の首を切り取って東大法医学の権威に鑑定を依頼する。小林桂樹の熱演が見もの。

2023年11月某日  備忘録287 1950年代の東宝映画 その2

槍一筋日本晴れ
1959東宝 青柳信雄 評点【B】
講談などで有名な槍の名人、俵星玄蕃を主人公とする、一種の忠臣蔵外伝。バイプレイヤーとして知られる加東大介が珍しく主演を務める。貧乏だが信義に篤い俵星玄蕃は江戸の裏町で槍の道場を開いている。俵星が吉良家に召し抱えられると伝え聞いた赤穂浪士の一人が実状を探るため身分を偽り弟子入りする。物語はユーモアを交えながら軽快に進む。討ち入りのシーンに続くエンディングも好ましい余韻を残す。加東大介の大らかな風貌が印象深い。俵星の従者=森川信、飲み屋の夫婦=柳家金語楼と清川虹子、道場主=上田吉次郎、ちんぴら旗本=脱線トリオなどのコミカルな演技が笑いを誘う。二人の女優が出色であり、俵星に惚れている芸者=藤間紫の艶やかな色気は眼福だし、赤穂浪士=小泉博を慕う飲み屋の娘=八千草薫の可憐な美しさも絶品。

幽霊繁盛記
1960東宝 佐伯幸三 評点【C】
落語「死神」を下敷きにしたブラック・コメディ。江戸の葬儀屋=フランキー堺は医者の娘=香川京子と駆け落ちするが、商売がうまくいかない。彼は死に時が分かる死神=有島一郎と知り合い、死神と組んで医者を開業して大繁盛する。だがある日、嫁の香川が重病に陥る。棺桶を担いで歩き回るフランキーのバイタリティあふれる動きが見事。香川はいつもながらしっとりした美しさを発散する。しかし、この映画の最大の見どころは死神役の有島のとぼけた演技だ。ほかに柳家金語楼や森川信などの喜劇役者が賑やかに脇を固めている。

2023年11月某日  備忘録286 1950年代の東宝映画 その1

乱菊物語
1956東宝 谷口千吉 評点【C】
谷崎潤一郎原作の伝奇歴史小説の映画化。室町末期、瀬戸内海の港を舞台とするチャンバラ時代劇。主演は池部良と八千草薫。高級遊女の八千草薫と港人足の池部良は赤松家に滅ぼされた名家の遺児、彼らは港にやって来た悪辣な赤松家の当主を倒して恨みを晴らし、船で旅立つ、という新諸国物語風の勧善懲悪物語。池部良が珍しく演じる殺陣はあまり板に付いていない。八千草薫の美しさが際立っている。


1956東宝 稲垣浩 評点【C】
大学教授が男手一つで子供たちを育て上げる話。島崎藤村の原作。主演は笠智衆と田中絹代。フランス文学者の笠智衆は辞典を執筆しながら、女中の田中絹代に助けられ、苦労して4人の子供を育てる。紆余曲折を経て子供たちは大人になり、巣立って社会に出ていく。加東大介や中北千枝子が共演しており、物語の内容や配役からして松竹の家庭映画を思わせる。

2023年11月某日  備忘録285 黒澤明が脚本を書いた映画 その2

荒木又右衛門 決闘鍵屋の辻
1952東宝 森一生 評点【B】
日本三大仇討ちのひとつ、伊賀越の仇討ちの映画化。冒頭、白装束に白塗り、額の鉢巻きに手裏剣を差した三船敏郎が敵をバッタバッタと斬り倒すシーンが映され、「荒木又右衛門は、巷説では36人斬りと言われているが実際に斬ったのは2人であり、相手の頭目、河合甚左衛門は悪辣な人物ではなく情に篤い武士であった」というナレーションが入り、本編が始まる。鍵屋の辻で、4人の侍、リーダーの荒木又右衛門、仇討ち当人の渡辺数馬と2人の郎党が、仇の一行を待ち伏せしている。彼らの回想により、仇討ちするに至った経緯、又右衛門と敵のリーダー甚左衛門との友情、仇を探し歩いた5年間の労苦が描かれる。そして仇の一行が姿を見せる。主演の又右衛門を三船敏郎が演じ、彼の親友だが決闘で斬り結ぶ甚左衛門に志村喬、郎党に加東大介と小川虎之助、仇の河合又五郎に千秋実が扮する。この映画の大きな見どころは最後の決闘の場面がじつにリアルに生々しく描かれていることだ。泰平の世の寛永年間、彼らは誰も刀で人を斬ったことがない。だから、新陰流の達人である又右衛門を除いて、刀を構える彼らはへっぴり腰だし、やみくもに刀を振り回す。こうして、娯楽ちゃんばら映画ではない、リアリズムに徹した見事な時代劇が出来上がった。脚本を書いた黒澤明はおそらくこの映画での経験を生かして2年後に「七人の侍」を作ったのであろう。それかあらぬか、この映画の主要な俳優はそっくりそのまま「七人の侍」にも出演している。そして監督、森一生の演出力も称賛に値する。仇の一行を待つあいだに醸し出される緊張感は素晴らしいし、戦闘が開始される直前の郎党たちの手足の震えや、しだいに集ってきて見物する村人たちの描写も鮮やかだ。

獣の宿
1951松竹 大曾根辰夫 評点【D】
閉ざされた状況で繰り広げられるサスペンス・ドラマ。強盗殺人犯の男=鶴田浩二が湖畔のホテルに転がり込む。ホテル支配人=志村喬はやくざから足を洗った男であり、かつての親分から頼まれて鶴田を匿う。ホテルの雑用を務める志村の孫娘=岸惠子は鶴田に言い寄られるが、志村は鶴田から過去をばらすぞと脅され、追い出すことが出来ない。そこに警察が現れホテル内を捜索しようとすると、志村は岸に指示して鶴田を密かに近くの小屋に逃がす・・・というストーリー。この映画のシチュエーションは「銀嶺の果て」を思い起こさせる。若い鶴田浩二は虚無的な極悪チンピラやくざを好演しているが、黒澤の脚本はお粗末であり、不自然でご都合主義の箇所が多く、祖父と孫娘の関係もお涙頂戴風に描かれており、サスペンスが盛り上がらない。

2023年11月某日  備忘録284 黒澤明が脚本を書いた映画 その1

ジャコ萬と鉄
1949東宝 谷口千吉 評点【C】
北海道のニシン漁場を舞台にしたアクション・ドラマ。黒澤明が監督の谷口千吉と共同で脚本を書いた。三船敏郎演じる鉄と月形竜之介演じるジャコ萬の喧嘩がひとつの見せ場になっている。網元が安い賃金で出稼ぎ漁師をかき集める。そのなかの一人、片目の乱暴者のジャコ萬は網元に恨みを抱いており、仕事もせず酒ばかり飲んでいる。そこに戦死したと思われていた網元の息子、鉄が帰ってくる。鉄は率先して働くいっぽう、ジャコ萬と反目して喧嘩を繰り返す。やがてニシンの群れが押し寄せ、漁の時がやって来るが・・・という物語。「静かなる決闘」に続く映画出演の三船は明るい好青年を演じて新生面を開き、南洋で覚えた珍妙な踊りを宴会で踊って茶目っ気を披露し、休日には犬ぞりで町に出て教会でオルガンを弾く美少女を憧れの目で見つめ純朴さを醸し出す。まだ若い月形も荒くれ男のジャコ萬を実直に演じる。だが見せ場であるはずのこの二人の喧嘩は意外に迫力がない。ジャコ萬は悪役だが人間的な一面も見せる人物であり、最後に二人は気持ちを通い合わせる。脚本は分かりやすいが、不自然な展開やわざとらしい挿話が散見される。強欲な網元に進藤英太郎、その娘夫婦に清川虹子と藤原釜足が扮する。オルガン弾きの少女を演じる久我美子はまだ太っていた頃で、良家の子女風ではあるが美少女には見えない。のちに東映が高倉健、丹波哲郎の主演でリメイクした。

殺陣師段平
1950東映 マキノ正博 評点【C】
大正時代の大阪、リアルな剣戟を模索する新国劇の座長、澤田正二郎のもとで新しい殺陣を生み出そうとする殺陣師、市川段平の苦闘を描いた一種の芸道映画。新国劇で殺陣師を務める段平=月形竜之介は、髪結いの女房=山田五十鈴と義理の娘=月丘千秋と暮らしている。座長の澤田正二郎=市川右太衛門はリアリズムに則った立ち回りを求めており、段平の歌舞伎のような古いスタイルの殺陣を否定する。段平は酔ったあげくの喧嘩からヒントを得て新しい殺陣を編み出し、新国劇の時代劇は人気を博する。しかし東京に進出した一座の興行は不評で、段平は苦悩する・・・というストーリー。月形竜之介は一世一代の演技を披露し、無学文盲で酒好き、家庭を顧みない頑固者を見事に演じる。いつもながら世話女房を演じる山田五十鈴も巧い。全体に大正時代の情緒が巧みに描き出されている。しかし、主人公の挫折と飲酒、女房の病気と死と、あまりに定番の浪花節的な筋立ては、いかにも古臭い。また、段平がどんな新しいスタイルを編み出したのかが判然とせず、終盤の死の床で段平が演じた殺陣を娘の月丘千秋が身をもって舞台の澤田正二郎に伝える場面もどんな殺陣なのかよく分からない。これものちに大映で中村鴈治郎、市川雷蔵主演でリメイクされている。

2023年11月某日  備忘録283 デイヴィッド・リンチの映画

イレイザーヘッド
1977米 デイヴィッド・リンチ 評点【D】
デイヴィッド・リンチの監督第1作でカルト映画の元祖と称される作品。何が何だが分からない理解不能な映画だ。イレイザーヘッドとは鉛筆の頭に付いている消しゴムを意味する。イレイザーヘッドのような頭の工員が主人公。彼は恋人が妊娠したので結婚する。家族は彼の安アパートで暮らし始める。生まれた子供は胎児のようなグロテスクな姿をしている。赤児の夜泣きに耐えられず、妻は実家に帰り、彼はひとりで赤児の面倒見なければならなくなる、というのが前半のストーリー。映画ではそこから意味不明な映像がつぎつぎに映し出される。市松模様の床や劇場で女が歌うショットはその後のリンチ映画でもしばしば登場する。町山智宏さんの解説によると、これは若いころのリンチが見た悪夢であり、父親になることと生まれる生命への恐怖が描かれているという。虫のような胎児が随所に現れ、登場人物がそれを踏み潰したり壁に投げつけたりするシーンにはリンチのそんな気持ちが投影されているのだろうか。キャプラの「素晴らしき哉人生」とポランスキーの「反撥」に触発されたとのことだが、そういう印象は希薄で、むしろブニュエルの「アンダルシアの犬」などのシュールレアリスム映画との関連を強く感じる。

マルホランド・ドライヴ
2001米 デイヴィッド・リンチ 評点【C】
ハリウッドを舞台にした謎が謎を呼ぶミステリアスなドラマ。LAのマルホランド・ドライヴで車の衝突事故が発生、一人だけ助かった黒髪の女はハリウッドの街に行き、一軒の留守宅に忍び込む。そこに女優のオーディションを受けるため田舎から出て来た金髪の女がやって来る。黒髪の女は記憶を喪失しており、自分が誰か分からない。持っていたバッグのなかには大金が入っている。金髪の女は黒髪の女を助けて記憶を取り戻させようとする・・・というのが出だしのストーリー。このあと、話は二転三転し、脈絡なく訳の分からないエピソードが挿入され、見る者は迷宮に入り込んだような気分を抱く。黒髪の女を演じるローラ・ハリングは暗い雰囲気を漂わせる古典的な顔立ちの美女、金髪の女に扮するのは小生が好きな女優のひとりナオミ・ワッツで、明るいヤンキー娘タイプの美女。この対照的な取り合わせは面白いが、「ツイン・ピークス」に出ていた小人が赤いカーテンの部屋にいるシーンや、司会者が「楽団はいません」と告げる劇場のシーンは意味不明だし、青い箱が何なのか判然としないし、映画監督、カウボーイ、殺し屋などにまつわるエピソードも不可解だ。後半は主演の二人の女が別の名前で登場し、悪夢を見ているような気持ちにさせられる。おそらく、それが監督の意図なのであろう。

2023年11月某日  備忘録282 ミュージシャンの伝記映画

ギター弾きの恋
1999米 ウディ・アレン 評点【B】
これは以前、映画館で見ており、2度目の鑑賞になる。架空のミュージシャンの生涯を描く人を食った音楽映画。出演はショーン・ペン、サマンサ・モートン、ウマ・サーマン。1920年代のアメリカ、楽器の腕は天才的だが我が儘で傲岸不遜なギタリストが主人公。彼はジャンゴ・ラインハルトを敬愛しており、いつも「俺は世界最高のギタリストだが、ジャンゴにだけは敵わない」と公言している。彼は男に尽くす心のやさしい唖の洗濯婦と親しくなり同棲するが、彼女を捨てて金持ちの美女と結婚する。やがて彼は離婚し、洗濯婦とよりを戻そうとするが、彼女がほかの男と家庭を持っているのを知り、愛する人を失ったことを覚って慨嘆する。前に見たときは気づかなかったが、これは明らかにフェリーニの「道」が下敷きになっている。ノスタルジーととぼけた味わいとそこはかとない哀感はウディ・アレンならではのもの。ショーン・ペンもサマンサ・モートンも抑えた演技で好ましい雰囲気を醸し出している。監督のアレンをはじめ、ナット・ヘントフなどの評論家や文化人が登場してこのミュージシャンに関する逸話を披露し、偽の伝記の本物らしさを強調する。ジャンゴの演奏など、スイング時代のノスタルジックな音楽が全編に散りばめられている。

レイ
2004米 テイラー・ハックフォード 評点【B】
レイ・チャールズの伝記映画。実際の出来事にかなり忠実に作られており、チャールズがミュージシャンとして成功する過程とともに、彼のどうしようもない女好きな性格やヘロイン中毒に陥って苦しむ状況など、負の側面も描かれる。主演のジェイミー・フォックスは本人と見まごうほどチャールズになり切っている。「ホワッド・アイ・セイ」「我が心のジョージア」「旅立てジャック」「愛さずにはいられない」など、つぎつぎに歌われるチャールズのヒット曲は聴きごたえがある。チャールズ本人がこの映画の撮影に協力していたが、公開の数ヵ月前に亡くなったという。

2023年11月某日  備忘録281 近年のミュージカル映画

ムーラン・ルージュ
2001豪・米 バズ・ラーマン 評点【C】
これはミュージカル映画だが、ある意味でミュージカルのパロディと言えるだろう。内容はキャバレーの高級娼婦と作家を目指す若者の悲恋物語。19世紀末のパリ、モンマルトルの安宿に住む作家志望の若者=ユアン・マクレガーは、キャバレー、ムーラン・ルージュの花形ダンサーで高級娼婦のニコール・キッドマンと恋仲になる。だが彼女はキャバレー・ショウのスポンサーである公爵に夜の相手をするよう強要され、思い悩む。この映画は映像の変化や場面展開がが目まぐるしく、ロートレックやサティなどの有名人も脇役で登場し、衣装や舞台装置は派手でけばけばしく、乱痴気騒ぎの狂躁的なダンス・シーンが頻出する。もっとも特異なのは音楽に既成の有名曲が使われていること。キング・コールの「ネイチャー・ボーイ」をはじめ、ジュリー・アンドリュースの「サウンド・オブ・ミュージック」、マリリン・モンローの「ダイヤは女の最高の友」、エルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌」、マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」、ビートルズの「愛こそはすべて」など、新旧のさまざまなヒット曲がつぎつぎに歌われ、踊られる。

シカゴ
2002米 ロブ・マーシャル 評点【C】
1920年代のシカゴ、ショー・ビジネスの世界でスターになるのを夢見る女をコメディ・タッチで描いたミュージカル。男を殺して刑務所に入った女が辣腕弁護士の助けで裁判で勝訴し、体験を売りものにして歌手&ダンサーとして人気を得る。主演はレニー・ゼルウィガーとリチャード・ギア。ゼルウィガーとチームを組む女にキャサリン・ゼタジョーンズ。話の流れとダンスの組み合わせ方に新味があり、ショー・ビジネスのへの風刺が込められているのも興味深いが、アカデミーの作品賞を受賞するほどの秀作とは思えない。ラストの金髪ゼルウィガーと黒髪ゼタジョーンズのコンビによるダンスは、ホークスの「紳士は金髪がお好き」でのマリリン・モンローとジェーン・ラッセルのダンスを彷彿とさせる。

2023年11月某日  備忘録280 ルネ・クレマンの映画

パリは燃えているか
1966仏・米 ルネ・クレマン 評点【C】
1944年8月のパリ解放を題材とする実話に基づく戦争映画の大作。レジスタンスの蜂起、ドイツ軍によるパリ破壊工作、レジスタンスによる連合軍への進軍要請、米仏合同部隊によるパリ突入などが克明に綴られる。クレマンは記録フィルムも挿入し、ドキュメンタリー・タッチで撮影している。アラン・ドロン、ジャンポール・ベルモンドをはじめ、シャルル・ボワイエ、イヴ・モンタンなどフランス男優陣は豪華だが、女優はシモーヌ・シニョレのみで、映画の性格上しようがないとはいえ、かなり物足りない。ほかにアメリカからはオーソン・ウェルズ、カーク・ダグラス、グレン・フォード、アンソニー・パーキンス、ドイツからはゲルト・フレーベが出演。映画はレジスタンスや仏軍兵士たちの英雄的行動を描くことに終始しており、ドゴールと左派勢力との確執、連合軍司令部の思惑、ドイツに送られた政治犯たちの行く末、解放直後から始まったパリ市民によるナチ協力者へのリンチや虐殺などに触れておらず、底が浅いとの感は否めない。パリを破壊しろというヒットラーの命令に従わず無条件降伏する独軍司令官コルティッツ役のフレーベが存在感を発揮している。フォスカー・シュレンドルフは2014年にこのコルティッツを主人公とする映画「パリよ永遠に」を撮った。

雨の訪問者
1970仏 ルネ・クレマン 評点【D】
ルネ・クレマン後期のサスペンス映画。若い人妻が家に押し入った暴漢にレイプされる。彼女は地下室に潜んでいたその男をショットガンで撃ち殺し、死体を海に投げ捨てるが、翌日から不審なアメリカ人の男が彼女につきまとい始める。主演はマルレーヌ・ジョベールとチャールズ・ブロンソン。ていねいに作られてはいるが、ジョベールに女としての魅力が乏しく、フランシス・レイの安っぽい音楽が興を削ぎ、サスペンスが盛り上がらない。クレマンの映画は60年代半ば以降、かつての鋭い切れ味が消え失せ、凡庸なものになった。唯一の例外が最晩年の「狼は天使の匂い」であり、これはロバート・ライアンが渋い存在感を放つ不思議な魅力をたたえた傑作だった。

2023年11月某日  備忘録279 オムニバス映画の面白さ その2

黄色いロールス・ロイス
1964英 アンソニー・アスキス 評点【B】
欧米各国の著名スターが出演した3話からなるオムニバス映画。よく出来た良質の娯楽作。第2次大戦前のヨーロッパを舞台に、1台のロールスロイスをめぐる悲喜こもごものドラマが綴られる。第1話は30年代のロンドン、金持貴族が妻に贈った車の車内で妻が部下と浮気しているのを見つける。主演はレックス・ハリスンとジャンヌ・モロー。いかにも英国らしい皮肉とユーモアがほどよく塗されている。第2話はそれから数年後のイタリア、米国のギャングが車を買い、手下の運転で情婦とともに観光旅行する。ギャングが一時帰国中、情婦は途中で知り合った観光客相手のカメラマンの青年と恋に落ちる。主演はジョージ・C・スコット、シャーリー・マクレーン、アラン・ドロン。マクレーンが蓮っ葉だが情にもろい女を巧みに演じ、スコットもイタリア系ギャングの役にぴったりはまっている。一見、観光映画風だが、ユーモアと哀感がないませになった好編。第3話は41年のユーゴスラビア、イタリアで車を買い、国王に拝謁するためユーゴを訪れた米国の富豪夫人が、侵攻したドイツと戦うパルチザンを助けて活躍する。主演はイングリッド・バーグマンとオマー・シャリフ。バーグマンはこのころ50歳だがまだ十分に美しい。パルチザンの仲間とともに車を運転し山道を走るバーグマンは20年前の「誰が為に鐘は鳴る」の彼女の姿と重なる。

おかしなホテル
1971米 アーサー・ヒラー 評点【B】
ニューヨークのプラザ・ホテル、719号室で繰り広げられる3話からなるオムニバス映画。脚本はニール・サイモン。主演のウォルター・マッソーはそれぞれの挿話で異なった役柄を演じて大奮闘、コメディ役者としての本領を見せる。第1話は結婚20年数年目を思い出のこの部屋で過ごすために訪れた夫婦が口論となり、夫が浮気を告白して妻が怒りを爆発させるという意外にシリアスな話。共演はモーリン・ステイプルドン。第2話は女好きのハリウッド・プロデューサーが部屋に学生時代の恋人を呼び寄せる艶笑喜劇。共演はバーバラ・ハリス。男は懸命に口説くが、女はすぐ帰ると言い出す。彼は映画スターの名を出すと彼女がなびくのに気がつき、いろんなスターの話を並べ立ててベッドに誘い込む。一番面白い第3話はこのホテルで結婚式を挙げる家族の騒動を描いた抱腹絶倒のコメディ。共演はリー・グラント。両親は式の時間になっても部屋の洗面所に閉じこもっている娘をなんとか出てこさせようと悪戦苦闘する。マッソーは扉に体当たりして肩を痛め、窓伝いに洗面所に入ろうとして雨に降られびしょ濡れになる。

2023年11月某日  備忘録278 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの映画 その2

ローラ
1981独 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 評点【B】
これはスタンバーグの「嘆きの天使」を下敷きにした映画とのことだが、内容と趣はかなり異なっており、「嘆きの天使」はモチーフとして使われているにすぎない。戦後10年経った西ドイツのある田舎町が舞台。バーバラ・スコヴァ演じるローラという傍若無人の奔放な娼婦が主人公。彼女は地元の利権を牛耳る土建業者に囲われている。町にやって来た新任の建設局長がもうひとりの主人公。彼は堅物で不正を許さない真面目な中年男。ローラは貴婦人を装って局長を誘惑し、局長はローラの魅力のとりこになる。だがローラが娼婦で土建屋の女だと知って愕然とした局長は、町の開発計画を白紙に戻し、土建屋の不正を告発しようとする。しかし彼は町の秩序が利権構造によって保たれており、不正の告発が誰からも支持されないのを知り、娼館に行ってローラを買い、開発計画を承認し、彼女と結婚する。ここで描かれているのは、戦後復興に湧くドイツにおける欺瞞と退廃だ。欺瞞を正そうとする者もその退廃に絡め取られる。局長をたらしこむローラは時おり同情と悲しみが入り交じった表情を見せるが、結局はビッチの本性をさらけ出す。映画は結婚式の日にローラが新郎を差し置いて娼館に行き、土建屋とベッドになだれ込むシーンでエンドとなる。けばけばしいライトのなか、娼婦たちが半裸で動き回る娼館のシーンが印象深い。社会秩序のなかに戦前と変わらぬ欺瞞と退廃が根づいている戦後ドイツの状況が皮肉と悲哀を込めて描かれている。

ヴェロニカ・フォスのあこがれ
1982独 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 評点【B】
ネオ・ノワールの秀作とされており、以前から見たいと思っていた映画。ファスビンダーの西ドイツ3部作の最終作。50年代半ばのミュンヘン、戦前は大スターだったがいまは忘れられた映画女優と、彼女と偶然知り合ったスポーツ記者との出会いと交情が描かれる。ジビレ・シュミッツという実在した女優がモデルだいう。記者は彼女と付き合いながらその過去と身辺を調査する。彼女はいまも自分が有名だと信じており、知り合いに声をかけて映画界に復帰しようとするが、神経に異常を来たしており、財産を巻き上げようと企む悪徳精神科女医に騙されて薬漬けになっている。記者は女医の悪行を暴き、彼女を窮地から救おうとする。この映画はなんといってもモノクロの撮影が素晴らしい。雨のシーンが多く、女優と記者が出会うのも雨が降りしきる公園である。女優は記者が差し出す傘に入り、路面電車に乗る。雨の舗道、アパートの階段など、陰影のある奥深い映像はフィルム・ノワールそのものだ。当然ながら、この映画は「サンセット大通り」を彷彿とさせる。ゲッベルスの情婦だった過去を持つ女優、骨董屋を営むユダヤ人の老夫妻などの挿話は、歴史が現在にも影を落としていることを示している。記者役を小男の貧相な俳優に演じさせているのは何か意味があってのことだろうか。女医の診療所に入り浸る麻薬調達の黒人米軍兵士が奇妙な存在感を放っている。

2023年11月某日  備忘録277 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの映画 その1

マリア・ブラウンの結婚
1979独 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 評点【C】
戦後混乱期のドイツで逞しく生きる女を描くドラマ。戦後混乱期に生きる女という点では成瀬巳喜男の「浮雲」を、そしてしたたかに生きる女という点では同じく成瀬の「あらくれ」を思い起こさせる。第2次大戦末期のドイツ、マリアは爆撃のなかで結婚式を挙げる。夫は翌日、戦地に向かった。戦後、彼女は帰ってこない夫を必死で探すが、戦死したと知らされる。彼女はGIバーに務め、黒人米兵と暮らし始めるが、死んだはずの夫が帰還し、争いの最中、米兵を殴打して殺す。夫が罪を被って服役し、彼女はフランス人実業家の秘書として働き始める。彼女は実業家の愛人になり、ビジネスの手腕を発揮して経営者として成功するが、いまなお夫を愛しており、毎週刑務所に面会に行く。そして事態は急変する・・・というストーリー。この映画は筋立てにあまりまとまりがなく、不自然な話の展開も多い。しかし、銃弾が飛び交うベルリンの街で挙式する冒頭のシーンから、ドイツのワールドカップでの初優勝を実況中継するラジオ放送が流れるなかで壮絶な爆発が起きるラスト・シーンまで、戦後10年間のドイツ社会の変遷が巧みに描かれている。マリアだけでなく、ここに登場する女たちはみな弱さを見せず生活力が旺盛だ。主演のハンナ・シグラは妖艶さとふてぶてしさを併せ持つ女を魅力たっぷりに演じている。

リリー・マルレーン
1981独 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 評点【C】
第2次大戦下のドイツで「リリー・マルレーン」を歌って人気歌手になったララ・アンデルセンの伝記映画。主演はハンナ・シグラ。映画での主人公の名前はビリーになっており、史実に基づきながらもかなり自由に脚色されているようだ。主な舞台はベルリンとスイス。ビリーが吹き込んだ歌「リリー・マルレーン」は戦場の兵士たちに愛され、爆発的にヒットしたが、彼女は恋人のユダヤ人と離ればなれになる。彼女はナチスのプロパガンダに利用されるが、恋人との再会を熱望し、ひそかにユダヤ人の抵抗運動に手を貸す、というのが大筋だが、ストーリーは入り組んでおり、場面の展開が目まぐるしいので、見ているとくたびれてくる。キャバレーでどんちゃん騒ぎするナチスの将兵たちのシーンは「地獄の堕ちた勇者ども」を思い起こさせる。終戦後、恋人と会うためスイスにやって来た彼女が苦い現実を味わい、静かに立ち去るラスト・シーンが印象に残る。青春時代の思い出に刻み込まれている我が愛しのクリスチーネ・カウフマンが、若いころとは似ても似つかぬ妙にのっぺりしたおばさん顔の女として登場したので驚いた。

2023年11月某日  備忘録276 独立プロの映画

女ひとり大地を行く
1953独立プロ 亀井文夫 評点【C】
冒頭に「炭鉱労働者が33円ずつ資金を出し合って製作された」というクレジットが入る。戦前の1930年代から戦後の50年代まで、ひとりの女が炭鉱労働者となり、2人の子を育てながら懸命に生きてきた足跡が描かれる。主演は山田五十鈴。炭坑での苛酷な労働、悲惨な炭坑事故、徴兵、朝鮮戦争による無茶な増産、ストライキによる会社との抗争などのエピソードが挿入される。秋田に住む貧農一家の夫、宇野重吉は生活苦のため妻子を残して北海道の炭坑に働きに出るが、タコ部屋での奴隷生活に耐えかね、脱走して消息を絶つ。妻の山田五十鈴は2人の幼い息子を連れて炭坑に行くが、夫は死んだと聞かされ、女坑夫として働きながら子供を育てる。次男に内藤武敏、その恋人に岸旗江、そのほか、花沢徳衛、加藤嘉、沼崎勲などが出演する。映画ではどこの炭坑か明示されないが、主として夕張炭坑でロケされたという。記録映画出身の監督らしく、坑内の様子や抗夫の労働、彼らの家族が住むボロ長屋がドキュメンタリー・タッチで克明に映し出される。映画は悪辣な資本家と勤勉な労働者の対立という図式に基づいて構成されており、最後は労働組合と共産党のプロパガンダで終る。

愛すればこそ
1955独立プロ 吉村公三郎ほか 評点【D】
独立プロ制作の3話からなるオムニバス映画。第1話「花売り娘」は吉村公三郎監督、乙羽信子主演。バーの雇われマダムと花売りの少女との交流が描かれる。第2話「とびこんだ花嫁」は今井正監督、香川京子と内藤武敏主演、川崎の工場で働く男が、自分の安アパートにとつぜん田舎から花嫁がやって来て右往左往するユーモラスな話。第3話「愛すればこそ」は山本薩夫監督、山田五十鈴主演。競輪場で働く貧しい家庭の主婦が、男と暮らすため家を出ると言い出した家計を支える長女と諍いになる。作品には全体として生活は貧しいが明るく生きようというメッセージが込められており、左翼的な傾向が強く、当然ながら底が浅い。主演者たちをはじめ、神田隆、殿山泰司、久我美子、山村聰などの俳優はみな手弁当で出演したという。3話のなかでは第2話の「とびこんだ花嫁」が微笑ましく、愛着を覚える。香川京子の可愛さが光る。

2023年11月某日  備忘録275 大阪を舞台にした映画

大阪の宿
1954新東宝 五所平之助 評点【B】
上司を殴って東京から左遷され大阪にやって来たサラリーマンが、そこに住む人々と様々な交流を重ねたすえ東京に戻るというストーリー。人生の重さと人間同士の絆、そして当時の大阪の風俗が鮮やかに描かれている。この映画の原型は「坊ちゃん」であろう。一本気で人情に篤い主人公に佐野周二、彼が住む安旅館、酔月荘の女中に川崎弘子、水戸光子、左幸子、彼を慕う気の強い芸者に乙羽信子が扮し、そのほか藤原釜足、田中春男、多々良純などの芸達者が脇を固める。子供と離れ離れに暮らす川崎弘子、駄目男に貢ぐ水戸光子、抜け目ないアプレゲールの左幸子、みな好演している。特筆すべきは乙羽信子、とても美しく撮られており、彼女と佐野周二が夜の淀川の川縁を散歩するシーンは強く印象に残る。また佐野がいつも通勤途中に会って淡い恋心を抱く恵ミチ子、佐野に偽物の高級毛布を売る安西郷子も忘れられない。終盤の東京に帰る佐野との名残を惜しんで女たちが開く送別会のシーンにも心惹かれる。

大阪物語
1957大映 吉村公三郎 評点【C】
井原西鶴のいくつかの作品のエピソードをもとに溝口健二が原作を書き、依田義賢が脚色、溝口が監督するはずだったが急逝したため吉村公三郎が引き継いだ。江戸時代の大阪商人のドケチぶりを描いた映画。貧農の一家が大阪に夜逃げし、荷揚げされた米俵のこぼれ米をかき集めて売ることによって生計を立てる。それから10数年後、一家の主は金を稼いで両替屋の店を開く。だが彼は金の亡者になり、とんでもないケチな男になっていた。彼は油問屋の女主人と意気投合し、娘を油問屋のひとり息子に嫁がせようとする。だが娘は番頭と相思相愛の仲、油問屋の息子は廓好きの道楽者だった。俳優は、両替屋の夫婦に中村鴈治郎と浪花千栄子、その息子と娘に林成年と香川京子、番頭に市川雷蔵、油問屋の女主人に三益愛子、その息子に勝新太郎という豪華な布陣。これはコメディだろうか。中村鴈治郎の吝嗇ぶりは度を超しており、笑いを誘う。彼は糟糠の妻に死なれ、長男に家出され、娘と番頭に駆け落ちされ、最後に金箱を抱えて発狂する。定石どおりとはいえ、物語としてはいささかオーバーだし、通り一遍だ。溝口が監督してたら、もっと情念のこもった映画になっていただろう。


2023年10月

2023年10月某日  備忘録274 タルコフスキーの映画

僕の村は戦場だった
1962ソ連 アンドレイ・タルコフスキー 評点【B】
タルコフスキーの監督第1作。原題は「イワンの少年時代」の意であり、この日本題名が連想させるような作品とはまったく異なる。第2次大戦中、独ソ戦下のソ連、ソ連軍のために偵察任務につく12歳の少年兵イワンが主人公。物語は新任の青年将校とイワンとの出会いと交流を軸に描かれる。指揮官はイワンを学校に通わせようとするが、家族全員をドイツ軍に殺されたイワンは怒りと復讐心を燃え立たせており、任務を続けさせてほしい懇願する。ある夜、イワンは敵陣の偵察に出かける。そして時が過ぎ、ベルリンが陥落し、捕虜収容所の処刑記録を調べていた青年将校は悲しい事実を目の当たりにする。この物語にはイワンが見る夢や回想シーンが随所に織り込まれている。平和な田舎で母と語り妹と遊ぶイワンの無邪気な姿が見る者の目に焼き付く。回想シーンの彼の明るい笑顔と戦場での何かに憑かれたような目をした暗い顔のコントラストが印象に残る。タルコフスキーは「水」のモチーフを使うことで知られているが、この映画でも、沼地を密かにわたるイワン、彼の手からしたたり落ちる水滴、川辺で遊ぶ子供たち、井戸をのぞき込む母とイワンなど、水のイメージはふんだんに示されている。ここには戦闘のシーンはほとんどないが、戦争の悲惨さは見事に浮き彫りにされている。その意味では、この3年前に作られた同じソ連映画「誓いの休暇」を思い起こさせる。

惑星ソラリス
1972ソ連 アンドレイ・タルコフスキー 評点【C】
スタニスワフ・レム原作の思弁的SF小説の映画化。海で覆われた惑星ソラリス、その海は知性を持つ有機体であり、人間が心の奥に抱くものを実体化させる。地球の自然豊かな湖畔の家屋とソラリス上空の宇宙ステーションの2ヵ所が舞台。惑星の実態を調査するためステーションに赴いた主人公の科学者の前に、10年前に死んだ妻が現れる。彼は戸惑いながらも愛する妻とともにそこに留まろうとする。冒頭と終盤に映し出されるさらさらと流れる小川、水面下で漂う水草、湖に浮かぶ枯葉など、この映画でも水のイメージは鮮烈だ。異様な雰囲気を醸すソラリスの海の描き方も面白い。ステーションで現れる妻は何度死んでも甦る。妻がいつ出てくるのかと期待させる点で、これはホラー映画に通じるものがある。難解な映画だと言われるが、けっしてそうではない。これは基本的に、夫婦愛、親子の愛、過去の行為への贖罪をテーマとする映画だ。不意に挿入される東京の首都高を走行する場面、夫と妻が唐突に浮遊する場面、妻が主題として描かれているのにいきなり主人公の母に話が跳ぶ場面、外は晴れているのに家のなかで天井から雨が降る場面など、前後の脈絡なく意味不明なシークエンスが表れ、またときどきなぜかカラーからモノクロに切り替わるが、それらの意味を考え始めると監督の術策にはまってしまうことになる。2時間45分の長尺映画で、とうぜん冗漫な箇所もあるが、それほど退屈せずに見ることができる。作者のレムは出来上がった作品を見て、自分の意図とは違うと激怒したという。

2023年10月某日  備忘録273 ロマン・ポランスキーの映画 その4

ナインス・ゲート
1999仏・西 ロマン・ポランスキー 評点【B】
ポランスキーが本領を発揮したオカルト風味のサスペンス映画。古書売買仲介人が陥る悪夢のような迷宮世界が描かれる。ニューヨークの古書探偵=ジョニー・デップは、悪魔に関する稀覯本コレクター=フランク・ランジュラに、世界に3冊しかない悪魔の祈祷書「ナインスゲート」の1冊を手渡され、他の2冊と照らし合わせてどれが本物か調べるよう依頼される。その日からデップの周囲には奇妙なことが起こり始める。デップはイタリア、フランスに旅するが、怪しい男に付け狙われたり本を奪われそうになったりする。本を所持していた人々は次々に殺される。彼は危険に遭遇するたびに、オートバイに乗った武術の達人である正体不明の緑眼の美女=エマニュエル・セリエに助けられる。ポランスキーは不安感とサスペンスの醸成がじつに巧い。その点ではヒッチコックを思わせる。終盤、貴族の館で行なわれる秘密結社による悪魔の儀式が描かれるに及んで、それまでの緊迫した雰囲気が崩れ、胡散臭さが浮かび上がる。この映画は多くの謎が解明されないまま終る。緑眼の美女の正体はおそらくルシファー、つまり悪魔、または悪魔の使いであろう。しかし、誰が悪魔の書の所持者たちを殺し回ったのかはよく分からない。デップは鋭さとマヌケさが同居する古書探偵の役柄にフィットしている。

オリヴァー・ツイスト
2005英・仏 ロマン・ポランスキー 評点【A】
ディケンズの有名な小説の映画化。19世紀中期の英国、孤児オリヴァーの受難物語。救貧院に入れられた少年オリヴァーは騒動を起こして追放され、葬儀屋に引き取られるが、いじめに遭って家を抜け出し、苦難の旅を経て大都市ロンドンにたどり着く。行き倒れ寸前のオリヴァーは少年窃盗団のメンバーに助けられ、彼らの巣窟に連れて行かれる。首領のフェイギンはオリヴァーに食事と衣服をあてがい、窃盗の手口を教えて一人前の仲間になるよう仕込む。オリヴァーは仲間と一緒に街中を歩いているとき、仲間が犯した窃盗の犯人と間違われて逮捕されるが、当事者の証言によって無実が証明され、温厚な紳士ブラウンローの家に引き取られる。オリヴァーはそこで束の間、幸せを味わうが、窃盗団一味によって再びフェイギンの家に連れ戻される・・・というストーリー。この映画では原作のご都合主義的で不自然な部分が省略されており、一貫性のある筋立てになっている。また、ポランスキーにしては珍しくハッピー・エンドで終るが、窃盗団の首領フェイギンと紳士ブラウンローの両方への愛情と恩義の板挟みになるオリヴァーの悩みが強調されている。フェイギンは温情ある悪人として描かれており、彼の哀れな末路は同情を誘う。フェイギンは容貌からして明らかにユダヤ人であり、同じくユダヤ人であるポランスキーが意図的にそう演出したのであろう。ここでは産業革命が進行して搾取される英国の下層階級の状況が克明に映し出される。おそらくオープン・セットであろうが、見事に再現された当時のロンドンの街並みが素晴らしい。デヴィッド・リーン版でフェイギンを演じたアレック・ギネスの怪演は見ものだったが、この映画でのベン・キングスレーもそれに負けず劣らず印象深い。

2023年10月某日  備忘録272 ロマン・ポランスキーの映画 その3

テス
1979英・仏 ロマン・ポランスキー 評点【B】
トマス・ハーディの英国古典小説「ダーバヴィル家のテス」の映画化。3時間近い大作で、主演はナスターシャ・キンスキー。19世紀末のイングランド、貧農一家の美しい娘テスの恋愛遍歴が描かれる。テスは金持ちの家の農場で奉公し、放蕩息子に見初められて犯され、実家に戻って子供を生むが、その子は間もなく死んでしまう。その後テスは遠い酪農場で働き、そこで農場主になるため勉強している牧師の息子と知り合い、恋仲になり結婚する。テスは結婚式の夜に夫に過去を打ち明けるが、夫は彼女を許すことができず、絶望してブラジルに旅立つ。家の貧しさに耐えかね、テスはいまだに彼女に執心している農場の放蕩息子と暮らし始める。そこに彼女と暮らすため夫が帰ってくる。テスは放蕩息子を殺し、夫ともに逃亡の旅に出る。ポランスキーは丁寧な演出で悠然と物語を綴っていく。イングランドの田園地帯の風景がじつに美しく撮られており、終盤にはストーンヘンジの異様な光景が映し出される。テスの殺人を直接には描かず、女中が1階の天井から血の滴がにじみ出ているのに気がつき、何があったか見る者に察知させる手法が出色。当時18歳のキンスキーが妙に色っぽい。

パイレーツ
1986仏 ロマン・ポランスキー 評点【C】
40〜50年代にさんざん作られた海賊映画のパロディ。荒唐無稽な笑いが全編に散りばめられている。片足の海賊船長レッドとその部下のカエルは、小舟で漂流中、大型スペイン船に助けられるが下働きとしてこき使われる。船に財宝が積んでるのを知った彼らは船員を焚きつけて反乱を起こさせ、船を乗っ取ろうと企む、というストーリー。スペイン船には海賊映画でおなじみの悪辣な貴族や美しい令嬢などが乗っている。主演のウォルター・マッソーが欲深で狡賢いレッド船長を小気味よく演じている。ポランスキーとしては娯楽に徹した軽い作品といったところか。

赤い航路
1992仏・英 ロマン・ポランスキー 評点【D】
ポランスキーが変態趣味を全開した映画。地中海クルーズの客船に乗り合わせた2組の夫婦、英国人の証券マン、ヒュー・グラントと妻クリスティン・トーマス、車椅子の米国人作家ピーター・コヨーテとその妻エマニュエル・セリエが主人公。コヨーテはグラントにパリでの妻との出会い、奔放過激なセックス、車椅子生活になった経緯を語る。映画ではコヨーテによるパリ生活の回想と現在の船上での出来事が交互に描かれる。最初は嫌々ながらコヨーテに付き合っていたグラントは、しだいに彼の話にのめり込み、彼の妻セリエに惹かれていく。映画には最後に二重、三重のひねりが用意されている。コヨーテが語る彼らの変態SMプレイがすさまじい。ここまでくればコメディと紙一重だ。主演女優があまり魅力がないので興が削がれる。

2023年10月某日  備忘録271 ロマン・ポランスキーの映画 その2

欲望の館
1972伊・仏・独 ロマン・ポランスキー 評点【D】
悪ふざけと変態趣味満載の人を食ったようなコメディ。「不思議の国のアリス」と「小間使いの日記」を混ぜ合わせたような映画。イタリア旅行中の若い米国娘がヒッチハイクで男たちにレイプされそうになり、必死に逃れてたどりついた海辺の豪邸。そこは奇人、変人の巣窟だった。主演は若いピチピチしたシドニー・ローム。豪邸の滞在客のひとりをマルチェロ・マストロヤンニが演じる。館の女たちは全裸でうろうろし、男たちは転がり込んだ若い娘に欲情する。シドニー・ロームはおっぱいまる出し、日記を抱えて素肌にパジャマの上着だけを身に着け、館のなかを歩き回り、奇妙な滞在客たちに遭遇する。マストロヤンニは虎の皮をまといシドニー・ロームとSMプレイに興ずる。ポランスキー自身も屋敷のマヌケな客として出演。撮影は制作者カルロ・ポンティの別荘で行なわれたという。

テナント
1976仏 ロマン・ポランスキー 評点【C】
異常心理を描くサイコ・サスペンス映画。ポーランド出身の青年がパリで古ぼけたアパートの一室を借りる。前に住んでいた女は窓から投身自殺したという。管理人は無愛想で家主は口うるさく、住人たちはみな振るまいが奇妙だ。彼は壁の穴に歯が埋められているのを発見し、窓の向こうに見えるトイレにいつも人がたたずんでいるのを見て、しだいに妄想と悪夢に悩まされ、自殺した女の服を着て女装し始める・・・というストーリー。ポランスキー自身が主演を務め、管理人と家主を米国のベテラン俳優シェリー・ウィンタースとメルヴィン・ダグラスが演じる。青年と親しくなる女に扮するのはイザベル・アジャーニ。ポランスキーの映画はすべて不安と恐怖に覆われているが、この作品はその最たるもの。主人公が精神に破綻をきたし異常な行動を取るという話の流れは「反撥」と同じパターンだ。ベルイマン映画で有名なスヴェン・ニクヴィストによる冷徹な映像が青年の寒々とした心象を際立たせている。

2023年10月某日  備忘録270 ロマン・ポランスキーの映画 その1

吸血鬼
1967英 ロマン・ポランスキー 評点【C】
吸血鬼を題材にしたコメディで、ホラー映画のパロディ。吸血鬼を追ってトランシルヴァニアの村にやって来た教授と助手。宿屋の娘が吸血鬼にさらわれ、彼らは吸血鬼を退治し、娘を救うため古城に向かい、城主の伯爵と対決する。助手を監督のポランスキー自身が、宿の娘をシャロン・テートが演じる。ニンニクと十字架をかざしても効き目がなかったり、助手が伯爵の息子に惚れられて逃げ回ったり、多数の吸血鬼が棺桶から甦り、城の大広間の舞踏会で踊ったりと、間抜けでこっけいなエピソードが随所に挿入される。シャロン・テートが白痴美のような魅力を発散している。ポランスキーはその後、この映画で共演した彼女と結婚し、米国に渡って「ローズマリーの赤ちゃん」を大ヒットさせるが、マンソン一味による惨殺事件が起きて妻を殺される。

マクベス
1971英・米 ロマン・ポランスキー 評点【C】
ポランスキーが撮った有名なシェークスピアの悲劇の映画化。中世スコットランドの武将マクベスが魔女の予言と妻の唆しに煽られ、主君を殺して破滅する話。黒澤明の「蜘蛛巣城」が能の様式美に基づくもの、オーソン・ウェルズの「マクベス」がギリシャ悲劇に範を取ったものだとすれば、このポランスキー版はリアリズムに徹した作品だと言えよう。陰鬱なスコットランドの原野の光景が作品の暗い雰囲気を際立たせているが、全体に内的独白が多いのが興を削ぐ。主演のジョン・フィンチ、フランチェスカ・アニスをはじめ、出演者は馴染みのない俳優ばかりだが、演技はみな巧く、英国演劇界の層の厚さを感じる。この映画の撮影に入る前、ポランスキーの妻シャロン・テートがマンソン一味に殺害される事件が起きた。王の殺害シーンやマクベスの首が切り落とされるシーンなど、この映画で残酷描写が目立つのは、それが彼のトラウマになったからだという説があるが、その正否は分からない。

2023年10月某日  備忘録269 オムニバス映画の面白さ

百萬圓貰ったら
1932米 エルンスト・ルビッチほか 評点【C】
パラマウント所属のスタッフとキャストが総動員された特作映画。死を目前にした大富豪が、遺産を狙って集った親族に嫌気がさし、電話帳から任意に選んだ人々に100万ドルづつ寄贈しようと決める。こうして大金が転がり込んだ人々――陶器店の冴えない店員、小切手偽造詐欺の指名手配犯、安酒場で働く女給、死刑執行目前の男、乱暴者の兵士、養老院で余生を送る老女など――のとる行動が皮肉と風刺と笑いを込めて描かれる。監督はルビッチのほか、ノーマン・タウログ、ノーマン・マクロード、ウィリアム・サイターなど7人が担当、俳優はゲイリー・クーパー、ジョージ・ラフト、チャールス・ロートン、WCフィールズなどが出演。おそらくルビッチは、当時のルビッチ映画の常連だったチャールズ・ラッグルズが、店では店長に怒鳴られ、家では妻に罵られる中年の陶器品店員を演じ、最後に笑いながら店の商品を片っ端から粉々に打ち砕くエピソードの担当であろうと思っていたが、どうやらチャールス・ロートン演じる会社員が、送られてきた小切手を見たとたん、席を立って社長室に行き、社長に嘲りの仕草をして会社を去る一番短いエピソードを演出したらしい。

人生模様
1953米 ハワード・ホークスほか 評点【B】
ついでにもう一つの有名なオムニバス映画を見る。これはフォックス製作のオー・ヘンリーの5作の短編を映画化した作品。諧謔、哀感、皮肉が全編に漂っている。5人の監督はみな第1級の手練れ、俳優も生きのいい若手や中堅が務めている。あの大作家ジョン・スタインベックがナレーターとして画面に登場する。第1話「警官と賛美歌」(ヘンリー・コスター監督)は冬の寒さをしのぐため刑務所に入ろうとする浮浪者の話。主演のチャールス・ロートンはさすがに巧い。翌年の「ナイアガラ」で人気が沸騰するマリリン・モンローが街娼役でちらっと登場、ほんの一瞬だがその印象は鮮やかだ。第2話「クラリオン・コール」(ヘンリー・ハサウェイ監督)では旧友である刑事とギャングの友情と対立が描かれる。ギャング役のリチャード・ウィドマークは当時すでに主役級のスターになっていたが、ここでは「死の接吻」のハイエナのような笑い声で悪党を演じている。第3話「最後の一葉」(ジーン・ネグレスコ監督)は有名な話。姉妹を演じるアン・バクスターとジーン・ピータースが美しい。第4話「酋長の身代金」(ハワード・ホークス監督)は5話のなかで一番出来がいい。身代金を稼ぐために地主の息子を誘拐した詐欺師の2人が、手の付けられない腕白坊主に閉口し、金を払って返すはめに陥るというドタバタ喜劇。第5話「賢者の贈り物」(ヘンリー・キング監督)もお馴染みの物語。ジーン・クレインとファーリー・グレンジャーが貧乏な若夫婦役を演じ、クリスマスの心温まる光景でエンドとなる。

2023年10月某日  備忘録268 エルンスト・ルビッチの映画 その4

結婚哲学
1924米 エルンスト・ルビッチ 評点【D】
サイレント映画。32年の「君とひととき」のオリジナル版であり、2組の夫婦の浮気と離婚をめぐる騒動を描いた風俗喜劇。両者のあらすじや展開はほぼ同一。サイレント時代のルビッチの名作と言われているが、ルビッチ独特のくすぐりや暗示が乏しく、あまり面白くない。わざとらしい日本語の活弁が邪魔で、興を削ぐ。それやこれやで見ていて退屈し、途中で寝てしまった。

ウィンダミア夫人の扇
1925米 エルンスト・ルビッチ 評点【D】
サイレント映画。オスカー・ワイルドの戯曲の映画化で、舞台はロンドンの社交界。ウィンダミア卿は妻の母と称する女に密かに会い、母は亡くなったと聞かされている妻に知られてはまずいと思い、口止め料として金銭を援助する。間もなく女は娘に一目会いたいと思い、屋敷で開かれる妻の誕生日パーティに招待してほしいとウィンダミア卿に頼むが・・・というストーリー。これは喜劇というより母と娘をめぐるメロドラマに近い。日本の新派悲劇のような物語で、流れはまだるっこしい。扇を小道具として使うアイデアは成功しているが、全体にルビッチらしい洒落たタッチが見られない。若き日のロナルド・コールマンがウィンダミア夫人に言い寄る色男を演じている。


2023年9月

2023年9月某日  備忘録267 エルンスト・ルビッチの映画 その3

メリー・ウィドウ
1934米 エルンスト・ルビッチ 評点【B】
レハール作のオペレッタの映画化。中欧の架空の小国に住む大富豪の若き未亡人がパリに行き、社交界の花形になって男たちに言い寄られる。彼女にパリで結婚されると財産が減り、国が破産すると危ぶんだ国王は、国一番のプレイボーイをパリに派遣して彼女をものにして連れ戻せと命じる・・・というコメディ。主演はモーリス・シュヴァリエとジャネット・マクドナルド。ルビッチの演出はやや冗漫な印象を受けるが、それでも国王の寝室でのシュヴァリエと国王のやり取りや、牢獄の壁にシャンパンや結婚指環が現れるエンディングのシーンなどは抱腹絶倒。パリの大使館で開かれる舞踏会での絢爛たる群舞も壮観。コルトレーンやジョニー・スミスの演奏でジャズ・ファンに知られる「ヴィリアの歌」はこのオペレッタでフィーチャーされるアリアで、映画では冒頭間もなくの庭園のシーンでマクドナルドによって歌われる。主演の二人が踊る背後でいつも流れる「メリー・ウィドウ・ワルツ」も耳馴染みのある美しい曲だ。

天使
1937米 エルンスト・ルビッチ 評点【C】
ルビッチがマレーネ・ディートリッヒを迎えて撮った恋愛ドラマ。夫婦の機微と三角関係が描かれており、ユーモアの要素があまりないので肩透かしを食らう。英国外交官の妻ディートリヒはパリのロシア大公妃のサロンで英国軍人メルヴィン・ダグラスに会う。ディートリヒに一目惚れしたダグラスは食事に誘い愛を打ち明けるが、彼女は途中で姿を消す。舞台は英国に移り、外交官ハーバート・マーシャルの屋敷を戦友のダグラスが訪ね、妻のディートリヒを紹介されて始めて彼女の素性を知るが、彼の恋心はますます募る・・・という物語。ルビッチ本来の軽妙なコメディ風味は希薄だが、語り口は見事で洗練された味わいが横溢している。肝心のシーンの描写を敢えて避ける撮り方、ドアを使って物語を展開させる手法など、ルビッチらしさは随所に刻印されている。主役の3人はみな適材適所、とりわけディートリヒはじつに美しく映し出されている。

2023年9月某日  備忘録266 エルンスト・ルビッチの映画 その2

君とひととき
1932米 エルンスト・ルビッチ 評点【C】
パリを舞台にした、倦怠期の夫婦の行動を軽妙に描くオペレッタ形式の艶笑コメディ。サイレント時代の「結婚哲学」のセルフ・リメイク。夫は妻の親友の色香に負けて浮気し、妻も彼女を崇拝する男に言い寄られてその気になる。夫婦を演じるのはモーリス・シュヴァリエとジャネット・マクドナルドのコンビ。寝室で電気を点けたり消したりするシーンなど、可笑しな箇所はあちこちにあるが、歌が随所で歌われるのが興を削ぐ。オペレッタはいまの感覚で見えるとあまりに脳天気でまだるっこしい。

私の殺した男
1932米 エルンスト・ルビッチ 評点【C】
コメディかと思いきや、ルビッチにしては珍しいシリアスな反戦ドラマ。第1次大戦で敵のドイツ兵を殺したフランス人青年が罪の意識に苦しみ、戦後、ドイツ兵の故郷の田舎町に行き、彼の両親と婚約者に謝罪しようとするも打ち明けられず、友人だったと偽って歓待されるけれど、贖罪の意識は募るばかり・・・というストーリー。ルビッチらしいユーモアの断片も散見され、話の運びも巧妙で分かりやすいが、全体としてはドイツの大衆が抱くフランスへの拭いがたい嫌悪感、青年の罪の意識、息子を失った親の悲しみといった感情に包まれており、雰囲気は重苦しい。死んだドイツ兵の父親を演じるライオネル・バリモアは、いつもと同じく演技が大げさでわざとらしさが目立つ。

極楽特急
1932米 エルンスト・ルビッチ 評点【A】
これはルビッチならではの洒落た泥棒コメディ映画。ヴェニスで意気投合した、一見すると紳士淑女だが実は泥棒詐欺師の男女コンビが、パリの大富豪の未亡人に目をつけ、首尾よく邸宅に召し抱えられ、財産を乗っ取ろうとする。男は秘書としてビジネスを取り仕切り未亡人と親しく接するうちに彼女と相思相愛になり、それを知った女は男に愛想を尽かし、自分だけが大金を奪って逃げようとする・・・というストーリー。男女の泥棒をハーバート・マーシャルとミリアム・ホプキンス、富豪の未亡人をケイ・フランシスが演じる。全編が気の利いた会話で包まれており、出演者の立ち位置や目線から醸し出される絶妙の空気感、小気味いい場面展開など、ルビッチ独特の軽妙洒脱な演出が冴え渡っている。泥棒の男女がお互いのものを盗み合うシーン、男の泥棒がかつて騙した貴族にパーティで再会するシークエンス、未亡人の屋敷の階段を上がったところにある2つのドアを開け閉めするエピソードなど、洗練されたユーモアが横溢している。

2023年9月某日  備忘録265 エルンスト・ルビッチの映画 その1

淑女超特急
1941米 エルンスト・ルビッチ 評点【A】
倦怠期の妻がピアニストと不倫に走り、保険会社重役の夫は妻を取り戻そうと奮戦する。ニューヨークを舞台に、夫婦の危機と三角関係を描く艶笑喜劇。しゃっくりに悩まされる妻が精神科医に相談する冒頭のシーンから、ホテルの部屋で夫が妻を前に必死で女がいるかのように装う終盤のシーンまで、ルビッチならではの洒落たユーモアが満載。マール・オベロンとメルヴィン・ダグラスが夫婦を、バージェス・メレディスが傲岸不遜なピアニストを演じる。頻繁に映し出されるドア、犬を小道具にした寝室のシーン、やたらに妻の脇腹をつつく夫など、微妙なエロスを感じさせる荒唐無稽な笑いが随所に散りばめられている。

小間使
1946米 エルンスト・ルビッチ 評点【B】
「天国は待ってくれる」に続いて作られたルビッチの遺作。舞台はロンドン、戦火の母国を逃れて英国に渡ったチェコの作家が、ある貴族の屋敷に転がり込み、そこの小間使いの女と仲良くなる恋愛喜劇。主演はシャルル・ボワイエとジェニファー・ジョーンズ。屋敷を最初に訪れた作家が配管工と間違われ、次に配管工の代理としてやって来た若い女が見事にシンクの水の詰まりを直す鮮やかな出だしから、旅立つ作家が見送りのため駅にやって来た小間使いを汽車に乗せて奪い去るラスト近くのシーンまで、ルビッチの語り口の巧さが冴え渡っている。初期のソフィスティケーションや荒唐無稽な笑いは見られないが、その代わりに会話の妙や筋立ての面白さが光っている。貴族の屋敷の寡黙な執事や家政婦頭、小間使いが結婚しようとする薬屋、咳払いするだけでまったく言葉を発しない薬屋の母親など、奇妙な人物の言動が巧みに戯画化されており、作家がいつも薬屋の呼び鈴を鳴らして逃げるのも笑いを誘う。ジェニファー・ジョーンズの可愛さが際立っている。

2023年9月某日  備忘録264 田中絹代が監督した映画

恋文
1953新東宝 田中絹代 評点【C】
田中絹代の監督第1作。丹羽文雄の小説の映画化で、渋谷の恋文横丁はこれによって有名になった。脚本は木下恵介、成瀬巳喜男が台本に手を入れバックアップし、ロケにも立ち会って田中にアドヴァイスしたという。渋谷の横丁で洋妾相手にラヴレターの代筆をする男たちの生態と、戦地から復員した男と洋妾に身を落とした元恋人の女との確執が描かれる。作品としては溝口の「夜の女たち」や小津の「風の中の牝鶏」を思い起こさせる。復員男の森雅之、元恋人の久我美子が主人公。森の友人で代筆屋を営む男に宇野重吉、兄思いの森の弟に道三重三という無名の俳優が扮する。そのほか、香川京子(古本屋の店員)、入江たか子(下宿屋の女将)、笠智衆(レストランの客)、沢村貞子、清川玉枝、月丘夢路などの錚々たる俳優が端役で出演して田中の初監督を祝っている。佐野周二や三井弘次もクレジットされているが、どこに出ていたのだろう。田中絹代自身も老いた洋妾役で出演、木下恵介も俳優として出ているらしいが、これも気がつかなかった。画面はどことなく成瀬巳喜男のタッチを彷彿とさせる。物語の展開は少しまだるっこしいし、森がかたくなに久我を責めるのも不自然だし、エンディングも中途半端だ。しかし渋谷の駅のホームで再会し見つめ合う森と久我を電車の中からガラス越しに撮ったシーン、神宮の森のなかで右側に座る森と左側に去って行く久我を捉えたシーン、終盤の絶望する久我の表情を光と影を用いて映し出すシーンなど、印象に残る映像がいくつかある。当時の雑踏する渋谷の街がふんだんに映し出されるのも興味深い。

月は上りぬ
1955日活 田中絹代 評点【B】
 監督田中絹代の第2作。脚本は小津安二郎。小津は戦後第1作「長屋紳士録」の次回作のために書いたが、松竹に反対されて映画化できなかったこの脚本を、次回作を模索していた田中に提供した。5社協定のために難航していたキャスティングも小津の支援によってまとまった。戦時中に奈良に疎開し、そのまま奈良で暮らしている一家、父親の大学教授(笠智衆)、未亡人の長女(山根寿子)、次女(杉葉子)、三女(北原三枝)の4人家族。死亡した長女の夫の弟(安井昌二)が隣の寺に下宿しており、三女と仲がいい。ほかに登場するのは、安井を訪ねてくる旧友(三島耕)、長女の亡夫の友人(佐野周二)、笠家の年増の女中(田中絹代)と若い女中(小田切みき)。俳優クレジットでは笠智衆と佐野周二がトップだが、実質的には気のいいのんびり屋の安井昌二と元気のいい茶目っ気旺盛な北原三枝のカップルが主人公だ。もし小津自身が監督していたとしたら、このカップルに配されるのは岡田茉莉子と佐田啓二であろう。和服の似合う落ち着いた長女は三宅邦子だろうか。三女の北原三枝は三島耕と姉の杉葉子を結びつけようと画策して成功する。一時は仲違いしていた北原三枝と安井昌二も二人で暮らすため上京する。長女は佐野周二と結婚するだろう。
 これは奈良ののどかな景色と日本家屋の落ち着いた風景が巧くいかされた良質の映画であり、素朴なユーモアがそこかしこに織り込まれている。三女の北原が女中の田中に嘘の電話をかけさせるシーンは、とりわけ笑いを誘う。杉葉子は東京に帰った三島耕と「3755」「666」と謎のような電報を打ち合うが、のちにこれは万葉集の短歌の番号であり、愛の告白だったことが判明する。古風だが洒落たアイデアだ。父親と3人の娘が穏やかに暮らしている中流家庭、結婚によって娘たちがひとりずつ去って行き、最後に父親だけが取り残される、というパターンは、小津映画の典型だといえる。登場人物たちの会話や、さらには撮影や話の流れにも、小津の面影が宿っている。最後に長女と二人だけになった笠智衆の呟きや眼差しは「麦秋」のエンディングを思い起こさせる。映画は奈良の山々や家並み、鹿の群れが映し出され、寺で家族全員が謡曲をおさらいしている場面で始まり、同じ映像と光景で終るが、そこには謡を詠う笠智衆と鼓を打つ山根寿子しかいない。小津は完成した映画を見て「お世辞抜きで良い出来です」と褒めていたという。

2023年9月某日  備忘録263 若き日の木下恵介の伝記映画

はじまりのみち
2013松竹 原恵一 評点【B】
たまたまある記事でこの映画に触れた文を読んだので、見ようという気になった。これは若き日の木下恵介を題材とした実話に基づく映画。木下恵介生誕100年を記念して制作された。第2次大戦末期、木下恵介は「陸軍」のラストシーンで軍部にクレームを付けられ、辞表を書いて故郷の浜松に戻る。空襲が激化したので、彼は家業の漬物屋を継いでいる兄、荷物を運びために雇った若い便利屋とともに、足腰の立たない母をリヤカーに乗せ、50キロ離れた山間部の疎開先に徒歩で運ぶ。この映画では、その道中のエピソード、木下が母に寄せる深い愛、映画作りに幻滅した彼が意欲を取り戻す過程が描かれる。木下恵介を加瀬亮、母を田中裕子、兄をユースケ・サンタマリア、便利屋を濱田岳が演じる。冒頭、大杉漣演じる松竹撮影所長の城戸と木下の話し合いのシーンが出てくる。城戸は人情味のある人間として描かれるが、ワンマンだった城戸が監督になりたての木下にここまで気を遣うことなどありえない。これはこの映画が松竹の配給であり、城戸を悪者には描けなかったからだろう。中盤の木下が川の向こう岸で宮崎あおい演じる女教師と生徒たちが群れ集うのを見かける光景は、とうぜんながら後に木下が作る「二十四の瞳」とイメージが重なる。作中で木下の代表的な映画が引用されるのが興味深い。「陸軍」の田中絹代が出征する息子を追いかけるラストシーンがほぼそのまま挿入されるほか、冒頭では海辺で処女作の「花咲く港」が、エンディングではそれ以外の様々な木下映画が連続して映し出される。俳優たちはみな抑えた演技で好演しており、なかでも便利屋の濱田岳の自然な表情と仕草が印象に残る。ところどころ涙を強要するような演出が鼻につき、とくに最後の木下と母親の会話シーンは余計だと感じるが、それでもこの映画は全体として好ましい印象を与える。

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲
2001東宝 原恵一 評点【C】
監督原恵一の本業はアニメであり、これが代表作とのことなので、見てみた。世界の時世を20世紀に戻し、未来をなくそうとする悪の一団の企てを、しんのすけと野原一家が阻止する話。大人たちがしだいに見知らぬ人に変貌していく導入部はジャック・フィニイの「盗まれた街」を想起させる。中盤の幼児退行したひろしが靴の臭いを嗅いで子供のころから現在までの思い出を甦らせる4分ほどのシークエンスが秀逸であり、ディズニー・アニメ「カールじいさんの空飛ぶ家」の冒頭の10分間を思い起こさせる。この映画は大人たちが子供のころを懐かしみ幼稚な遊びに耽るのを否定的に描いているわけだが、それにもかかわらず、随所で描かれる昭和のノスタルジックな光景がとても魅力的に見えてしまう。

2023年9月某日  備忘録262 フリッツ・ラング、ドイツ時代のサイレント映画

ニーベルンゲン第1部「ジークフリート」
ニーベルンゲン第2部「クリームヒルトの復讐」
1924独 フリッツ・ラング 評点【B】
ゲルマン神話で物語られるニーベルンゲン伝説の映画化。第1部が2時間30分、第2部が2時間10分、合計4時間40分の超大作。脚本はラングの当時の妻テア・フォン・ハルボウ。第1部は竜殺しの英雄ジークフリートの物語。竜を退治し、その血をあびて不死身になったジークフリート王子は愛するクリームヒルトと結婚するが、義兄グンター王の妻ブリュンヒルトの奸計にはまり、弱点を暴かれて非業の死を遂げる。第2部は復讐を誓うクリームヒルトが主人公。彼女はフン族の王アッティラからの結婚申し込みを承諾し、彼の力を利用してジークフリートの暗殺を黙認した兄のグンター王と下手人の奸臣ハーゲンに復讐しようとする。首謀者ブリュンヒルトはすでに第1部の終盤にジークフリートの棺のそばで自ら命を絶っている。彼女は輿入れしたアッティラ王の城にやって来た兄グンター王の首を刎ね、ハーゲンを夫ジークフリートの名剣で殺すが、自らも敵兵に刺し殺されて絶命する。この映画の成功によって監督フリッツ・ラング、ウーファ社、製作者エーリッヒ・ボマーの名は世界的に一挙に高まった。ドイツの国民叙事詩に基づくこの映画は、敗戦で疲弊したドイツにドイツ精神を甦らせ国民を結束させるのに貢献したとされているが、のちにこれを熱愛したゲッベルスにより、ナチスのプロパガンダに利用された。莫大な予算を投入して作られたセットは壮観であり、グリフィスの「イントレランス」ほどではないが、スペクタクルそのもの。高くそびえるシンメトリカルな形象の城郭、幾何学的な模様が目立つ簡素な宮廷、装飾的な色合いを帯びた儀式台、霧深い原始的な森、暗い洞窟、不気味にうごめく竜、ライン川に沈められる財宝、異教徒的なフン族の館、祝宴で飲み食いする野蛮な兵士たちなど、印象的な映像が随所に散りばめられている。

スピオーネ
1928独 フリッツ・ラング 評点【C】
ラングが「メトロポリス」に続いて撮ったスパイ映画。これも脚本は当時の彼の妻テア・ハルボウ。内容としては「ドクトル・マブゼ」を想起させるし、悪の親玉をルドルフ・クライン・ロッゲが演じている点でも両者は共通している。欧州各国の要人を暗殺し機密文書を略奪する犯罪組織、その首領は銀行の頭取を隠れ蓑にしている。諜報部のボスは敏腕諜報員を雇ってアジトを探ろうとする。組織の首領は諜報員を懐柔するため配下の美人スパイを送り込むが、彼らは愛し合うようになる。最後に組織は壊滅するが、首領には驚くべき第3の顔があったというオチがつく。これは娯楽作に徹したご都合主義の映画だが、組織の巣窟で悪党たちが交錯した階段を上り下りするシーン、ボクシングのリングの周りで紳士淑女がダンスに興じるシーン、列車爆破シーンなどは印象に残る。日本人のスパイが組織の女に騙されて重要書類を盗まれ、ハラキリする珍妙なエピソードもある。


2023年8月

2023年8月某日  備忘録261 ゴジラ映画 その2

キングコング対ゴジラ
1962年東宝 本多猪四郎 評点【E】
前作から7年を経て作られたゴジラ第3作。今作以後、ゴジラ映画はカラーとなり、物語も怪獣同士の決戦をテーマとする娯楽作の色彩がますます強くなっていく。この映画の主演は高島忠夫、佐原健二、有島一郎で、漫画のような喜劇仕立ての内容。ゴジラは米国生まれの怪獣キングコングと戦うが、このコングの縫いぐるみがなんともお粗末で間抜けな顔なので、失笑を誘う。両者の戦いは、最初はゴジラが勝ってコングがいったん引き下がるが、次の戦いでは2匹が取っ組み合ったまま海中に落下し、ゴジラは沈んだままだが、コングは浮上し、南方の故郷に島に向けて海中を歩く。コングが背の立たない海をなぜ歩けるのかは不明。

モスラ対ゴジラ
1964年東宝 本多猪四郎 評点【C】
ゴジラ映画第4作。これも当時見た記憶がある。ここでゴジラが戦うモスラは蛾の化け物だが善玉であり、卵から孵化した幼虫のモスラが繭糸を吹きつけてゴジラを身動きできなくさせ、海中に転落させる。主演は宝田明と星由里子。当時20歳の星由里子が可愛い。ザ・ピーナッツがモスラと気持ちが通じ合う小美人を演じる。彼女たちが歌うモスラの歌(モスラ〜やモスラ〜)が当時ヒットした。ここには申し訳程度だが、社会批判、観光開発批判のメッセージが込められている。

2023年8月某日  備忘録260 ゴジラ映画 その1

ゴジラ
1954東宝 本多猪四郎 評点【A】
ゴジラ映画の第1作。これは公開当時に見ている。たぶん小学1、2年生のころだったと思う。ゴジラの来襲に逃げ惑う人々の姿と最後の海中で泡立つ大量のあぶくのシーンだけが記憶に残っている。今回、見直して思ったのは、この映画は怪獣映画というよりも反戦映画だということ。それほど色濃く、この映画には反戦、反核、平和への願いといった思いが織り込まれている。最初に消息不明になる貨物船は水爆実験で被爆した第5福竜丸を想起させる。水爆実験によって甦ったゴジラは、実験をした米国ではなく、なぜか日本を襲う。東京の街を蹂躙し、国会議事堂を破壊するゴジラには、第2次大戦で亡くなった無数の兵士や市民の怨霊が乗り移っているのかも知れない。ゴジラが東京を壊滅させるシーンは1944年3月の東京大空襲を彷彿とさせずにはおかない。逃げ遅れた母親が幼い子供に、お父さんのところに行こうね、と言う短いショットは強烈なインパクトを与える。ゴジラを退治するオキシジェン・デストロイヤーの製法をすべて封印して自らの命を絶つ芹沢のエピソードには核兵器廃絶への強いメッセージが込められている。主演は宝田明と河内桃子、志村喬と平田昭彦が共演。伊福部昭のテーマ音楽が耳に焼きつく。終盤に流れる「平和の祈り」の音楽は「海ゆかば」を思い起こさせる。玉井正夫の撮影、中古智の美術という2人の成瀬組スタッフの参加が映画の成功に大きく寄与しており、とりわけ中古のセットが素晴らしい。

ゴジラの逆襲
1955東宝 小田基義 評点【C】
前作のヒットを受けて作られたゴジラ第2作。小泉博、千秋実、若山セツ子主演。前作に続いて出演する俳優は志村喬のみで、キャスト、スタッフは大幅に変わっている。また反戦の色合いも希薄になり、娯楽怪獣映画の要素が強くなっている。ここでは早くも怪獣同士の対決が描かれ、怪獣に立ち向かう人々の勇気にスポットライトが当てられる。再び日本にやって来たゴジラは最初に大阪を襲い、新怪獣アンギラスと戦って倒したあと、なぜか北海道に向かい、自衛隊の作戦が功を奏し、雪崩によって生き埋めにされる。

2023年8月某日  備忘録259 成瀬巳喜男のサイレント時代の映画 その2

夜ごとの夢
1933松竹 成瀬巳喜男 評点【D】
当時の不況による厳しい世相を反映した暗い映画。主演は栗島すみ子と斉藤達雄。栗島はバーでホステスとして働き、一人息子を育てている。家出していた夫の斉藤が帰ってくる。斉藤は仕事を探すが見つからず、事故で怪我をした息子の入院費を工面するため金を盗む・・・というストーリー。設定は前作の「君と別れて」と類似しており、また小津の「その夜の妻」や「東京の宿」といった映画も想起させる。栗島と斉藤という夫婦は小津の「淑女は何を忘れたか」のコンビ。栗島のアパートの隣部屋に住む心優しい主婦の吉川満子、栗島が務めるバーの女将の飯田蝶子、栗島に懸想するバーの客の坂本武など、この2つの映画は配役がきわめて似通っている。随所で映し出される港や渡し船の光景が印象深い。靴底に空いた穴にキャラメルの空箱をあて、そこにキャラメルを塗るというシーンが秀逸だし、小道具でシーンを繋ぐ手法も面白いが、エンディングが後年の「乱れる」と同じでまったく救いがなく、後味が悪い。

限りなき舗道
1934松竹 成瀬巳喜男 評点【C】
銀座のカフェで女給として働く女が主人公。彼女は裕福な名家の跡取り息子に見初められてその家に嫁ぐが、姑と小姑のいじめに遭い、最初は耐え忍ぶがついに我慢の限界を超え、家を出る。成瀬が監督した37年の「女人哀愁」を想起させる内容の映画だ。主演の忍節子は初めて見るが、嫌味のない端正な顔立ちの女優だ。彼女と同じアパートの住人で画家の日守新一がコメディ・リリーフの役を務める。彼女の婚家に出入りする高慢な良家の令嬢に扮する井上雪子は、オランダ人とハーフの目つきの鋭いエキゾチックな顔立ちの伝説的な女優。この映画は、筋立ては古風で暗いが、当時の銀座の風景が頻繁に映し出されて興味深く、場面展開がスムーズだし、最後は明るく終るので好感を覚える。これは松竹時代の成瀬の最後の作品。このあと成瀬はPCLに移籍し、トーキー映画を撮り始める。

2023年8月某日  備忘録258 成瀬巳喜男のサイレント時代の映画 その1

腰弁頑張れ
1931松竹 成瀬巳喜男 評点【C】
フィルムが現存するいちばん古い成瀬監督作品。30分弱の短編。小津の初期作品を思わせる小市民映画で、保険勧誘員として働く安サラリーマン家族の生活が哀歓とユーモアをまじえて描かれる。早くもチンドン屋や穴の空いた靴といった成瀬好みのショットが登場する。画面分割でフラッシュバックが挿入されるなど、新奇なアイデアが用いられている。

生さぬ仲
1932松竹 成瀬巳喜男 評点【D】
「生みの親より育ての親」という古臭い新派悲劇的な話がセンチメンタルに描かれる映画。脚本はのちの小津組の野田高梧。生まれた娘を放り出してアメリカに出奔した女が幼児になった娘を引き取るため帰国する。女は娘を連れ出すが、その子は女になつかず、家に帰りたいと言う。娘と暮らしてきた育ての母親はなんとかして取り戻そうとする。育ての母役の筑波雪子は日本風の清楚な風貌、生みの母役の岡田嘉子はバタくさいモダンな女優。ほかに岡譲二や突貫小僧が出演する。ところどころで成瀬らしい省略や繋ぎの技法が見られるが、全体としては展開がくどくて冗漫な作品だ。

君と別れて
1933松竹 成瀬巳喜男 評点【B】
芸者の世界を描いた映画。成瀬自身がオリジナル脚本を書いている。年増の芸者を吉川満子、彼女を慕う若手芸者を水久保澄子が演じる。吉川の息子は学生だが母の仕事を恥じて不登校になり、非行に走るが、水久保が彼を諫め立ち直らせる。二人は惹かれ合っているが、水久保は妹の身代わりに住み替えすることになり、遠くの町に旅立つ。映画は駅のホームの別れのシーンでエンドとなる。作品としては、生活の貧しさと芸者稼業の哀しさを背景とした平凡なメロドラマ映画だが、軽快な語り口や洒落たシーン繋ぎに成瀬らしさが感じられる。穴の空いた靴下から出た指先に墨を塗るショットや、飯田蝶子や突貫小僧の登場シーンで醸し出されるユーモアも成瀬ならではのもの。とりわけ、冒頭間もない港を背景にした橋の上での吉川と川久保が語るシーンは印象に残る。主演の水久保澄子が出色。水久保が出演する映画を初めて見たのは小津の「非常線の女」。目がくりっとした現代風の愛くるしい顔立ちの女優で、30年代前半にはアイドル的な人気があったという。和製シルヴィア・シドニーと言われたとのことだが、言い得て妙だ。

2023年8月某日  備忘録257 フェリーニの初期作品 その2

青春群像
1953伊 フェデリコ・フェリーニ 評点【B】
田舎の港町で定職に就かず無為に毎日を過ごす5人の若者の姿を描いた作品。フェリーニの撮影手法はそれまでと異なり、リアリズムに徹している。結婚しても行きずり女に色目を使う浮気性の男、愛する姉が男と駆け落ちして悲嘆に暮れる男、脚本家になるのを夢見て毎晩机に向かう男・・・彼らはいつもビリヤード場やバーにたむろし、鬱屈した気持ちを抱きながら海岸を歩き回る。これはフェリーニが自らの青春時代を描いた作品であろう。場所のモデルは彼の故郷リミニだ。その意味では、この映画は後年の名作「アマルコルド」の原型だと言える。最後に若者のひとりが列車に乗って旅立つが、その映像には当時のフェリーニ自身の姿が重なる。もしかしたら、5人の若者のそれぞれが当時の彼の分身なのかもしれない。旅立つ若者を見送る駅夫の少年の笑顔が印象に残る。


1955伊 フェデリコ・フェリーニ 評点【C】
フェリーニが「道」に続き師のロッセリーニを受け継ぐネオレアリスモの手法で撮った第5作。詐欺師を生業として金を稼ぐ中年男の生きざまと哀れな末路が描かれる。主役の詐欺師を演じるのはアメリカから招かれた粗野な田舎成金の役で定評のあるブロデリック・クロフォード、詐欺師メンバーの一人にリチャード・ベースハート、その妻にジュリエッタ・マシーナが扮しており、この配役や全体の雰囲気からして前作の「道」とイメージが重なる。詐欺師のグループは僧侶の振りをして貧者を騙し小金を巻き上げる。金持ちではなく貧乏人を騙すという彼らの手口がなんとも哀しい。フェリーニは良心の呵責に苛まれながらも詐欺を繰り返す小悪党たちの姿を皮肉を込めて冷徹にカメラに収めている。

2023年8月某日  備忘録256 フェリーニの初期作品 その1

寄席の脚光
1950伊 アルベルト・ラトゥアーダ&フェデリコ・フェリーニ 評点【C】
フェリーニの監督第1作。旅回りの寄席芸人一座をめぐる哀歓と皮肉が込められた喜劇。一座の団長は恋人の団員がいるのに、新加入の美貌のダンサーに入れあげて彼女とともに一座を飛び出すが・・・という話。売れっ子になったダンサーに捨てられ、元の一座に舞い戻った団長は、かつての恋人とよりを戻すが、またもや若い女芸人にちょっかいを出そうとするところで映画は終る。当時すでにフェリーニの妻だったジュリエッタ・マシーナが団長の恋人役を務めているが、その役柄はジェルソミーナやカビリアを彷彿とさせる。

白い酋長
1951伊 フェデリコ・フェリーニ 評点【A】
フェリーニ初の単独監督作品。これは見応えのある傑作喜劇だ。映画への愛、祝祭性、ユーモア、風刺、哀感、叙情性など、のちのフェリーニを特徴づける要素がすべて詰まっている。おまけに、彼の大好きな大女や火吹き芸人も登場する。描かれるのはローマにやって来た新婚夫婦が遭遇する悲喜劇。妻はホテルを抜け出して憧れのスター“白い酋長”に会いに行き、海辺のロケに同行する。夫は行方知れずの妻を探すいっぽう、会いに来た親戚一同の応対に大わらわ・・・という筋立て。俳優はみな巧く、生き生きと演じている。若妻役のブルネラ・ボーヴォは無名だが、少女にしか見えない童顔の可愛い女優。“白い酋長”役の男優は太めで冴えないが、ヴァレンチノのパロディであろう。夜のローマの街に娼婦役で登場するジュリエッタ・マシーナの役名は、なんとカビリア! 嬉しいことにフェリーニはここでのちの名作を予告していたのだ。特筆すべきはニーノ・ロータの「8 1/2」を思わせる祝祭的な高揚感に包まれた音楽。ロータはこのあとすべてのフェリーニ映画の音楽を手がけることになる。愛すべき幸せな映画だ。

2023年8月某日  備忘録255 カール・ドライヤーの映画 その2

奇跡
1955デンマーク カール・ドライヤー 評点【C】
ドライヤーの映画で一作だけ挙げろと言われればこれだ、ということになっているようだが、どこがいいのか理解しがたい。これは明らかな宗教映画であり家庭劇の側面もある。老農場主ボーエン一家の生活と彼らに訪れる奇跡が描かれる。自分をキリストと同一視し、精神異常と見なされていた次男が祈りで奇跡を起こし、産褥で死んだ長男の嫁が生き返る。無神論者だった長男は信仰に目覚め、老家長は敵対していた宗派の異なる一家と和解し、その家の娘と相思相愛だった三男の結婚を許す。筋立てからすれば、表面的にはキリスト教礼賛映画にしか見えない。前作と同じく長回しを多用した舞台劇風の作品。

ガートルード
1964デンマーク カール・ドライヤー 評点【D】
ドライヤーのそれまでの作品とは異なり、これは宗教色のない恋愛と女性の自立を題材とする室内会話劇。政治家の妻ガートルードは夫と離婚して若い音楽家と結婚しようとするが、彼にとって自分が遊びの対象でしかないのを知り、今は詩人として成功したかつての恋人の求愛を振り切り、ひとりでパリに旅立つ、という話。「怒りの日」以降の3作はみな撮り方が同じで、これも室内シーンでの固定カメラによる長回し撮影を主体とした映画であり、正直に言って冗長で退屈するが、なかには鏡を使った印象的なショットもある。

2023年8月某日  備忘録254 カール・ドライヤーの映画 その1

裁かるるジャンヌ
1928仏 カール・ドライヤー 評点【D】
異端審問で有罪となり火刑に処せられるジャンヌ・ダルクを描いた作品。サイレント映画の傑作といわれているが、極端な顔のクロースアップ撮影による同じような映像がえんえんと続き、見ていると退屈する。トランス状態に入ったようなジャンヌダルクの表情と審問官たちのグロテスクな形相が印象に残る。表現主義的なシークエンスも挿入されており、現実感はないのになぜか生々しさを感じさせる。ブレッソンはこの映画を観客に涙を強要していると批判して彼の「ジャンヌダルク裁判」を撮った。

怒りの日
1943デンマーク カール・ドライヤー 評点【D】
ドライヤーは作品によって撮影手法を変える。クロースアップを多用して即物性を強調した「裁かるるジャンヌ」、禍々しい悪夢のなかをさまよい歩くような気分にさせる「吸血鬼」に続くこの「怒りの日」は、中世の魔女裁判を題材にリアリズム的な手法によって撮られた映画。村の牧師とその若い後妻、牧師の先妻の息子の3人が主要な登場人物。後妻は牧師の先妻の息子と愛し合うが、牧師が急死し、魔女だと告発される。舞台劇の雰囲気が濃厚であり、長回しが多用されるため鈍重な印象を与える。


2023年7月

2023年7月某日  備忘録253 気になっていたベルイマンの映画 その2

沈黙
1963瑞 イングマール・ベルイマン 評点【D】
ベルイマンの映画はますます晦渋の度合いが濃くなっていく。これは神の沈黙3部作の最終作とされている作品。主演はイングリッド・チューリン。姉と妹、妹の息子の3人は列車の旅の途中、姉の体調が悪くなったので、途中下車し、ホテルに泊まる。そこは異国の町で言葉はまったく通じない。小学生の息子はホテルのなかを探検する。奔放な妹は町に出て見知らぬ男と情事を持つ。理性的な姉はホテルで寂しさに苛まれ、精神に異常を来たす。姉と妹はお互いに罵倒し合う。そんな様子がえんえんと描かれ、最後は身心を病む姉をホテルに残し、妹が息子とともに列車に乗る・・・というストーリーだが、筋を語ってもあまり意味はない。ごく少数の登場人物、閉ざされた空間、いがみ合う姉妹は、後期のベルイマンではお馴染みの設定だ。たびたび登場する侏儒の芸人一座、町の通りに現れる1台の戦車、姉が妹の息子に託す紙片、といった思わせぶりな挿話が随所に現れる。少年がホテルの廊下を歩き回るシーンはキューブリックの「シャイニング」を彷彿とさせる。日本で公開された当時、女性の自慰が描かれていると話題になった記憶があるが、いま見るとどうってことはない映像だ。人間の心にある孤独と不安と渇望を描いたものであろうが、見続けるには忍耐を要する。60年代初期の愛の不毛を描いたミケランジェロ・アントニオーニの映画を思わせる。

仮面/ペルソナ
1966瑞 イングマール・ベルイマン 評点【D】
ベルイマンを巡る筆者の私的な旅はこの映画で終結する。これは観念的な意匠が頂点に達したと思われる作品であり、前衛的な手法も使われている。失語症に陥った舞台女優を世話する看護婦は、転地療養のため、海辺の別荘で二人だけの生活を送ることになる。看護婦は女優に自分の過去をあけすけに語り、二人は親密な関係になるが、ある日、女優が医師に書いた手紙を盗み読み、彼女が自分の言動を観察、研究していることを知った看護婦は激怒する。看護婦は女優に怒りをぶつけるが、その時点から彼らの関係は奇妙に変容し始め、人格が入り交じり、同化していく。看護婦をビビ・アンデルセン、女優をリヴ・ウルマンが演じる。これもベルイマン特有の、限られた俳優、閉ざされた空間での女同士の確執のドラマだ。だが、ここでの確執は、人格の混交、融合、一体化へと進展する。映画は、本筋とは関係ない、少年が画面の女に手をかざすショットで始まり、同じショットで終る。この少年を演じているのは「沈黙」で息子を演じたのと同じ子役だ。冒頭の、映写機、古いアニメ、勃起したペニス、蜘蛛、殺される羊、手のひらに打ち付けられる釘などの短いショットが脈絡なしに映し出されるシークエンスは、ルイス・ブニュエルの「アンダルシアの犬」を想起させる。激怒した看護婦の表情のあとフィルムに火がついて燃え上がるショットは、一種の異化効果であろうか。このアイデアはいろんな監督に影響を与えて引用されたとのことだが、それらの映画を見ていないのでよく分からない。随所で意味ありげに挿入される、ベトナムで抗議の焼身自殺をする僧侶の映像や、ワルシャワ・ゲットーで手を上げる少年の画像などは、ゴダール風のあざとさを感じる。

2023年7月某日  備忘録252 気になっていたベルイマンの映画 その1

魔術師
1958瑞 イングマール・ベルイマン 評点【C】
これはベルイマンの初期を締めくくる作品だという。作品系列で言えば、「野いちご」(1957)と「処女の泉」(1960)に挟まれている。旅回りの魔術師一座が町に入り、領事の屋敷に招待されて魔術を披露することになる。領事は警察署長や医師とともにインチキを暴いて彼らを晒し者にしようとする。翌朝、ショウを始めた魔術師は、トリックを暴かれるが、催眠術を使ったり、死体生き返りの奇術を使ったりして警察署長や医師を恐怖に陥れる・・・という話。一座の団長の魔術師にマックス・フォン・シドー、その妻の助手にイングリッド・チューリンが扮する。これは魔術と科学の対立を主題とする喜劇映画であろうか。一部で評価が高いようだが、舞台劇のような雰囲気が濃厚で、さほど面白さは感じられない。ただし、冒頭の丘の上や森の中を走る馬車のシーンの映像美は格別だ。魔術師は唖者という触れ込みだったが、のちに本当は喋ることができるのが明かされ、また変装を解くとごく普通の男になり、最後には、領事にいくらでもいいから料金を払ってくれと懇願する。そこにベルイマンのシニカルな視線を感じる。一行が森の中で拾うがすぐ死んでしまうアル中の元役者は死体生き返りの術に使うために用意された役のように思われる。領事の館で一夜を過ごす一座の男女が、領事の妻や医師や女中に言い寄られたり懇ろになったりするのは、一座の薬売りの老婆が処方するインチキ媚薬と相俟って、シェークスピアの「夏の夜の夢」を想起させないでもない。

鏡の中にある如く
1961瑞 イングマール・ベルイマン 評点【C】
ベルイマンの神の沈黙3部作の第1作と言われる作品。作家が、精神分裂病を患う娘、娘の夫である医師、ハイティーンの息子とともに島の別荘で過ごす2日間を描いた映画。出演者はこの4人だけ、舞台はこの島だけというミニマルな設定だ。そのせいか、この映画にも演劇的な味わいを感じる。医師をグンナール・ビョルンストランド、娘をハリエット・アンデルセン、その夫をマックス・フォン・シドーというベルイマン映画の常連が演じる。「娘の病気は完治しないが、文学者として病状を冷静に観察する」と書かれた父の日記を盗み読んだ娘は病状を悪化させ、欲情に身もだえし、2階の部屋に神が現れると口走る。彼女は弟を誘惑して関係をもち、2階の部屋で神に登場を喜び、暴れ出し、救急ヘリで病院に運ばれる。最後は、姉と関係して罪に苛まれる弟に、父が「あらゆるかたちの愛は神であり、愛で絶望を乗り越えられる」と説くシーンで終る。娘の言動だけでなく、彼らの会話のなかの随所に神に関する考察が現れる。神の存在または不在がこの映画の主題であることは明らかであり、それゆえ非キリスト者にとっては面白くないし、心に迫るものがない。しかしモノクロの映像は見事であり、スヴェン・ニクヴィストのカメラは、海の波影、海岸に打ち寄せる波、白夜の光陰を美しく捉えている。作家の父親の役柄にはベルイマン自身が投影されているように感じる。序盤で父親のために姉弟が演じる寸劇はどんな意味があるのかよく分からないが、このあとの物語の展開を暗示していると受け取れないでもない。

2023年7月某日  備忘録251 溝口健二の映画、残りを全部見る その3:戦後低迷期の映画

女性の勝利
1946松竹 溝口健二 評点【D】
溝口健二の戦後第1作。GHQの占領政策に沿った民主主義の啓蒙映画で、戦前の封建的な因襲の打破、女性の自立と解放がテーマになっている。主演の女性弁護士に田中絹代、その姉で封建的な考えに凝り固まった検事に付き従う妻に桑野通子、絹代の幼なじみで貧窮のあまり愛児を死に至らしめる女に三浦光子が扮する。田中絹代は法廷で三浦光子を弁護し、断罪する義兄の検事に対して、封建的で弱者を放置する社会制度とに罪があると主張する。当然ながらこのようなテーマは溝口に相応しくない。溝口らしい長回しの撮影と奥行きのある構図は健在だが、描き方があまりにも図式的でわざとらしい。田中絹代は熱演しているが、洋装と弁護士の法衣がまったく似合っていない。因襲に囚われた姉を桑野通子、進歩的考えの妹を田中絹代が演じているわけだが、キャラクターからして逆の配役のほうが様になっていただろう。桑野通子はこの映画の撮影終了直前に倒れて亡くなった。

わが恋は燃えぬ
1949松竹 溝口健二 評点【C】
明治時代中期、自由民権と女性解放運動に身を捧げた福田英子の若き日を描いた、「女性の勝利」とよく似た内容の映画。溝口の戦後第5作で、低迷はまだ続いている。主人公の福田英子に田中絹代、田中と恋仲になる自由民権運動の闘士、大井憲太郎に菅井一郎、田中が助ける女工に水戸光子が扮する。ほかに田中の元恋人で政府のスパイになる男を小沢栄、板垣退助を千田是也、伊藤博文を東野英治郎が演じる。田中は自由民権の意識に目覚め、岡山から東京に出てきて運動に身を投じ、菅井一郎に憧れて同棲する。しかし、弁舌は進歩的で立派だが、田中が助けた女工に手を付けて平然としている菅井一郎の旧態依然たる考え方に幻滅した彼女は、故郷に帰って女学校を開こうと決意する。映画には、製糸工場で働く女工の悲惨な境遇や、投獄された田中絹代の獄中生活の描写が織り込まれる。これも溝口には似合わない題材だが、人物の描き方が重層的なのでドラマとして深さを感じる。田中絹代は当時40歳、若い娘を演じるにはかなり薹が立った風貌になってしまっている。


2023年6月

2023年6月某日  備忘録250 溝口健二の映画、残りを全部見る その2:戦前のトーキー映画

虞美人草
1935第一映画 溝口健二 評点【D】
夏目漱石の小説の映画化。ラスト・シーンが欠落している。画質はともかく、音が劣悪で、よく聴き取れない。英語字幕でようやく筋を追いかけることができた。一種の群像劇で、主演が誰なのかがはっきりしないが、話は男を手玉に取る虚栄心の強い女、藤尾=三宅邦子と、彼女を愛する二人の青年、夏川大二郎と月田一郎の三角関係を軸に展開する。全体に描き方が浅いし、盛り上がりに欠ける。月田一郎は山田五十鈴と結婚した俳優で、初めて見るが、押し出しはやや地味ながら、なかなかのハンサムだ。

名刀美女丸
1945松竹 溝口健二 評点【B】
刀鍛冶を主人公とする一種の芸道もの。溝口の監督作品にしては珍しく、何ヵ所か剣戟の場面が織り込まれている。花柳章太郎と山田五十鈴の主演、ほかに花柳一門の新派の役者が出演する。その顔ぶれはこれより2年前の成瀬巳喜男の映画「歌行燈」とほぼ同じだ。映画としては「歌行燈」のほうがはるかに優れているけれど、この「名刀美女丸」も世評は低いがそれほど悪い出来ではない。なまくら刀を献納したせいで恩人を死なせてしまって苦悩する若い刀鍛冶が恩人の娘の仇討ちのために精魂込めて名刀を作るという話。山田五十鈴の女剣士は姿勢が良く佇まいが美しい。溝口は長回しと引き撮りで緊張感を見事に持続させる。中盤の主人公の二人が再会する夜のシークエンス、エンディングの舟旅のシークエンスなど、印象深い場面も多い。

2023年6月某日  備忘録249 溝口健二の映画、残りを全部見る その1:サイレント映画

瀧の白糸
1933入江プロ 溝口健二 評点【B】
泉鏡花原作の新派悲劇。入江たか子と岡田時彦の主演のサイレント映画。人気の高い女水芸人、瀧の白糸は、乗合馬車の御者の若者と親しくなる。若者が貧しいため学問を断念したことを知った彼女は、彼を東京に送り出し、仕送りをして生活を援助する。やがて人気が落ち、仕事が低迷した彼女は、高利貸しから金を借りようとするが、体を求められ誤って彼を刺殺する。学業を終えて検事になった若者は彼女を告発せざるを得ない羽目に陥る・・・。ひとつひとつの挿話が丁寧に陰影深く描かれており、とりわけ、おぼろ月の夜、橋の下で瀧の白糸と若者が再会し、言葉を交わすシーンは印象に残る。入江たか子は当時21歳、人気の絶頂期で、じつにきれいに撮れている。悪辣な高利貸しに菅井一郎、金を借りて雲隠れする女芸人に浦辺粂子が扮している。

折鶴お千
1935第一映画 溝口健二 評点【A】
これも泉鏡花の小説「売色鴨南蛮」を原作とするサイレント映画。大学のころの友だちのひとりが泉鏡花のファンで、好きな小説は「売色鴨南蛮」と言っていたのを思い出す。話の筋は「瀧の白糸」と同工異曲。主演は山田五十鈴と夏川大二郎。心ならずも骨董屋一味の悪徳商売を手伝っているお千は、自殺しようとしている貧しい医学生を助け、彼を支え励まして、勉強を続けさせる。やがて彼は医者になる。お千は逮捕され、零落する。最後は医者の彼が精神に異常を来たしたお千を病院に見舞うシーンで終る。新派悲劇だが、的確な撮影により纏綿たる情緒を漂わせている。とくに逮捕されたお千が胸元の折鶴を口にくわえ、見送る若者に投げ送るシーンの美しさは格別。当時17歳の山田五十鈴はすでに臈長けており、洗練された美しさを発散している。

2023年6月某日  備忘録248 かつて見た懐かしい原節子出演映画

ノンちゃん雲に乗る
1955新東宝 倉田文人 評点【C】
これは公開年からすると小生が小学2年生のときに見たことになる。母親に誘われて一緒に見たと記憶する。小学低学年の女の子が木から池に落ち、病床で意識不明に陥っているあいだに、雲の上で仙人に身の上話をする夢を見る、というファンタジー風味の児童向け文部省選定映画。主演の鰐淵晴子は当時10歳、その父母を原節子と藤田進が演じている。彼らの家にはちゃぶ台があり、風呂は焚きつけで沸かし、母は縫い物に精を出し、兄と妹は些細なことで喧嘩し、腕白な兄は父に殴られる、という当時の日本のごく普通の家庭の風景が映し出されるのが懐かしい。原節子は白内障の手術をして1年半ぶりの映画出演だった。原節子が母親役をやるのはこれが初めてではないだろうか、心持ち頬がふっくらしており、美しく優しいお母さんをしっとり演じている。原と藤田は戦前から戦後にかけてたくさんの映画でカップルを演じた。当時10歳の鰐淵晴子は夢のなかでヴァイオリンやバレエの腕前を披露する。この可憐な美少女が、のちに青春スターを経て妖艶な熟女になり、ヌード写真集を出版し、男と浮名を流すに至るとは、げに女は恐ろしきかな。

日本誕生
1959東宝 稲垣浩 評点【C】
これを見たのは中学2年のころだっただろうか。冒頭に出てくる半裸の男女、イザナギとイザナミの姿に胸がドキドキしたことを覚えている。いま見ればどうってことないシーンだが。記紀をもとにした神話時代の日本の物語で3時間の大作。朝廷に派遣されて日本武尊が赴く征西と東征を中心に描かれる。その間に天照大神の天岩戸隠れや須佐之男命による八岐大蛇退治の挿話が織り込まれる。主演の三船敏郎は日本武尊と須佐之男命の二役。東宝のスターが総出演するが、なぜか森繁久彌がいない。俳優クレジットのトリを飾る原節子は、天照大神を演じて神々しい美しさを放つ。三船の相手役を務める女優は納得の司葉子と香川京子。三木のり平、小林桂樹、加東大介、有島一郎などの喜劇スターは天岩戸の挿話で登場する。岩戸をこじ開ける手力男命を朝汐太郎が演じているのが懐かしい。

2023年6月某日  備忘録247 オーソン・ウェルズの映画 その2

フォルスタッフ
1966西・仏 オーソン・ウェルズ 評点【B】
シェークスピアのいくつか作品に脇役で登場する大兵肥満の老騎士フォルスタッフを主人公とする物語。主に「ヘンリー4世」が下敷きになっている。狡猾で好色、大酒飲みで強欲だが憎めない性格のフォルスタッフをウェルズは水を得た魚のように演じる。英国王の城館や場末の安宿のセットが見事で、空間を生かしたカメラワークも素晴らしい。フォルスタッフは放蕩好きの王子とつるんで悪ふざけを楽しむが、父王が死に即位したとたん、王子はこの旧友を遠ざけ、追放処分にする。見終わって「おもしろうて、やがて悲しき・・・」という芭蕉の句が思い浮かぶ。フォルスタッフと気の合う安宿の娼婦に扮するジャンヌ・モローがいい。

フェイク
1975イラン・仏・西独 オーソン・ウェルズ 評点【D】
オーソン・ウェルズが完成させた最後の監督作品。ナレーター兼進行役をウェルズ自身が務める、贋作画家エルミア・デホーリーと贋作作家クリフォード・アーヴィングへのインタヴューが中心となったドキュメンタリー風の映画。しかし、ウェルズが「この映画の半分は本当で半分は嘘」と言うとおり、ピカソやハワード・ヒューズの逸話、自らの来歴を語るうちに、しだいに虚実が曖昧になっていく。ピカソの「芸術はひとつの嘘だ」という言葉を紹介してこの映画は終る。ウェルズらしい映画と言えるだろうが、内容としてはあまり面白さを感じられない。

2023年6月某日  備忘録246 オーソン・ウェルズの映画 その1

オセロ
1951モロッコ・伊・米 オーソン・ウェルズ 評点【C】
ウェルズが「マクベス」に続いて作ったシェークスピアの悲劇。幾度かの製作中断を経て、4年をかけてモロッコで完成させたという。ムーア人の将軍オセロが奸臣イヤーゴの讒言を信じて貞節な妻デズデモーナを殺すという有名な話。ウェルズが製作・監督・脚本・主演を務める。「マクベス」ほど面白くはないが、冒頭と末尾で映し出されるオセロとデズデモーナの葬列の、古代の異教の儀式を思わせる異様な光景、キプロス島の居城の奇観、陰影に富む撮影、奥行きを感じさせる構図、素早い場面展開など、見どころは多い。デズデモーナ役のスザンヌ・クルーティエは無名だがなかなか品格のある美形の女優だ。

秘められた過去
1955仏・西・瑞 オーソン・ウェルズ 評点【D】
フィルム・ノワール風のスリラー映画。これも制作・監督・脚本・主演はウェルズ。回想形式でひとりの男の過去が暴かれるという筋立ては「市民ケーン」を思わせないでもない。元水兵の男が、波止場で殺された男からアーカディンという名前をを聞き、金の匂いを嗅ぎつけて、そのアーカディンという大富豪に接触する。アーカディンから記憶にない自分の過去を調べてほしいと依頼された彼は、アーカディンゆかりの人々に会って話を聞き、過去を探るうちに、それらの人々が不審死を遂げ、その影にアーカディンがいることに気がつく・・・というストーリー。導入部は鮮やかで、撮影も陰影に富んでいる。しかし、そのあとの展開が平板で盛り上がりに乏しいし、全体のプロットも不自然だ。アーカディンを演じるウェルズは黒マントに特異な風貌でなかなか存在感がある。彼の言動はすべて謎めいていて、何が本当なのか判然としない。ウェルズはこの映画で元水兵と恋仲になるアーカディンの娘を演じたパオラ・モリスと結婚した。

2023年6月某日  備忘録245 小津安二郎のサイレント映画、残りを全部見る その4

浮草物語
1934松竹 小津安二郎 評点【B】
喜八ものの第2作で、小津が戦後にリメイクした名作「浮草」のオリジナル版。あらすじや話の流れは「浮草」とほぼ同一だ。喜八ものとはいえ、坂本武演ずる旅芝居一座の座長、喜八のキャラクターは第1作とはかなり異なる。「浮草」では杉村春子が演じた座長の昔の愛人である飲み屋の女将には飯田蝶子が扮する。戦前の小津映画において、飯田蝶子は戦後に杉村春子が担った役割を果たしていると言える。坂本と飯田の隠し子を演じる三井弘次はリメイク版で座員のひとりに扮していた。小津は坂本と三井の親子が川で釣りをするシーンで竿の動きをシンクロさせているが、これは「父ありき」での笠智衆と佐野周二による釣りのシーンの原型と言える。映画としてはよく出来ているが、全体的に新派演劇風の芝居がかった調子が強く、やや興ざめする。成瀬巳喜男が1940年に撮った、同じく旅芝居一座の日常をテーマとする「旅役者」と比較してみるのも面白いだろう。

東京の宿
1935松竹 小津安二郎 評点【C】
坂本武が主演する喜八ものの最終作。サイレント映画だがサウンド版で音楽が付随している。喜八シリーズはだんだん暗い内容になる。この不況下で苦しむ下層庶民が描かれる最終作がいちばん暗く、切ない。喜八は二人の幼い男の子を連れて、昼間は職を求めてさまよい歩き、夜は木賃宿に泊まるという日々を過ごしている。職は見つからず、金がなくなり途方に暮れているところに、昔なじみの飯屋の女将=飯田蝶子と遭遇し、彼女の助けで働き口が見つかり、まともな生活ができるようになる。それも束の間、彼は女の子を連れたその日暮らしの女=岡田嘉子に同情し、女の子が病気で入院した治療費にあてるため強盗を働く。最後は、喜八が子供を飯田蝶子に託し、彼女に見送られて警察に出頭するシーンで終る。映画としてはよく出来ており、子供の描き方も巧妙だが、これも前作と同じく後半は新派芝居じみてくる。飯田蝶子はこのころ30代半ばだが、すでに年増の貫禄を漂わせており、その存在感は絶大。妙な色気を発散する岡田嘉子は、この映画公開の2年後、厳寒の樺太を超えてソ連に亡命した。

2023年6月某日  備忘録244 小津安二郎のサイレント映画、残りを全部見る その3

出来ごころ
1933松竹 小津安二郎 評点【A】
坂本武が主演する「喜八もの」の第1作にあたる人情喜劇。工場労働者の坂本武=喜八は、相棒の大日方伝や近所の飯屋の飯田蝶子に助けられながら息子の突貫小僧を育てている。坂本は行き場のない娘、伏見信子に同情し、飯屋に頼んで働き口を世話する。坂本はこの娘に惚れるが、娘は相棒の大日方に気がある。話は彼らの日々の生活、三角関係、親子の情などを描きながら展開する。脚本が優れており、出演者たちもみな達者に演じている。とくに突貫小僧の天衣無縫な演技は特筆に値する。これはサイレント時代の小津の代表作のひとつだろう。小津独特の撮影技法はすでに定着している。無学でけんかっ早いがお人好しで情にもろい喜八のキャラクターはまぎれもなく山田洋次のフーテンの寅の原型であろう。

母を恋わずや
1934松竹 小津安二郎 評点【C】
母子愛と兄弟愛を描いたファミリー映画。全9巻のフィルムのうち最初と最後が欠けた不完全版しか残っていない。夫が急死し、妻の吉川満子は、長男=大日方伝と次男=三井弘次を懸命に育て上げる。長男は夫の先妻の子であり、それを知った長男は一時ひねくれるが、義母の愛が分かって心を入れ替える。しかし大学に入った長男は母の愛が偏っていると思い込んで家出し、母と次男は胸を痛める。最後は元の鞘に収ってしあわせに終る。次男の学友に笠智衆、学校の用務員に坂本武、チャブ屋の掃除婦に飯田蝶子という常連の役者が出演している。とりわけ家出した長男を諭す掃除婦の飯田蝶子が印象深い。ここにも小津の動作のシンクロへのこだわりが見られるが、全体として筋立てに無理があり、感傷性に流れて間延びした展開になってしまっている。

2023年6月某日  備忘録243 小津安二郎のサイレント映画、残りを全部見る その2

青春の夢いまいづこ
1932松竹 小津安二郎 評点【C】
若者の生態を通して当時の世相を描いた喜劇。会社社長の息子、江川宇礼雄は、斉藤達雄など3人の仲のいい友人や、ベーカリーの看板娘、田中絹代との交友を楽しみながら学生生活を送っていたが、父親が急死したため退学して会社を継ぐ。友人たちから入社したいと言われた江川は策を練って入社させてやる。江川は田中と結婚しようとするが、斉藤が田中と婚約していたのに立場を考慮して黙っていたことを知り、斉藤を殴る。最後に彼らは仲直りし、斉藤と田中の門出を祝う・・・。友人のひとりに笠智衆、斉藤の母に飯田蝶子、学校の用務員に坂本武が扮する。他愛ない話だが、比較的巧くまとまっており、随所にユーモアと風刺がちりばめられている。新婚旅行に出かける斉藤と田中が乗った列車に向かって、友人たちが並んでビルの屋上から手を振るエンディングの構図は、戦後の小津映画でも使われていた。

東京の女
1933松竹 小津安二郎 評点【E】
これも下層社会の一断面を描いた映画だが、内容は暗い。50分弱の小品。学生の江川宇礼雄は会社勤めの姉、岡田嘉子と二人暮らし、近所の娘、田中絹代とは相愛の仲だが、姉が生活費を稼ぐために水商売のアルバイトをしていることを知り、姉を殴って家出して自殺するというストーリー。ここではロウ・ポジションのカメラ・アングルが多用されており、小津独自の技法が完成されつつあるとの感を抱くが、小津映画のなかでは「東京暮色」と並んで後味の悪い作品だ。自殺はあまりに唐突であり、なぜこんな不自然かつ強引な筋立ての映画を作ったのか理解に苦しむ。

2023年6月某日  備忘録242 小津安二郎のサイレント映画、残りを全部見る その1

学生ロマンス 若き日
1929松竹 小津安二郎 評点【D】
現存する小津安二郎監督映画のなかでいちばん古い作品。大学生の友人2人による女を巡る恋のさや当てと、スキー旅行に出かけた学生たちの行動を描いたコメディ。米国のコメディ映画の影響が顕著で、小津らしさはいまだ発揮されていない。主演は結城一郎と斉藤達雄。小津映画の常連、飯田蝶子と笠智衆が早くも脇役で顔を出している。

朗らかに歩め
1930松竹 小津安二郎 評点【C】
高田稔と川崎弘子の主演。チンピラのやくざが若い娘に一目惚れし、やくざ稼業から足を洗って正業にに就く話。アメリカ映画の影響が濃厚で、洋風の風俗が頻繁に映し出される。のちの小津映画の特徴のひとつである、複数の登場人物の動作をシンクロさせる手法が何度も使われているし、やかんのアップも出てくるのが興味深い。

2023年6月某日  備忘録241 パウエル&プレスバーガーの芸術映画

赤い靴
1948英 パウエル&プレスバーガー 評点【B】
さらに英国つながりで、パウエル&プレスバーガーの2本の映画を見た。これはアンデルセンの童話「赤い靴」をモティーフにした野心的なバレエ映画。有名バレエ団を率いる芸術プロデューサーは若い無名のバレリーナを抜擢して新作バレエ「赤い靴」を上演し、大成功を収める。バレリーナは一躍人気スターになるが、バレエ団の作曲家と恋仲になり、恋愛を取るか、バレエを取るかで苦悩する。赤い靴を履いた少女が死ぬまで踊り続けるという「赤い靴」のストーリーそのままに、映画は悲劇的な結末を迎える。主演のバレリーナに扮するモイア・シアラーは美人ではないが愛嬌のある顔立ちで、体の線も美しい。劇中で上演される10数分に及ぶバレエのシーンは迫力満点、テクニカラーの映像が鮮やかだ。バレエ団の団長はバレエ・リュスのディアギレフがモデルらしい。名高い振付師レオニード・マシーンがダンサーとして出演しているのも興味を呼ぶ。

ホフマン物語
1951英 パウエル&プレスバーガー 評点【D】
これはオッフェンバック作曲のオペラ「ホフマン物語」の映画化。パウエル&プレスバーガーによる前作に続くテクニカラー芸術映画だが、なにしろ全編がオペラなので、オペラ好きならともかく、あまり関心のない者にとっては見ていると退屈する。


2023年5月

2023年5月某日  備忘録240 英国のスリラー&サスペンス映画 その6

山羊座のもとに
1949英 アルフレッド・ヒッチコック 評点【C】
ついでに、これまで未見だった中期ヒッチコックの低評価されている2本の映画を見た。これは19世紀末のオーストラリアを舞台にした恋愛ドラマ。ゴシック・ロマン風の筋立てて、「嵐が丘」と「レベッカ」を足して2で割ったような作品。英国総督の甥マイケル・ワイルディングがシドニーにやって来て、元は受刑者の有力実業家ジョセフ・コットンと知り合い、彼の屋敷を訪れ、精神状態が異常な妻イングリッド・バーグマンと出会って恋に落ちる。映画はこの三角関係と英国時代の夫婦の秘密を巡って展開する。屋敷の冷酷な女執事は「レベッカ」のダンバース夫人を思わせる。ヒッチコックがバーグマンに「たかが映画じゃないか」と言ったのは、たしかこの映画の撮影中だった。原題の「capricorn」とは「山羊座」ではなく「南回帰線」を意味しているであろう。

スミス夫妻
1941米 アルフレッド・ヒッチコック 評点【C】
これはヒッチコックには珍しく、スリラーの要素がまったくない純然たるコメディ映画。主演はキャロル・ロンバードとロバート・モンゴメリー。愛し合っているのに喧嘩が絶えない夫婦が、自分たちの結婚が無効だったことを知らされて巻き起こる騒動が描かれる。ロンバードのコメディエンヌとしての巧さが際立つ。下品な女を連れてレストランに来た夫が、別の席にいる妻と目が合い、隣にいる見ず知らずの美女に、さも連れのように話しかけるシーンが抱腹もの。

2023年5月某日  備忘録239 英国のスリラー&サスペンス映画 その5

暗殺者の家
1934英 アルフレッド・ヒッチコック 評点【C】
英国サスペンス映画の源流はヒッチコック。ということで、英国時代のヒッチコックの未見だった3本の映画を見た。これは言わずと知れた戦後のリメイク版「知りすぎていた男」のオリジナル・ヴァージョン。国際陰謀団に誘拐された娘を夫婦が必死に取り返そうとする話。陰謀団のアジトを知っているが、脅迫されているため警察に言えない夫は、友人とともに自力でアジトを探る。陰謀団の首領ピーター・ローレの強烈なキャラクターが際立っているが、主役の夫婦の印象が薄く、当然ながらリメイク版ほど出来は良くない。

間諜最後の日
1936英 アルフレッド・ヒッチコック 評点【C】
サマセット・モーム作のスパイ小説の映画化。ドイツのスパイを摘発するため英国諜報員ジョン・ギールグッドがスイスに派遣される。彼は美人の女間諜マデリーン・キャロル、得体の知れない女好きの助手ピーター・ローレとともに任務に就く。コミカル仕立てで、ヒッチコックらしさは随所にあるが、全体的には緩い印象を与える。

サボタージュ
1936英 アルフレッド・ヒッチコック 評点【B】
ジョセフ・コンラッドの小説「密使」の映画化。ロンドンを舞台に破壊工作の一味と警察との攻防が描かれる。夫ともに映画館を営む若妻にシルヴァイア・シドニー、金ほしさに破壊活動に従事するその夫にオスカー・ホモルカが扮する。刑事が隣の八百屋の店員になりすまして彼を監視している。映画は全体としてサスペンスに満ちており、英国時代のヒッチコックの代表作のひとつと言えるだろうが、唯一の瑕瑾は爆弾の運び屋にさせられたシドニーの弟の無邪気な少年が爆死してしまう設定にしたこと。そのためこれは後味の悪い作品になった。ヒッチコック自身もそうすべきではなかったと語っている。

2023年5月某日  備忘録238 英国のスリラー&サスペンス映画 その4

ダイヤモンド作戦
1959英 マイケル・マッカーシー 評点【D】
第2次大戦中の英国の秘密作戦を描いた映画。オランダに侵攻したドイツ軍がアムステルダムに向けて進撃している最中、アムスにある大量のダイヤモンドを英国に移送するため、宝石商ピーター・フィンチは仲間の2人とともにアムスに潜入する。彼らは陸軍省に務める女エヴァ・バルトークの助けを借り、ナチス第5列の攻撃に遭いながら、宝石商たちからダイヤを集め、さらに銀行にあるダイヤを爆破して取り出そうとする・・・。ヒロイズムとご都合主義が目立ち、内容的には盛り上がりに欠ける。

地獄のガイドブック
1964英 ラルフ・トーマス 評点【B】
東西冷戦の最中、スパイに仕立てられた男の必死の逃走劇を描くコミカルなスパイ映画。英国の売れない作家ダーク・ボガードはそれと知らずにスパイに仕立てられ、チェコのプラハを訪れて情報を持ち帰ろうとするが、スパイであることが発覚し、秘密警察長官の娘で運転手として同行するうちに彼と恋に落ちたシルヴァ・コシナの助けを得て、追いかける秘密警察の手を逃れて英国大使館に逃げ込もうとする。これは掘り出しものの映画だ。ホテルマン、労働者、民族衣装の芸人、牛乳配達員など、いろんな格好に変装してプラハの街を逃げ回るボガードの逃走劇は、コメディとはいえ、なかなか緊迫感にあふれている。死んだ諜報員の遺品が整理され、「007」の名札が外される冒頭のシーンが洒落ており、笑いを誘う。ボガードの巧さもさることながら、シルヴァ・コシナのグラマラスな美女ぶりも際立つ。コシナはヘラクレス映画でスティーヴ・リーヴスと共演したころとは印象が異なり、妖艶味が増している。

2023年5月某日  備忘録237 英国のスリラー&サスペンス映画 その3

黄金の竜
1949英 ロナルド・ニーム 評点【B】
舞台は北アフリカの小さな町。発掘された古代の遺品を調査するためにやって来た英国の考古学者トレヴァー・ハワードが巻き込まれる武器密輸一味との争いを描いた映画。彼は投宿するホテルの娘アヌーク・エーメと恋に落ちる。異国情緒と恋愛を絡ませたスリラーだが、出来は悪くない。夜、豪雨の中、ハワードが車を運転してホテルを目指す冒頭のシーンが印象に残る。崖崩れで道が途切れたため、彼は山の中を歩いてホテルを目指すが、その途中に武器密輸の現場を目撃する。ハワードが海中でエーメの兄の死体を見つけるシーンや、イノシシ狩りのなかをハワードとエーメが逃げ惑うラスト・シーンも緊迫感に富んでいる。エーメの瑞々しさが絶品だし、敵役のハーバート・ロムも好演している。

キャンベル渓谷の激闘
1957英 ラルフ・トーマス 評点【C】
ハモンド・イネスの冒険小説の映画化。急死した祖父の遺志を継ぎ、石油発掘のためロッキー山中にやって来た英国青年ダーク・ボガードは、そこにダムを建設しようとするスタンリー・ベイカー一味の妨害に遭いながら、不治の病に冒されている身にむち打ち、祖父の友人の娘や測量技師の助けを得て発掘作業を始める・・・。ボガートの弱々しさのなかに強靱な意志をうかがわせる風情がいい。またロッキーの大自然の美しさ、終盤のダムが決壊するシーンの迫力もなかなかのもの。

2023年5月某日  備忘録236 往年の欧州名画、落ち穂拾い〜ロッセリーニの2作

ストロンボリ
1949伊・米 ロベルト・ロッセリーニ 評点【C】
ロッセリーニがイングリッド・バーグマンを起用して作った数本の映画の第1作。この映画撮影中に二人は不倫関係に陥り、バーグマンはアメリカのファンから反感を買うことになる。これはネオレアリスモで描く神と自然を主題とした映画。第2次大戦終戦直後、リトアニア出身の女バーグマンは難民キャンプから抜け出すため、キャンプで知り合ったイタリアの漁師の若者と結婚し、彼の故郷であるティレニア海の火山島ストロンボリに行く。だが、島の貧しい生活、住民がよそ者に向ける冷たい視線に耐えきれず、火山の噴火に乗じて脱出しようとするが、噴火口付近で力尽き倒れ、神に助けを求める。バーグマンが火口をさまよう姿は、「新しき土」のラストの原節子を彷彿とさせる。当時33歳のバーグマンがとてもきれいに撮れているのはいいが、それだけに、劣悪な境遇に身を落とす女性を演じるのには違和感を覚える。絶海の孤島の荒涼たる風景、漁師たちが励むマグロ漁の描写が印象に残る。

イタリア旅行
1954伊・仏 ロベルト・ロッセリーニ 評点【C】
ロッセリーニとバーグマンのコンビによる倦怠期の夫婦が出かけたイタリア旅行の顛末を描いた映画。イングリッド・バーグマンとジョージ・サンダースが主演の夫婦を演じる。遺産で相続した別荘を処分するためナポリを訪れた英国人夫妻、夫婦仲は冷え切っており、お互いに離婚を考えている。妻はナポリ近辺の博物館、地下墓所、ベスビオ山などの名所旧跡を観光し、夫はカプリ島で女友だちと遊ぶ。ポンペイの遺跡で抱き合ったまま死んだ男女の遺体の発掘を見た二人は、帰途、聖母像の祭りで沸き返る群衆のなか、よりを戻そうと決意する。倦怠期の夫婦の旅を描くこの映画はブレイク・エドワーズのロード・ムーヴィ「いつも二人で」を想起させる。ロッセリーニは即興的な演出をしたということだが、映画を見るかぎり、シンプルでまとまっており、そんな雰囲気は感じられない。バーグマンが見て歩く博物館のシークエンスが出色だ。しかし、これはゴダールなどのヌーベルバーグ作家やスコセッシなどの監督に高く評価されているようだが、それほどの傑作とも思えない。ここにも神による救済というテーマが垣間見えるし、ラストはやや取って付けたような印象を受ける。


2023年4月

2023年4月某日  備忘録235 英国のスリラー&サスペンス映画 その2

文化果つるところ
1951英 キャロル・リード 評点【B】
南海の島を舞台に、野蛮と文明の相克を描いた映画。監督はキャロル・リード、前作の「第3の男」とは打って変わった舞台設定で、一見、秘境冒険映画のようだが、実体は女に入れ込んで破滅するダメ男を描いたフィルム・ノワールだと言える。原作はジョセフ・コンラッド。シンガポールで働くトレヴァー・ハワードは会社の金を使い込んで酒と賭博に入れあげ、クビになるが、旧知の交易船の船長ラルフ・リチャードソンに助けられ、秘密の航路を通って船長が物資を仕入れる秘境の島に行く。無為な日々を過ごすうちに原住民の酋長の娘の怪しい魅力のとりこになったハワードは、彼女をものにするため、恩人のリチャードソンを裏切り、酋長と結託するアラブの商人に秘密の航路を明かす。それを知ったリチャードソンは報復するため武器を手にし、奥地に潜むハワードのもとに向かう・・・。南海の島とトレヴァー・ハワード主演ということからして、ハワードが冷酷な船長を演じた1962年の映画「船艦バウンティ」を連想してしまう。登場する人物はみな物欲と色欲に囚われており、誰にも肩入れすることができない。水上で生活する原住民たちの視線、主人公の周りに群がる子供たちがサスペンスを助長する。ハワードが色香に溺れる酋長の娘はファム・ファタールであり、二人が夜、密会する場面は光と影のコントラストによって濃厚なフィルム・ノワールの色合いを帯びる。

兇弾
1949英 ベイジル・ディアデン 評点【C】
ロンドン警視庁の警官や刑事の捜査をドキュメンタリー・タッチで描いた警察映画。チンピラの不良青年が強盗の際、ベテラン警官を撃って死亡させる。ベテラン警官を慕っていた新米警官は必死の捜査で手がかりを見つけ、犯人を追い詰める。警察の地道な捜査と警官たちの友情、無軌道な不良青年の生態が交互にテンポよく描かれる。前年に作られたジュールス・ダッシンの「裸の町」に影響を受けていることは明らかだ。出演しているのはほぼ無名の俳優ばかりだが、犯人にはデビューして間もない若きダーク・ボガードが扮している。

2023年4月某日  備忘録234 英国のスリラー&サスペンス映画 その1

Ice Cold in Alex (恐怖の砂)
1958英 J・リー・トンプソン 評点【B】
英語字幕で鑑賞。第2次大戦中のアフリカ戦線。英軍中尉のジョン・ミルズは曹長とともに野戦病院車で2人の従軍看護婦を前線のトブルクから後方のアレキサンドリアまで送り届ける任務を引き受ける。看護婦のひとりがシルヴィア・シムズ。ミルズはアル中で、精神が不安定という設定。彼らは地雷原を横断したり、ドイツ軍の追撃を受けたり、怪しげな南ア軍将校アンソニー・クェイルを拾ったりしながら、熱砂の砂漠を車で走り目的地を目指す。協力して苦難を乗り越える彼らのあいだには友情が芽生える・・・。なかなかよく出来た良質の映画だ。これは戦争映画だが交戦シーンはあまりなく、砂漠という苛酷な自然との戦いや人間同士の心の交流やが描かれおり、その点では冒険映画に近い。出演者のなかでは男たちに交じって奮闘する米国のジャズ歌手と同姓同名のシルヴィア・シムズがいい。それほど有名な女優ではないが、黒目がちの純朴な顔立ちが好印象を与える。途中で遭遇するドイツ軍の将校がことさら悪役ではなく普通の軍人として描かれているのも好ましい。題名の「Ice Cold in Alex」はどういう意味か分からなかったが、映画を見て謎が解けた。これは「Ice Cold (Lager) in Alex(andria)」の略であり、ミルズが旅の途中で「アレクサンドリアにたどり着けたら冷えたビールをみんなにおごる」と言う科白にちなんだ言葉だ。

The Criminal (コンクリート・ジャングル)
1960英 ジョセフ・ロージー 評点【B】
英語字幕で鑑賞。高校生のころに映画館で見て、筋は忘れてしまったが強く記憶に刻み込まれていた、スタンリー・ベイカー主演の犯罪映画。監督のロージーはこのあとベイカーと組んでネオ・ノワールの傑作「エヴァの匂い」を撮る。これは競馬場から強奪した売上金をめぐる仲間同士の争いを描いた映画で、半分はベイカーが入獄する刑務所の場面に割かれている。冒頭、刑務所から出所したベイカーは、一味とともに金を強奪したあと、捨てた情婦に密告されて再び刑務所に入る。金のありかはベイカーしか知らないので、仲間は彼を脱獄させて隠し場所を聞き出そうとする・・・。スタンリー・ベイカーの不敵な面構えと全体に漂う寒々とした非情な雰囲気が印象に残る。刑務所の内部や冬のロンドンを撮るロバート・クラスカーのカメラがいい。雪に覆われた野原をロングで撮影したエンディングのシーンが忘れがたい。音楽はジョン・ダンクワースのモダン・ジャズ。随所で流れるダンクワース夫人クレオ・レーンが歌うフォークソング風の曲「Thieving Boy」が耳に焼き付く。


2023年3月

2023年3月某日  備忘録233 往年の欧州名画、落ち穂拾い その8:ベルイマン

叫びとささやき
1973瑞 イングマール・ベルイマン 評点【D】
上流階級の3姉妹と召使いの女中の4人が主な登場人物。病により死の床につく次女、彼女を看取るために実家の館を訪れる長女と3女、やがて次女は死に、長女と3女は家を整理して帰路に就く。カメラはほとんど終始、家のなかから外に出ない。冒頭と回想シーンで映し出される秋の日が差し込む森の風景は絵画のように美しい。家のなかは壁も床もカーテンもすべて赤一色、そこに前半は白衣、後半は黒衣の女たちが動き回る。時計や家具や人形が意味ありげに映し出される。診察に来た医者と関係を結ぼうとする3女、割れたガラスで陰部を傷つけ、ベッドで待つ夫の前で陰部の血を口の周りになすりつける長女、自らの腹をナイフで刺す3女の夫、裸で添い寝して次女を看病する女中、死んでいるのに言葉を発して姉妹を呼ぶ次女など、訳の分からないシークエンスが続く。愛の断絶を描いたのであろうが、ホラー映画のような滑稽さを感じる映画だ。フリードキンの「エクソシスト」はこの映画に影響を受けたという。3姉妹を演じるイングリッド・チューリン、ハリエット・アンデルセン、リヴ・ウルマンは、それぞれがどこかの時期に監督ベルイマンの愛人だったというから恐れ入る。

秋のソナタ
1978瑞 イングマール・ベルイマン 評点【D】
題名が醸すイメージとは裏腹に、親子の断絶を描いた壮絶なドラマ。イングリッド・バーグマンとリヴ・ウルマンが母と娘を演じる。バーグマンにとって、これが遺作になった。娘のウルマンは母親バーグマンを自宅に招く。バーグマンはいまも頻繁に公演旅行する著名なピアニスト。ウルマンの夫は心優しい温厚な牧師、彼女は障害者の妹を引き取って面倒を見ている。母と娘が会うのは7年ぶり。娘はやって来た母親を歓待するが、その夜、母親と会話しているうちに、子供のころを思い出し、母がいかに家庭をないがしろにしていたか、身勝手な自分本位の振るまいによっていかに心に傷を負ったかを語り、憤懣をぶちまける・・・。「叫びとささやき」と同じく、この映画も冒頭と最後と回想シーンを除けば、カメラはほとんど田舎の牧師館のなかだけに限定されている。登場人物は4人だけ、顔のクロースアップが多用され、科白がやたらに多く、そのためいつも以上に舞台劇のような印象を受ける。えんえんと続く母と娘の罵り合いがすごい。

2023年3月某日  備忘録232 往年の欧州名画、落ち穂拾い その7:ベルイマン

第七の封印
1957瑞 イングマール・ベルイマン 評点【B】
ベルイマンの映画のなかでももっとも観念的、形而上的な作品のひとつ。主演はマックス・フォン・シドー。時は中世、十字軍の遠征から帰還した騎士と従者が馬に乗って自宅の城を目指す。騎士の前に死神が現れるが、死神は騎士からチェスの勝負を挑まれ、同意する。旅の途中で、彼らは黒死病の蔓延におののく村人たち、犯罪者に成り下がった牧師、魔女として火あぶりにされる女、自らを鞭打つ狂信的な宗徒の一団などを目撃する。騎士は家族を失った女や妻が駆け落ちした鍛冶屋や旅芸人の一座などを引き連れて旅を続ける。騎士は何度か行われた死神とのチェスの勝負に負ける。旅芸人は死神を見て逃亡する。一行とともに城に帰った騎士の前に、妻と再会したのもつかの間、死神が姿を現す・・・。海辺で目覚めた騎士の前に死神が現れ、波が打ち寄せる磯で二人がチェスを始める冒頭近くのシーンと、丘の上で死神を先頭にみんなが手をつないで踊りながら駆けていくのを超ロングで撮った最後のシーンが印象に残る。これは一種の終末論を取り上げた映画であろうか。生が満ちあふれているのは赤ん坊を連れた旅芸人夫婦の周囲だけで、それ以外はすべて死のイメージに包まれている。

処女の泉
1960瑞 イングマール・ベルイマン 評点【B】
はるか昔、洋画を見始めたころ、この映画は「犯された少女の死体から泉が湧き出る、訳の分からない作品」として識者のあいだで話題になっていた。これも主演はマックス・フォン・シドー。中世スウェーデンの山奥、敬虔な農夫夫妻の娘が教会にロウソクを捧げにいく途中、貧しい羊飼いの3人兄弟に暴行され殺される。3兄弟はそれとしらずに農夫の家を訪れて宿を乞う。彼らが娘から剥ぎ取った衣服を売りつけようとしたことで娘の異変を知った農夫は復讐のため身を清めて3人を殺す。娘の死体を見つけた農夫は神の沈黙を呪う。死体を抱き上げるとその下から泉がこんこんと湧き出る・・・。純真無垢な少女が陵辱されるシーンは、公開当時としてはショッキングだったであろう。山の中での暴行シーンは「羅生門」を想起させる。これは信仰と神の沈黙または神の不在をテーマにした映画なのであろうが、泉が何を意味するのかは理解しがたい。しかし、自然光と自然音だけで細部にわたってたんたんと映し出される農夫一家の生活の描写には心惹かれるし、湖の岸辺や山の稜線を馬に乗って行く少女の光景は映像としてこよなく美しい。映像から放たれる迫真性にはブレッソンと同質なものを感じる。

2023年3月某日  備忘録231 往年の欧州名画、落ち穂拾い その6:リチャードソン

蜜の味
1961英 トニー・リチャードソン 評点【B】
ロンドン郊外の底辺層で暮らす少女の生活をリアルに描いた英国ニュー・シネマの一作。主演のリタ・トゥシンハムを初めて見たのは「ドクトル・ジバゴ」だったが、特異な風貌で記憶に残った。トゥシンハムは男にも家事にもだらしない母親と二人暮らしの女子高生。彼女は黒人船員と親しくなり、愛を交わすが、船員は船で出港する。母親は若い男ができて家を出る。靴屋で働き始めるた彼女はゲイの青年と知り合い、共同生活をするようになる。心優しい彼は妊娠した彼女を世話し、励ますが、そこに男に捨てられた母親が帰ってきて彼を追い出す。町が喧噪に包まれるガイ・フォークスの夜、青年は静かに家を去る・・・。ゲイの青年を演じるのはマリー・メルヴィン。60年代の英国映画でよく弱々しい内向的な男を演じていた独特の顔立ちの俳優だ。この映画では、どちらも孤独な心を持つトゥシンハムとメルヴィンのあいだに、徐々に愛が芽生える過程が上手く描かれている。また、母と娘はいつもいがみ合っているが、二人のあいだにはどうしようもない肉親愛が垣間見える。それをこの映画は巧みに表現している。自堕落な母親を演じるドラ・ブライアンも男に入れあげては振られる中年女の悲哀を感じさせて絶品。うら寂れた運河の光景や、貧民街で遊び回る子供たちの情景が忘れがたい。

ラヴド・ワン
1965米 トニー・リチャードソン 評点【B】
英国ニュー・シネマの騎手リチャードソンが米国に招かれて撮った、米国の金儲け主義を痛烈に揶揄するブラック・コメディ。イーヴリン・ウォーの小説「囁きの霊園」の映画化。英国からハリウッドにやって来た売れない詩人は、画家の伯父が映画会社をクビになって自殺したのを契機に、葬儀会社が経営する霊園で働き始める。映画ではエンバーミング処理によって死者を商品として扱う霊園の仕事がグロテスクに描かれる。カルト教会の信者のように経営主を崇める従業員たち、死者に商品としてメイクを施す化粧師、狂ったように鶏肉を頬張る太った婆さん、建設禁止区域に建つ建物で生活する女性、ロケットに夢中の天才少年、棺から出てくるコールガールなど、アブノーマルで奇怪なブラック・ユーモアが次々に映し出される。主演のロバート・モースはあまり知られていないが、ジョン・ギールグッド、ジェームス・コバーン、ダナ・アンドリュース、ミルトン・バールなどの達者な役者が脇を固める。なかでもマザコンの死体化粧師を演じるロッド・スタイガーはハチャメチャの怪演。コマーシャリズムに支配された現代文明への毒のある風刺という点でキューブリックの「博士の異常な愛情」と重なる。題名の「The Loved One」とは死者のことを意味する

2023年3月某日  備忘録230 往年の欧州名画、落ち穂拾い その5

禁断の木の実
1952仏 アンリ・ヴェルヌイユ 評点【B】
馬よりも長い顔の男、フランスの伊藤雄之助ともいうべき喜劇俳優フェルナンデルの主演ということで、題名とも相俟って、てっきりコメディだと思っていたが、これは若い娘に翻弄される中年男の悲哀を描いた映画。気位の高い妻に頭が上がらない真面目な医師フェルナンデルは、ふとしたきっかけで情事を持った若い娘フランソワーズ・アルヌールのとりこになり、彼女と一緒に町を出ようとするとするが、彼女からそでにされ、すごすごと家に帰る。よくある話だが、馬面の喜劇俳優フェルナンデルと小悪魔的女優アルヌールが演じているだけに、真実味と悲哀感がつのる。監督のヴェルヌイユはこのあと、アルヌールを立て続けに起用して「過去を持つ愛情」や「ヘッドライト」を撮った。アルヌールはこれらの映画によって有名になり、当時の日本でも映画ファンのあいだで絶大な人気を博したという。この映画でのアルヌールは、男を騙して手玉に取る悪女というよりも、男が自然にかしずく天真爛漫でコケティッシュな女であり、その点ではブリジッド・バルドーの先駆けと言える。通常、この手の映画では、最後に男が零落し落ちぶれ果てるのだが、ここでは熱が冷めたフェルナンデルが家に帰ると妻が待っており、夫婦のよりが戻ってエンドとなる。


1956ポーランド イェージー・カワレロヴィッチ 評点【B】
この映画は以前に見ているはずだが、内容を覚えていないので再見する。ポーランドの複雑な政治社会状況を背景にしたミステリー仕立ての作品。3つの挿話からなっているが、それぞれの話は絡み合っている。冒頭、汽車から男が飛び降りて死亡する。その後、戦時中の対独レジスタンス・グループが資金調達のため鐘を強奪しようとした店で別のグループと同士討ちする話、戦後間もなくの頃の政府軍兵士が反政府ゲリラの親玉暗殺のため潜入するする話(この親玉は若い頃のプーチンにそっくりだ)、現代の炭坑爆破事件で無実の若者が犯人に仕立て上げられる話が物語られ、第3話の最後で冒頭のシーンに結びつき、この3話に共通して登場するある男が陰でこれらの事件を仕組んできたことが明らかになる。この映画を理解するためには、終戦直後のポーランドでは、共産党政権に反旗を翻す民族派の反政府グループがテロ活動を行っていたことを知っていなければならない。それはアンジェイ・ワイダの「灰とダイアモンド」の主題でもあった。ワイダは反政府テロリストを同情的に描いていたが、カワレロヴィッチはまったくの悪として描いている。したがって、ここにはワイダのようなドラマティックな情念は乏しいが、サスペンス映画としてはよく出来ていると言える

2023年3月某日  備忘録229 往年の欧州名画、落ち穂拾い その4:ベルイマン

夏の夜は三たび微笑む
1955瑞 イングマール・ベルイマン 評点【D】
上流階級の男女の恋のさや当てを描いた、フランス映画を思わせる艶笑譚。弁護士夫婦、軍人貴族夫婦、舞台女優、弁護士一家の息子と女中などが好きだ嫌いだと空騒ぎする。後半の全員が集う豪華な別荘での一夜は、おそらくシェークスピアの「真夏の夜の夢」を下敷きにしているであろう。最後はすべてが収るべきところに収って朝を迎える。コメディなのに笑えないし、面白くない。

野いちご
1957瑞 イングマール・ベルイマン 評点【A】
功成り名遂げた老境の医師が主人公。名誉博士号授与式のため、息子の嫁とともに、自宅のストックホルムからルンドに車で向かう彼の一日を描いたロードムーヴィー風の作品。車には若い陽気な男女3人組のヒッチハイカーや喧嘩を繰り返す夫婦が同乗する。彼らは途中で彼が子供の頃に過ごした別荘や彼の母親が住む家に立ち寄る。そんな旅のエピソードのなかに、ときおり老人が見る死を予感させる悪夢や心を去来する若き日の思い出が挿入される。最後に老人は折り合いが悪くなっていた息子夫婦とよりを戻し、同乗した若者たちから祝福され、満ち足りた気分で眠りにつく。冒頭の悪夢のシーンはダリやキリコなどのシュルレアリスム絵画を思わせる。主人公の回想は詩的なイメージに彩られており、ある種の心象風景と言えるだろう。「ウンベルトD」と同じく老人が主人公だが、ここには社会的、経済的な視点はいっさいない。それをどう評価するかは見る側の考え方しだいだ。フェリーニはこの映画から着想して「8 1/2」を作った。そしてベルイマンはこの映画を作るにあたり、黒澤明の「生きる」にヒントを得たという。

2023年3月某日  備忘録228 往年の欧州名画、落ち穂拾い その3:ロッセリーニ

ロベレ将軍
1959伊 ロベルト・ロッセリーニ 評点【B】
第2次大戦末期、北イタリアのジェノヴァ。博打好きで女たらしのちんけな中年詐欺師が駐留ドイツ軍のゲシュタポに逮捕され、無罪放免する代わりに、誤って射殺されたレジスタンスの指導者ロベレ将軍になりすまし、スパイとして刑務所に入りパルチザンのリーダーを見つけるよう命令される。刑務所に入った彼は、受刑者たちの勇気や信念を目撃し、ロベレ将軍夫人からの愛情あふれる手紙を読み、愛国心に目覚めて、ゲシュタポの命令に逆らい、他の受刑者たちとともにロベレ将軍として銃殺される。主演はヴィットリオ・デシーカ。実話に基づく映画だというが、なかなか良く出来ている。やや冗漫なところもあるが、これは「無防備都市」と並ぶロッセリーニの名作と言えるだろう。ケチな詐欺師が獄中でしだいに人間性に目覚めていく様子が巧みに描かれている。銃殺直前に偽ロベレ将軍が壁に紙をあててロベレ夫人宛てに「死を前に思うのは君のことだ。イタリア万歳」とメッセージを書くシーンが印象に残る。

ヴァニナ・ヴァニニ
1961伊 ロベルト・ロッセリーニ 評点【C】
スタンダールの短編小説を映画化した歴史恋愛悲劇。ネオリアリスモから出発したロッセリーニは、10数年を経てこのような文芸作品を撮る監督に変容した。主演はサンドラ・ミーロ。19世紀初頭、ローマ貴族ヴァニニ家の娘ヴァニナは父親が匿っている反体制革命派グループのリーダーと出会い、傷を負った彼を介抱しているうちに恋に落ちる。こうして、愛に生きる女と革命に情熱を燃やす男の身分違いの恋の顛末がたんたんと描かれる。映画は絞首台に上る男と修道院に入る女がロングで撮られてエンドとなる。サンドラ・ミーロは冷たい美しさのなかに女の色気を感じさせるが、全体として心に迫るものがあまり感じられない。

2023年3月某日  備忘録227 往年の欧州名画、落ち穂拾い その2:ロッセリーニ

ドイツ零年
1948伊 ロベルト・ロッセリーニ 評点【C】
ネオリアリスモの巨匠ロッセリーニの戦争3部作の最終作。第2次大戦直後、廃墟と化したベルリンで、アパートで他の家族と共同生活を送る貧しい一家の末っ子、12歳の少年を主人公にした映画。少年は家計を助けるため物を売ったり年齢を偽って働いたりしている。家には重病の父、優しい姉、隠れ住む元ナチ党員の兄がいる。少年はかつての小学校の教師に唆されて病に伏す父を毒薬で殺し、最後にビルから飛び降りて死ぬ。まったく救いのない話だ。元ナチらしい不気味な老人や、泥棒で生活費を稼ぐ少年グループが登場する。瓦礫だらけのベルリンの街並みが痛々しい。トリュフォーの「大人はわかってくれない」はこの映画に影響を受けたと言われているが、少年の描き方からして、なるほどと思わせる。

ヨーロッパ1951年
1952伊 ロベルト・ロッセリーニ 評点【D】
奇妙な映画だ。イングリッド・バーグマン主演、現代ヨーロッパに生きる女性の苦悩を描いた映画。夫と息子を持つ上流階級の女性バーグマンは、母親に構ってもらえないのを苦に息子が自殺して絶望する。彼女は左翼思想に感化され、家出して工場では働き始め、貧しい人々とともに生活しようとするするが、犯罪者を逃がしたため精神病院に入れられる。社会の人々は誰も彼女の行動を理解しようとしない。彼女は家に帰るのを拒み、精神病患者への愛に目覚め、彼らとともに生きようと決意する・・・というストーリー。主人公の女性はキリストになぞらえられているように見える。40年代後半のネオリアリスムとはまったくかけ離れた寓話的な作品だ。

2023年3月某日  備忘録226 往年の欧州名画、落ち穂拾い その1:イタリア映画

ウンベルトD
1952伊 ヴィットリオ・デ・シーカ 評点【C】
デシーカのネオレアリスモの到達点とも言うべき、老人が強いられる厳しい現実を冷徹に描いた映画。戦後のインフレに見舞われ不況にあえぐイタリア社会が描かれるが、高齢化社会の現代を先取りしているとも言える。飼い犬だけを友とする引退した老年の公務員が家賃未納のため部屋から追い出される。年金引き上げを求める老人たちの街頭デモが警察によって蹴散らされる冒頭のシーンから、家を出た行く当てのない老人と犬が公園で遊ぶエンディングのシーンまで、何ともやりきれない話が続く。主演の老人は素人で、大学の言語学教授だという。

鞄を持った女
1961伊 ヴァレリオ・ズルリーニ 評点【B】
年上の女と高校生の少年の出会いと別れを描く恋愛映画。キャバレー・バンドの歌手で男に騙されやすい天真爛漫な女にクラウディア・カルディナーレ、ふとしたきっかけで彼女と知り合い、恋心を抱く母のいない金持ちの家の真面目な少年にジャック・ペランが扮する。この映画でのカルディナーレはじつに美しく、持ち味をいかんなく発揮している。深夜、駅から出て来たカルディナーレが一人で暗い歩道を歩き去るエンディングのシーンが忘れがたい。

2023年3月某日  備忘録225 女の生きざまを描く吉村公三郎の映画

夜の河
1956大映 吉村公三郎 評点【A】
山本富士子主演、京染の世界を題材として、染物に情熱を燃やす女の仕事と恋の成り行きを描いた映画。吉村公三郎監督の京都を舞台にした映画には京マチ子主演の「偽れる盛装」という傑作があったが、これもそれに劣らぬ優れた作品だ。成功作たりえた要因の多くは宮川一夫の撮影に帰すると思う。父が経営する京都の老舗染物屋で作品作りに励む娘、山本富士子は、斬新な染物を開拓して評判を呼び、販路を広げようとしている最中、阪大教授で病に伏す妻と娘がいる上原謙と知り合う。二人は何度か顔を合わせるうちにお互いに惹かれ合い、関係を結ぶが、妻に関する彼の言動に男の身勝手さを感じた山本は、妻が病死したあと、彼の結婚申し込みを拒み、染物ひとすじに生きようとする。話の流れは同じ監督の原節子、佐分利信主演「誘惑」を想起させる。「誘惑」では男の妻の死後、二人は結ばれるが、「夜の河」では女が男を振る。この映画の最大の魅力は宮川一夫の撮影と色彩にある。俯瞰で撮られた古い街並みや寺院の光景は、構図が見事で、じつに美しい。食堂車の窓に写る山本の姿も忘れがたい。二人が雨宿りのため入った旅館での情事のシーンで映される、暗い部屋に差し込む赤い夕日は、とりわけ印象に残る。染物、花、光、メーデーの旗、随所で使われる赤い色が鮮烈だ。剥いたゆで卵のような顔立ちの山本富士子は、このころ美しさの絶頂だろうか、まさに大輪の花のようだ。上原謙は相変わらず優しいが優柔不断な男を演じて巧い。山本の頑固な父親を東野英治郎、いつもながら好色で狡賢い染物商の親父を小沢栄太郎が演じる。冒頭とエンディングで映されるメーデーのデモ行進が社会的な彩りを添える。唯一の瑕瑾は川崎敬三扮する山本を慕う若い画家にまつわるシークエンスであり、これは余計な挿話であろう。

夜の蝶
1957大映 吉村公三郎 評点【C】
これは京マチ子と山本富士子主演による、銀座のクラブを舞台に、女どうしの確執と争いを描いた映画。有名人が通う銀座の一流クラブのやり手マダム、京マチ子は、京都の芸妓上がりの人気マダム、山本富士子が銀座に乗り込み、店を開くことになったので、敵愾心を募らせる。彼女たちの間にはかつて男を巡る確執があった。山本の新店に客を取られ始めると、京は山本のパトロンである関西のデパートの社長、山村聰をたらし込む。身も心も捧げた医学生、芥川比呂志に振られ、パトロンも取られた山本は、逆上して、酔った勢いで温泉に向かう京と山村が乗る車を、自分の車を運転して追いかける・・・というストーリー。挫折した音楽家でいつも缶ピースを持ち歩く女給斡旋業者の船越英二が狂言回しを務める。大映2大女優の競演は迫力十分、京マチ子はさすがに達者な演技だし、山本富士子も巧い。怒りを燃えたたせた山本が見せる鬼のような形相が忘れがたい。原作は、そのころ銀座に実在して覇を競っていたクラブとマダムをモデルとして川口松太郎が書いた小説であり、山村が演じる関西のデパートの社長は白洲次郎がモデルだという。撮影の宮川一夫は、東京の歓楽街が舞台なので、いまいち力を発揮し切れていないが、それでも芥川比呂志が山本富士子に別れを告げるシーンの、ロングで撮られた、窓越しに部屋を映すショットなどは、息を呑むほど鮮やかだ。この映画、面白いことはたしかだが、たとえば同じ銀座のクラブを題材にした成瀬の「女が階段を上るとき」のような奥深さは感じられない。

2023年3月某日  備忘録224 岡田時彦が出演する小津安二郎のサイレント映画 その2

淑女と髯
1931松竹(サイレント) 小津安二郎 評点【B】
コミカルなナンセンス喜劇。岡田時彦の喜劇役者としての巧さが示されている。髭もじゃで剣道に秀でたバンカラ学生の岡田は、時代錯誤な言動で女たちから顰蹙を買っている。就職のため髯を剃ると美男子になり、与太者に絡まれているのを助けたタイピストの娘、男爵家の友人の妹、不良のモダンガールという3人の女に惚れられるが、結局タイピストの娘と結ばれる。この娘に扮するのが川崎弘子、田中絹代に似た和風美人で、のちに福田蘭童と結婚した。ほかに飯田蝶子、吉川満子、坂本武、斉藤達雄など、小津組の常連が顔を揃えている。岡田が友人の妹の誕生会で剣舞を踊るシーンは傑作。岡田の汚い部屋の壁に貼ってある洋画のポスターが目を引く。この映画にも米国映画風のモダンな味わいが横溢している。

東京の合唱
1931松竹(サイレント) 小津安二郎 評点【B】
貧困と就職難を背景とする家族ドラマで、またいつもと同じテーマか、といささか辟易するが、ユーモアと家族愛がまぶしてあるので面白く見ることができる。「その夜の妻」と同じく岡田時彦と八雲恵美子が夫婦を演じる。中学生の岡田が校庭で体育教師(斉藤達雄)にしごかれるシークエンスで始まり、一転して妻と3人の子を持つサラリーマンになった現代の岡田の生活に移行する。岡田は古参社員(坂本武)が理不尽に退職させられたのを社長に抗議して解雇される。彼は就職口が見つからず悩んでいるときにかつての体育教師と再会し、就職を世話してやることの見返りに、体育教師が始めた洋食屋の宣伝のためにビラ配りを手伝うはめになる・・・というストーリー。岡田時彦は好演しているが、心なしか痩せているように見える。八雲恵美子が演じる心優しいしっかり者の妻も見事。小学生の長男が自転車を買ってくれない父親に反抗するエピソードは、翌年の小津の「生れてはみたけれど」や戦後の「お早よう」を想起させる。清水宏だけでなく、小津も子供の描き方が巧かった。この長男もその妹も言動にはわざとらしさがなく、生き生きしている。妹は、どこかで見た顔だと思っていたが、あとで高峰秀子だと分かった。当時の高峰はなんと7歳! ほかに飯田蝶子が体育教師の妻を演じる。岡田の家のなかのカメラ・ワークにはのちに定着した小津スタイルの萌芽が感じられる。題名は、体育教師の店の開店祝いにかつての生徒たちが集まり、みんなで寮歌を合唱するエンディングのシーンに由来するものであろう。

2023年3月某日  備忘録223 岡田時彦が出演する小津安二郎のサイレント映画 その1

落第はしたけれど
1930松竹(サイレント) 小津安二郎 評点【C】
これは岡田時彦ではなく斉藤達雄主演の、卒業を控えた大学生の生態を描いたコメディ。学生たちは卒業試験で工夫を凝らしてカンニングしようとするが失敗。だが、一人を除いて全員が合格する。彼らは落ち込む落第した学生を慰めるが、就職試験にことごとく失敗し、これなら落第した方が良かったと思う。就職難の社会状況への風刺が込められている。落第する学生を斉藤達雄、彼を慕うミルクホールの女給を田中絹代が演じる。学生のひとりに笠智衆が扮しているが、これは笠が小津に起用された最初の映画だろうか。

その夜の妻
1930松竹(サイレント) 小津安二郎 評点【C】
犯罪を絡めた人情ドラマ。小津が受けたハリウッド映画の影響が顕著だ。主演は岡田時彦。バタ臭い二枚目であり、無声映画時代の佐田啓二と言えようか。貧乏な岡田は病気に伏す幼い娘の治療費を工面するため拳銃強盗をする。警官隊から逃れた彼は帰宅して妻と共に娘を看病する。足跡を嗅ぎつけた刑事がその家を訪れ、彼を逮捕しようとするが、実情を知り、寝たふりをして彼を逃がそうとする。だが彼は改心して自ら逮捕される。岡田の妻を演じる八雲恵美子は初めて見る女優だが、なかなか気品のある顔立ちだ。彼女が拳銃を構えて刑事を威嚇するシーンは「非常線の女」の田中絹代よりさまになっている。

2023年3月某日  備忘録222 心を打つソ連の文芸映画

子犬をつれた貴婦人
1959ソ連 ヨシフ・ヘイフィッツ 評点【B】
チェーホフの有名な短編小説の映画化。監督も出演者(イヤ・サーヴィナ、アレクセイ・バターロフ)も馴染みがないが、好感の持てる恋愛映画に仕上がっている。物語の前半はロシアの黒海沿岸の保養地ヤルタが舞台。逗留客の中年の銀行員はいつも子犬を連れて散歩する婦人と親しくなる。モスクワから来た銀行員には妻子があり、ペテルブルクから来た婦人も若妻だが、二人は恋仲になり、一夜の契りを結ぶ。彼らはそれぞれの家庭に戻るが、男は彼女が忘れられず、ペテルブルクに行き、劇場で彼女と会う。彼女も彼を慕っており、モスクワにやって来て彼と密会しようとする・・・というストーリー。よくある不倫の話だが、わざとらしさのない、落ち着いた語り口で、情感豊かに描かれている。全体の流れはデヴィッド・リーンの「逢びき」を想起させる。若妻に扮するイヤ・サーヴィナは美人というより幼さをたたえた可愛い顔立ちで、好ましさを感じる。雪が積もる街路で男がホテルの窓辺から手を振る女を見上げるエンディングのシーンが印象に残る。

オブローモフの生涯より
1979ソ連 ニキータ・ミハルコフ 評点【C】
19世紀のロシア作家ゴンチャロフの小説「オブローモフ」の映画化。怠惰で無気力な独身貴族を主人公とするこの小説は評判を呼び、“オブローモフ”は社会に寄生する無為徒食の余計者の代名詞になった。子供の頃から父母に溺愛され、召使いにかしずかれて育った貴族のオブローモフは無気力な怠け者に大人に成長し、活動的な事業家になった幼なじみの親友の友情に応えることが出来ず、彼に紹介されて親しくなった美女との愛も成就させることができない。彼が幼い頃の母親と過ごした楽しげな日々の光景が随所に思い出として挿入される。折々に映し出されるロシアの田舎の春夏秋冬の美しい景色が印象に残る。男2人と女1人のトリオの友情は、自転車を乗り回す挿話と相俟って「明日に向かって撃て」を思い起こさせる。


2023年2月

2023年2月某日  備忘録221 野村浩将の戦前のコメディ映画

お絹と番頭
1940松竹 野村浩将 評点【B】
「愛染かつら」で知られる野村浩将はメロドラマの監督だと思っていたが、この映画を見てコメディも巧く撮れる人だということを認識した。田中絹代、上原謙という「愛染かつら」の黄金コンビの主演。上原謙は足袋屋の番頭でしっかり者の堅物男、田中絹代は足袋屋の主人の勝気な一人娘。内心では好き合っているのに、会えば喧嘩ばかりするこの二人が、紆余曲折のすえ結ばれるまでの話が、のんびりした調子で描かれる。商売そっちのけで寄席に通うのんきな主人、足袋屋の主人と隣のボート屋の主人(斉藤達雄)とのいがみあい、ライターを小道具にした笑い、風邪で寝込んだ上原が布団を何枚もかけられて悶えるシーンなど、抱腹シーンが随所に散りばめられている。手練れのスタッフとキャストによる職人技の微笑ましい映画だと言える。ほかに三宅邦子、河村黎吉が出演。

元気で行かうよ
1941松竹 野村浩将 評点【C】
これも野村浩将の監督で、佐野周二、上原謙、佐分利信という松竹三羽烏に、田中絹代、高峰三枝子、桑野通子という人気三人娘を配した豪華なキャストによる作品。物語は佐野周二と田中絹代のカップルの恋のさや当てを軸に進む。佐野周二と上原謙は地質調査会社で働く同僚社員。佐分利信はその上司。田中絹代は佐野が可愛がっている会社給仕の少年の姉で本屋の店員。高峰三枝子は佐野周二の妹で上原謙と恋仲。桑野通子は佐分利信の妻という配役。田中絹代の父は山師で、いつも金を無心する厄介者。彼女は父の山師稼業を止めさせるため、弟を通じて知り合った佐野に相談する、という筋立てでストーリーが展開する。ユーモア仕立てであり、太平洋戦争突入直前とは思えない長閑な映画だが、起伏に乏しく間延びした感じで、あまり面白くない。田中の父の山師に河村黎吉、横暴な現場監督に笠智衆が扮する。

2023年2月某日  備忘録220 稲垣浩・三船敏郎コンビの時代劇

戦国無頼
1952東宝 稲垣浩 評点【C】
戦国時代の落武者たちの生き様を描いた三船敏郎の主演作品。井上靖の原作、監督の稲垣浩と黒澤明の共同脚本だが、娯楽ものなのか文芸ものなのか中途半端で、出来は良くない。織田軍に迫られて落城寸前の浅井長政陣営。逃げずに戦うが活路を見いだすつもりの侍に三船敏郎、脱出して生きながらえようとする狡賢い侍に三国連太郎、主君の恩に報いて討ち死にを覚悟する侍に市川段四郎が扮する。彼らはなんとか生き延び、落武者となって三者三様の生き方で人生を歩む。三船はモテ男で、野盗頭目の娘の山口淑子、浅井家の腰元の浅茅しのぶの両方から惚れられるという設定。3人の男たちの性格付けがあいまいで、筋の流れもご都合主義が目立ち、全体として盛り上がりに欠ける。

大坂城物語
1961東宝 稲垣浩 評点【B】
これも稲垣浩と三船敏郎のコンビによる一作。村上元三の小説の映画化だが、娯楽映画の骨法に則った面白い作品に仕上がっている。大坂冬の陣を題材に、豊臣方、徳川方入り乱れての謀略や乱闘が描かれる。一旗あげるために大坂に出て来た直情径行の浪人、三船敏郎が、当初は戦を阻止しようとする集団に加わって働くが、戦いが避けられなくなると、豊臣方に味方してポルトガルの武器弾薬を大坂城に運び入れようとする。集団のリーダーに平田昭彦、三船を助ける忍者、霧隠才蔵に市川団子が扮する。時代劇には珍しく女優陣が豪華で、淀君を山田五十鈴、千姫を星由里子、加藤家の姫を久我美子、戦阻止集団で働く謎の女を香川京子が演じる。三船は外国船に誘拐された香川を助け、二人は恋仲になり、最後はハッピー・エンドで終る。円谷英二の特撮が素晴らしく、映し出される大坂城は巨大なミニチュアだというが、見応え十分。方広寺の大仏や大坂の町のセットもよく出来ている。城の秘密の抜け穴があったり、怪しげな商人が暗躍したり、謎の修験者一味が現れたりと、伝奇的な興趣も盛り込まれている。片桐且元を志村喬が演じ、いつもは悪役の上田吉次郎が人のいい武具屋の主人を演じて、存在感を示している。

2023年2月某日  備忘録219 ゲテモノ・カルト映画

博徒七人
1966東映 小沢茂弘 評点【B】
タイトルどおり、主演の鶴田浩二以下、7人の博徒が活躍する「七人の侍」を模したやくざ映画だが、ミソは彼ら全員が身体障害者であること。主演の鶴田は片目、共演の藤山寛美は片腕、待田京介は全盲、山本燐一は片足、小松方正は傴僂、山城新伍は聾唖、大木実は顔面火傷という身障者。だが彼らは日陰者という意識はみじんもなく、みな拳銃、柔術、刀、鎖鎌などの必殺技を身につけている。物語は離れ小島を舞台に、採石場の利権争いを巡って展開し、最後は定石どおり、彼らが悪辣な業者の本拠地に殴り込む。語り口はコメディ・タッチで、悲壮感もお涙頂戴もなく、軽快に話が進む。思いのほか面白い。お馴染みの西村晃や金子信雄も出演して持ち味を出している。出演者のなかでは待田と山本の全盲・隻脚コンビが最高。

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間
1969東映 石井輝男 評点【D】
江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」を乱歩好きの石井輝男が映画化したものだが、実際には乱歩の様々な小説が練り合わされているようだ。主演は吉田輝雄、吉田の父に暗黒舞踊の土方巽、明智小五郎に大木実が扮する。医学生の吉田は富豪の父が理想郷を作っているという無人島に行くが、父はそこで自分が造る奇形人間とともに暮らしていた、という話。いろいろ出てくる奇形人間は、メイクした半裸の男女がうごめいているだけで、まったく面白くない。吉田が精神病院に閉じ込められたり、自分とそっくりの死んだ兄と入れ替わったりする挿話によって、怪奇な雰囲気を醸し出そうとしているが、怪奇幻想というより、当時の東映のエロ・グロ路線に乗っただけの映画という感が強い。最後の明智小五郎の種明かしも取って付けたような印象。

2023年2月某日  備忘録218 松竹ヌーヴェルヴァーグのその後

秋津温泉
1962松竹 吉田喜重 評点【C】
藤原審爾原作。岡田茉莉子が100本目の出演映画として映画化を企画し、吉田喜重に監督を依頼した作品。吉田の映画としては唯一まともに作られたメロドラマだと言える。戦争末期、空襲で家を焼かれ、結核を病む青年、長門裕之が温泉の旅館にかつぎこまれる。彼は旅館の女将の娘、岡田茉莉子の看病により、生きる意欲を取り戻す。二人は惹かれ合うが、男はなぜか旅館を去って町に戻る。男は作家志望だが成功せず、酒にと女に溺れ、結婚して会社勤めをするが無気力な生活を送る。男は数年に一度、秋津温泉に戻り、女と数日間過ごして去って行く。2人が中年になり、久しぶりに温泉に来た男と一夜を過ごした女は別れ際に自殺する。時代に取り残されたような温泉の情景と、そこに住んで男に真情を捧げ続ける女がじっくりと描かれる。川端康成の「雪国」と成瀬巳喜男の「浮雲」をミックスしたような作品。優柔不断な甘ったれの男と、そんな男に愛を注ぐ女には、苛立たしさしか感じない。随所で使われる音楽はみな同じ旋律で、その音量はなぜかバランス的に異様に大きく、興が削がれる。岡田茉莉子は精彩に富んでいるが、長門裕之はミスキャストであろう。

乾いた花
1964松竹 篠田正浩 評点【B】
池部良主演の現代やくざ映画。原作は石原慎太郎のつまらない三文通俗小説だが、映画のほうは緊張感をたたえたドライな雰囲気の面白い映画に仕上がっている。池部良の虚無的なやくざ者がいい。彼がこの映画でやくざ者を好演したのが「昭和残侠伝」の風間重吉に結びついたのかもしれない。全体に夜のシーンが多く、光と影の効果が巧く発揮されており、和製フィルム・ノワールの感がある。謎の女、加賀まりこは一種のファム・ファタールだ。抗争で人を殺した池部良は、刑期を終えて出獄し、元の組に戻ったが、虚無感を抱いている。彼はたまたま顔を出した賭場で大胆に賭ける若い女、加賀まりこを見かけ、興味を抱く。彼はもっと大きな賭けをしたいという彼女の頼みを聞き入れ、他の組が仕切る危険な賭場に連れて行く。やがて組同士の抗争が再発し、彼は彼女を呼び出して、敵対する組長を自分が刺殺するのを目撃させる、というストーリー。不気味な若い殺し屋、藤木孝の挿話はないほうがすっきりするし、エンディングの刑務所内での最後のシークエンスも余計だと思う。

2023年2月某日  備忘録217 李香蘭――満映時代の珍品

東遊記
1939東宝・満映 大谷俊夫 評点【C】
東宝と満映の提携第1回作品。1939年に中国で、翌年に日本で公開された。俳優クレジットでは李香蘭がトップだが、事実上の主演は中国人の若者2人で、満州から同郷の友人に会うため日本にやって来た肥満短躯と長身痩躯の凸凹コンビが珍道中を繰り広げるコメディ。科白の半分は中国語で日本語字幕が入る。満州の田舎に住む2人が日本に行こうと決め、列車に乗ると、次のシーンでは日本の列車の座席に座っている、という早いテンポに戸惑う。彼らは切符をなくしたため箱根で降ろされ、富士山を背景に、十国峠をとぼとぼ歩く。このシーンは「隠し砦」の藤原釜足と千秋実を想起させる。2人は映画撮影のロケ隊に遭遇し、スタッフや出演者たちと親しくなって、ロケ隊のバスに同乗して東京に向かう。出演者のひとりが原節子で、彼女の出番はこのシークエンスだけ。というわけで、この映画では原節子と李香蘭が共に出演しているが、残念ながらこの2人が絡むシーンはない。満州の凸凹コンビが日本で出会う人々はみな親切で優しいが、訪ねる友人の居場所を見つけることができない。日比谷、神田、日本橋など、当時の東京の風景が挿入されて興味深いが、全体的に観光映画の感がある。彼らはひょんなことからマスコミに取り上げられ、歯ブラシ会社の広告に起用されて人気者になる。この会社の宣伝部長が、なんと藤原釜足だ。彼らはやっと中華料理屋を営む友人と再会して喜ぶ。この友人の義妹で歯ブラシ会社のタイピストであり、通訳を務めるのが李香蘭。若い李香蘭は少女っぽい面影を宿しており、後年とは少し顔立ちが異なる。中盤に彼女が主題歌「陽春小唄」を歌うシーンが挿入される。終盤に披露される日劇ダンシング・チームのステージはなかなかの壮観。彼らはみんなで大陸に戻ろうと決める。最後は満州の広い平野で楽しそうに田畑を開墾する彼らが映し出されて終る。これは五族協和、王道楽土を謳い、中国向けに日本の良さを知らしめると同時に、日本向けに満蒙開拓への参加を促す国策映画と言える。太平洋戦争突入前の、のんびりした楽天的な空気気が漂っている。

私の鶯
1944東宝・満映 島津保次郎 評点【C】
東宝と満映の共同制作による李香蘭主演の音楽映画であり、1944年に完成したが、公開されたのは中国のみで、日本では公開されなかった。検閲で軟弱だと見なされたからだろうか。大佛次郎原作、音楽は服部良一。ハルピンでロケされ、現地在住のロシア人音楽家たちが撮影に協力したという。出演者の多くはロシア人で、台詞も大半はロシア語、旧仮名遣いの日本語字幕が付いている。珍品映画と言えるだろう。ロシア革命で満州に亡命した白系ロシアのオペラ歌手たちは、日本人の商社員に救われるが、軍閥の戦闘に巻き込まれる。商社員は妻と幼い娘と共に歌手たちを連れて馬車で逃げる途中、被弾して落馬し、離ればなれになる。傷が癒えた商社員は必死で妻と娘を探すが見つからず、友人にあとを託すして南方に赴任する。それから10数年、妻は病死し、娘は成長してロシア・オペラ歌手団のリーダーの養女となり、ハルピンに住んで、養父から声楽を学んでいる。友人が彼らを見つけ、商社員に知らせる。折りから満州事変が勃発し、街は混乱を極めている……というストーリー。成長した娘に扮するのが李香蘭。彼女は実際に満州に住んでいた頃、ロシア人音楽家のもとで声楽を学んでおり、この映画で見事なオペラ風歌唱を披露している。ほかにもオペラのステージが断片的に挿入される。父の商社員を演じるのは二本柳寛らしいが、痩せて骨張っており、戦後の映画で見る彼とはまったく顔つきが異なっている。全体的に、筋の流れや、登場人物、言葉などのせいか、欧米の映画を見ているような錯覚に陥る。国策的な要素はあまりないが、出演者のひとりの「日本軍がハルピンに進駐したおかげて混乱が収り、平和が戻った」という科白や、養父が今際の際に娘に言う「本当のお父さんと日本に帰りなさい、日本は尊く美しい、神の国だ」という言葉などに、戦時下の映画らしさが表れている。

2023年2月某日  備忘録216 原節子を見る至福――1940年

女の街
1940東宝 今井正 評点【C】
原節子が主演する日常生活の哀歓を描いた小市民ドラマ。洋服職人の夫が応召したあと、妻のいね子はおでん屋を開く。店は繁盛するが、最初は応援していた近所のとんかつ屋の女将からは客を取られと文句を言われ、義姉からは世間体が悪いから止めろと言われ、客との間に良からぬ噂が立ち、多事多難。しかし、いね子はそれにめげず気丈に店を続ける。やがて除隊して帰還した夫は妻の行状を疑うが、誤解が解け、店はもとの洋服店に戻り、日常を取り戻す。他愛ないストーリーの小品だが、原節子がとてもきれいに撮れており、若妻いね子役を生き生きと演じていて、微笑ましい。とんかつ屋の女将役の清川玉枝、義姉役の沢村貞子も持ち味を発揮している。

嫁ぐ日まで
1940東宝 島津保次郎 評点【B】
これも「女の街」と同じく、中流家庭の生活をたんたんと描いた家庭ドラマ。原節子の主演、沢村貞子、清川玉枝、大川平八郎の助演と、キャストも酷似している。原節子は一家の長女。病没した母に代わって家庭を切り盛りし、サラリーマンの父(御橋公)や女学生の妹(矢口陽子)を世話している。父は再婚するが、実の母が忘れられない妹は義理の母になつかず、反抗的な態度を取り、原は心を痛める。やがて原は結婚して家を出るが、その前に義理の母と仲良くするよう妹を諭す。映画は原が花嫁姿で車に乗り、妹がそれを見送るシーンで終る。精神性や奥深さは別として、話の流れは戦後に小津安二郎が原節子を起用して作った一連の映画のテーマと共通している。20歳の原節子は、キンキン声の喋り方は相変わらず興ざめするが、頬がふっくらして、こよなく美しい。妹役の矢口陽子は戦後、黒澤明と結婚した。学校の教師役で杉村春子の若い姿を見ることができる。夜、家出した妹を探す原節子のシークエンスの背後に、なぜかベニー・グッドマン楽団の1939年のヒット曲「天使は歌う」の演奏が流れる。

2023年2月某日  備忘録215 山口淑子を見る愉悦――1950年代

初恋問答
1950松竹 渋谷実 評点【C】
山口淑子主演のコメディ映画。下宿人、高利貸し、宿屋の親父など、変な男女が繰り広げるどたばた騒ぎを描いた作品で、同じ監督の「てんやわんや」や「自由学校」を想起させる。田舎で旅館を経営する山口淑子が女中の望月優子を連れて、病気の妹を見舞いに東京に出てくる。彼女は妹の借金の肩代わりに女中奉公をさせられ、麻雀狂いの下宿人の佐分利信、高利貸しの番頭の佐野周二と知り合い、田舎から旧知の宇佐美敦が上京し、その3人に言い寄られて困惑するも有頂天になる。筋立ては強引でいい加減だが、全体的な印象としては面白くなくはない。

東京の休日
1958東宝 山本嘉次郎 評点【B】
山口淑子の引退記念映画。コメディ仕立てのイーストマン・カラー劇映画だが、歌と踊りのステージ・ショウが織り込まれている。東宝所属の当時のスターたちが総出演する。森繁久彌、池部良、三船敏郎、宝田明、小林桂樹、原節子、司葉子、八千草薫、香川京子、久慈あさみなどが、筋にからむ役やワン・シーンだけのちょい役で続々と出てくる。登場する俳優たちの名前は多すぎて、とても書き切れない。キャストに載っている志村喬、新球三千代、若山セツ子などは、どこに出ていたのか、気がつかなかった。主演の山口淑子はアメリカに渡って成功したファッション・デザイナーの役。彼女が日系移民の観光団体にまじって日本に里帰りし、さまざまな経緯を経てファッション・ショーを開く、という他愛ないストーリーだが、次々に登場するスターたちを見ているだけで楽しい。若手女優や越路吹雪などの歌手たちが踊りや歌を披露し、山口淑子自身もかつてのヒット曲「夜來香」を歌う。宝田明と司葉子のカップルが中華料理店に行くと、店主は珍妙な日本語で話す森繁久彌で、店名が「李香蘭」という楽屋落ちギャグが笑える。三船敏郎は終盤に山口淑子が育った田舎の幼なじみであるひげ面の朴訥な青年として登場。原節子は日本の服飾協会の理事長役で、ファッション・ショーの冒頭の挨拶をし、山口淑子を紹介する。原と山口は1920年生まれの同い年。これはこの2人の大女優が共演した唯一の映画だと思う。

2023年2月某日  備忘録214 1952年の東宝映画

霧笛
1952東宝 谷口千吉 評点【D】
主演は山口淑子と三船敏郎。明治初年の横浜。悪徳官憲を殺して逃亡中の山口はオランダ人の貿易商に助けられて匿われ、彼の妾になる。三船はこの貿易商の馬丁。山口は三船と惹かれ合うようになり、三船の勧めで貿易商の家を出て自首しようとするが、それを知った貿易商は彼女を船に閉じ込め、三船は彼女を助け出そうとする、というストーリー。大佛次郎の新聞小説が原作だが、貿易商の人格設定があいまいだし、アクションも中途半端で、あまり面白くない。とはいえ、この映画での山口淑子はじつに美しく撮られている。三船は「七人の侍」の菊千代タイプの直情径行、純真素朴な男を地で演じている。志村喬が悪辣な人足元締めとして出演。

朝の波紋
1952新東宝 五所平之助 評点【C】
高峰秀子が主演したOL映画。有能な貿易会社の社員、高峰の仕事ぶりと恋模様が描かれる。高峰の同僚社員に岡田英次、競合する商事会社の社員に池部良が扮する。高峰はやる気満々の岡田と仲が良いが、しだいに良家の坊ちゃんで人が良いおっとりした性格の池部に惹かれていく。敗戦から6年後の東京、都会の表通りは華やかで復興著しいが、住宅地にはまだ瓦礫が散乱しており、浅草界隈には浮浪者や浮浪児が歩き回っている光景も映し出される。戦争の影はいまだに濃厚で、息子を高峰家に預けて箱根の旅館で働く三宅邦子の夫は戦死している。高峰とともに芝生で寝転がる池部は「この空はビルマで見た空と同じだ」とつぶやく。池部自身が南方で兵役に就いていた。脇役では池部家の耳の遠い女中に扮する浦辺粂子が出色。池部の大学ボート部の先輩役で上原謙、浮浪児収容施設のシスター役で香川京子がちらっと顔を出す。

2023年2月某日  備忘録213 戦争直後の木下恵介映画

大曽根家の朝
1946松竹 木下恵介 評点【C】
木下恵介の戦後第1作。杉村春子主演。裕福な上流階級の家族の昭和18年から敗戦までの戦時下における受難物語。未亡人、杉村の一家は、長男が思想犯として検挙され、娘、三浦光子の結婚は破談になり、次男は応召、三男は特攻隊に志願して戦死する。亡夫の弟である頑迷な国粋主義者の軍人、小沢栄太郎の夫婦が杉村の家に移り住み、我が物顔に振る舞う。杉村は苦難に耐え続けるが、敗戦後、特権を利して物資を隠匿する小沢に怒りを爆発させ、出ていけという。こうして自由主義と軍国主義の対立が図式的に描かれる。場面は一貫して大曽根家の屋敷のなかに終始するが、エンディングだけ、刑務所の門で母と妹が釈放される長男を迎えるシーンになり、同行していた画家、東野英治郎が「大曽根家の朝だ」と言い、夜明けの光景が映し出されて終る。このエンド・シーンは、いかにも取って付けたような印象で、作品として破綻している。これはGHQの指示によって付け足されたものらしい。杉村春子の抑えた演技が見事、小沢栄太郎は憎々しい敵役を演じてさすがの貫禄。しかし一家を襲う不幸の描き方がセンチメンタルに流れすぎているし、人物の描き方があまりにも表面的で薄っぺらい。

結婚
1947松竹 木下恵介 評点【E】
木下恵介の戦後第3作。主演は田中絹代と上原謙。戦後の不況で苦しい生活に耐える恋人たちが苦難を乗り越えて結婚に至るまでが描かれる。田中も上原も、田中の家族、失業中の父と家庭を守る母(東野英治郎と東山千栄子)も、上原の下宿先の主婦も、灰汁が強い東野の元部下(小沢栄太郎)も、みな善人だが、生活苦のため思うようにならない。木下恵介は「大曽根家の朝」で日本の輝ける未来を予感させたが、実際には厳しい現実が待っていた、ということを言いたかったのだろうか。映画は全体に芝居がかっていて、愁嘆場が多く、あまりにセンチメンタルで、見ていて辟易する。観客の涙を誘うためにこじつけたと思われる話の展開も多く、新藤兼人の脚本とは思えない。結婚を控えた娘の役をやるには、田中は年を取っていて無理がある。

2023年2月某日  備忘録212 原節子を見る至福――1940年代中期

熱風
1943東宝 山本薩夫 評点【D】
太平洋戦争たけなわのころの国策映画。軍備増強のため増産に努める製鉄所が舞台。溶鉱炉のひとつが不調で効率が悪く、事故も頻発する。会社の上役も工員もお国のため一丸となって正常稼働に取り組む、という話。原節子は新入りの事務員、工員のリーダーに藤田進が扮する。原は頑固一徹な藤田に当初、反感を覚えるが、しだいに好意を抱く。藤田は下宿先の娘で原と机を並べる花井蘭子に惹かれている。最後は溶鉱炉の正常化に成功し、全員で万歳三唱、原が藤田に失恋して終る。話の流れは強引で脈絡なく、まるで学芸会のような映画だ。ふっくらして美しい、若い原節子が見られるのが唯一の美点。ほかに沼崎勲、菅井一郎が出演している。

北の三人
1945東宝 佐伯清 評点【D】
1945年8月5日の封切りであり、敗戦時に唯一上映されていた映画だという。そんな時期に映画が上映されていたことに驚く。3人の女性通信士の活躍を主軸にした作品であり、戦意高揚、女性の戦争参加を促す目的で作られたものであろう。画質はかなり悪いが見れなくはない。最悪なのは音質で、台詞が良く聞き取れない。青森飛行場の通信士に原節子、千島飛行場に赴任する通信士に高峰秀子、択捉の北海飛行場通信士に山根寿子が扮する。彼女らはみな同じ通信学校の同期生だ。原と高峰は「阿片戦争」で姉妹の役を演じて以来の共演。映画は、この3人の女性通信士の活躍により、悪天候で視界不良のなか、輸送機が敵機の攻撃をかいくぐって青森から択捉に物資を運ぶことに成功する、という話。輸送機の機長を藤田進、山根の恋人の観測員を佐分利信が演じる。


2023年1月

2023年1月某日  備忘録211 司葉子と宝田明共演の都会映画

その場所に女ありて
1962東宝 鈴木英夫 評点【B】
司葉子主演。生き馬の目を抜くような広告業界で働くキャリア・ウーマンの生態を描いた映画。出来はなかなか良い。司葉子がきれいに撮れており、男に負けずしかたかに仕事するが、ときおり脆さを垣間見せる女を好演している。東宝らしい明朗快活な映画だと思っていたら、かなり暗い内容で、しかもモノクロ、登場人物は誰も幸せそうには見えない。会社で女たちが男のような言葉づかいで会話するのに驚かされる。司葉子は広告代理店の営業ウーマン、タバコをスパスパ吸い、麻雀をやり、自宅アパートでやけ酒をあおる。相手役の宝田明はライバル会社のやり手の社員。司は宝田と恋仲になるが、仕事で彼に裏切られる。山崎努、水野久美、西村晃などが脇を固めている。

愛情の都
1958東宝 杉江敏男 評点【C】
司葉子は田舎から東京に出て来た清純素朴な娘、義姉が経営するスナック・バーで働く。宝田明は女遊びに精を出す会社社長のどら息子。宝田は司に一目惚れし、改心して真面目に生きようと決心し、司も宝田を愛するようになるが、宝田の目付役や愛人が二人の仲を引き裂こうとする、というストーリー。典型的なメロドラマだが出来は悪くなく、退屈せずに見られる。デビューして3年の司葉子は頬がふっくらして若々しく、前半の純朴な娘、後半の零落した女を巧く演じている。司の義姉の草笛光子、宝田の会社同僚の小泉博も好ましい。いつもながら関西弁で嫌味を炸裂させる浪花千栄子、神田ニコライ堂の風景描写も見応えがある。

2023年1月某日  備忘録210 “低迷期”の成瀬巳喜男作品 その2

怒りの街
1950東宝 成瀬巳喜男 評点【D】
ダンスホールに出没し、金持ちの女を騙して金を巻き上げる二人の不良学生を中心に、戦後の風俗を描いた映画。主演は宇野重吉と原保美。どちらも見た目はおじさんで、学生服を着ていてもまったく学生には見えない。宇野は途中で改心し、詐欺を止めようとするが、原はますますのめり込んでいく。志村喬、東山千栄子、若山セツ子、久我美子から脇を固める。登場人物は類型的で、作品としては面白くないが、屋外のロケ・シーンが多く、宇野と若山が歩きながら途中で足を止めたり振り返ったりして会話するシーンには、成瀬独特のスタイルが見られる。玉井正夫の撮影が見事だ。成瀬映画にしては珍しく、競馬場のシーンが出てくる。

白い野獣
1950東宝 成瀬巳喜男 評点【D】
娼婦たちの更生施設を舞台に、寮長や女医と収容されている女たちとの交流を描いた映画。溝口の「夜の女たち」を彷彿とさせる。戦後の世相を背景とする社会派作品だが、掘りが浅く平板で、明らかな失敗作だ。理解ある善良な寮長(山村聰、若い!)と心やさしい女医(飯野公子、馴染みない女優だが和風の清楚な顔立ちだ)が理想化されすぎていて現実感に乏しい。収容者の一人で、婚約者である岡田英次との関係に悩む女に、戦後の成瀬映画を支えた脇役女優、中北千枝子が扮する。これは中北の成瀬映画への初出演作ではないだろうか。

2023年1月某日  備忘録209 “低迷期”の成瀬巳喜男作品 その1

母は死なず
1942東宝 成瀬巳喜男 評点【C】
太平洋戦争真っ只中の映画。生活苦にあえぎながら男手ひとつで息子を育てる父親の物語。父親に菅井一郎、病苦で自殺する妻に入江たか子が扮する。全体の流れは小津の「父ありき」を想起させる。前半は貧乏生活をたんたんと描く家庭劇。終盤は、成瀬にしては珍しく戦争や出征の記録映像が挿入され、戦意高揚映画の趣を呈する。東京下町のロケ・シーンや、妻の自殺の直接描写を避ける演出などに成瀬らしさがうかがえる。親切な近所の夫婦、藤原釜足と沢村貞子がいい。彼らの娘に扮する若き日の轟夕起子を見て、目鼻立ちや喋り声が原節子に似ているのに気づいた。

春の目ざめ
1947東宝 成瀬巳喜男 評点【C】
久我美子主演。地方の小さな町で暮らす男女の中高校生たちの交遊、思春期の悩みを描いた映画。成瀬の低迷期と言われる時期にしては出来のいい作品だと思う。成瀬は都会を描くのが巧い監督だったが、「車掌さん」や「石中先生」や「まごころ」のように、田舎を舞台にした映画でも手腕を発揮した。この作品もそうで、ほのぼのとした爽やかな雰囲気に包まれている。屋外ロケによる自然の風景がのどかで美しい、出てくる人物がみな真面目な好人物ばかりなのが非現実的だが。映画の後半は性教育の主題が浮かび上がるが、この時代としては画期的だったのではないだろうか。デビューして間もない久我美子は初々しいが、ぼくは昔からこの女優が苦手であまり魅力を感じない。父兄として志村喬や飯田蝶子が出演し、いい味を出している。

2023年1月某日  備忘録208 敗戦直後の日本映画

狐の呉れた赤ん坊
1945大映 丸根賛太郎 評点【B】
敗戦の年に公開された阪東妻三郎主演の人情喜劇。チャップリンの「キッド」の日本版リメイク。江戸時代の大井川べりの町、川越人足の乱暴者、阪妻は捨て子を拾い、仕方なく自分で苦労して育て、実の親子のように暮らすが、大名家がその子は跡取りなので引き取りたいと申し出る。喧嘩しまくり、走り回り、転げ回る阪妻の演技が素晴らしく、これは無法松と並ぶ彼の代表作と言えるだろう。親子の情愛や人足仲間との友情が湿っぽくなく描かれており、ラストも爽やかで後味が良い。

浦島太郎の後裔
1946東宝 成瀬巳喜男 評点【D】
成瀬巳喜男の戦後第1作だが、まごうかたない失敗作。民主主義の主張や悪徳政治の糾弾は成瀬に合わない。GHQの検閲に配慮した会社からのお仕着せ企画であろう。この映画がキャプラの「群衆」を下敷きにしていることは明らかだ。当時は米国映画にヒントを得た映画が流行ったのだろうか。ラジオで披露した「不幸の叫び」で注目される髭もじゃの復員兵に藤田進、新聞記事にするため彼を利用する新聞記者に高峰秀子が扮する。彼を取り込んで党勢拡大を図る政党が現れ、高峰から真相を打ち明けられた藤田はニセ民主主義を告発する。陳腐な筋立てと大げさな演技で、見ていて退屈する。印象深いのは敗戦間もない東京のロケ・シーンだ。瓦礫の山と化した国会議事堂の周辺が痛々しい。当時21歳の高峰秀子がきれいに撮れているのも拾いもの。ほかに杉村春子や中村伸郎が共演している。

2023年1月某日  備忘録207 50年代後半の米アクション映画

拳銃の罠 The Trap
1959米 ノーマン・パナマ 評点【D】
家族の確執を絡めた、マフィアのボスの逃亡にまつわるアクション映画。舞台はカリフォルニアの田舎町で、西部劇のような仕上がりになっており、派手な銃撃戦やカー・チェイスがあるが、期待に反してあまり面白くない。マフィアのために働く弁護士にリチャード・ウィドマーク、ボスにリー・J・コッブが扮する。ウィドマークは保安官の父親が殺されたため、ボスの逃亡を阻止して警察に引き渡そうとする。ウィドマークの元恋人を演じるティナ・ルイーズは妖艶な美女。歌手でもあり、かつて幻の名盤とされたジャズ・ヴォーカル・アルバムを作っている。

誘拐 Ransom
1956米 アレックス・シーガル 評点【C】
誘拐をテーマにした犯罪サスペンス映画だが、犯人の捜査より被害者家族の苦悩や葛藤が中心に描かれており、犯人は不明のまま終る。息子を誘拐された会社社長は、身代金の引き渡しを拒否、TVを通じて犯人たちに挑戦状を突きつける。父親の会社社長にグレン・フォード、その妻にドナ・リードが扮する。ドナ・リードは当時35歳だが、まことに美しく魅力的だ。家庭での振舞は彼女主演のホーム・ドラマ「うちのママは世界一」を彷彿とさせる。ほかに新聞記者役でのちの喜劇役者レスリー・ニールセンが出ている。90年代にリメイクされた。

2023年1月某日  備忘録206 60年前後のロバート・ミッチャム主演映画

サンダウナーズ The Sundowners
1960米 フレッド・ジンネマン 評点【B】
牧羊の仕事を求めてオーストラリアを流れ歩く一家を描いた映画。ジンネマン監督にしては珍しい題材だが、好感の持てる大らかな作品に仕上がっている。家族愛、夫婦の絆が、オーストリアの自然風景、森林火災や毛刈り競争などの挿話とともに、じっくり描かれている。旦那は定住を嫌って旅を続けようとするが、妻と子供は落ち着きたいと願い、軋轢が生じるが、最後はハッピー・エンドとなる。無骨でいい加減だが家族思いの父親と、しっかり者で愛情深い母親の夫婦を、ロバート・ミッチャムとデボラ・カーが演じる。ミッチャムはまさに適役だし、いつもは貴婦人風のカーが化粧っ気もなしに泥だらけで働くのも見ものだ。この二人は似合いのカップルであり、傑作「白い砂」でも見事な共演ぶりを見せていた。彼らと一緒に旅をするピーター・ユスチノフも好演している。

肉体の遺産 Home from the Hill
1959米 ヴィンセント・ミネリ 評点【C】
南部の旧家を舞台に家族の絆と男女の愛欲を描くドラマ。南部の町の大地主ロバート・ミッチャムは冷酷な権力者で狩猟と女遊びに明け暮れており、妻のエリノア・パーカーとの関係は冷え切っている。息子のジョージ・ハミルトンは愛情に飢えた純朴な少年で、学校の女友達を好きになり、愛のない家庭に反抗して家を出る。ジョージ・ペパードはミッチャムが他の女に生ませた子供だが、家の使用人として働いており、ハミルトンと仲がいい。そしてある日、悲劇が起る。全体の雰囲気は「他人の家」「ジャイアンツ」「白昼の決闘」を思わせる。この手のどろどろした家族劇は好きではないが、ドラマとしては見応えがある。瘴気が漂う沼の風景はミッチャムの家庭の象徴だろうか。エリノア・パーカーがきれいだ。ペパードはこの映画の後「ティファニーで朝食を」に出演して脚光を浴びる。



[2006年9月〜2022年12月のコラム]
2022年12月某日  2022年海外ミステリ小説ベスト・テン
2022年10月某日  備忘録205 フィルム・ノワール落ち穂拾い その3
2022年10月某日  備忘録204 フィルム・ノワール落ち穂拾い その2
2022年10月某日  備忘録203 フィルム・ノワール落ち穂拾い その1
2022年9月某日  備忘録202 ジェームス・キャグニー主演の戦争スパイ映画
2022年9月某日  備忘録201 米国30年代の異色ギャング映画
2022年9月某日  備忘録200 加藤泰のヴァイオレンス映画
2022年9月某日  備忘録199 ゲイリー・クーパー主演のマイナーな映画 その3
2022年9月某日  備忘録198 ゲイリー・クーパー主演のマイナーな映画 その2
2022年8月某日  備忘録197 ゲイリー・クーパー主演のマイナーな映画 その1
2022年8月某日  備忘録196 バート・ランカスター主演の文芸映画 その2
2022年8月某日  備忘録195 バート・ランカスター主演の文芸映画 その1
2022年8月某日  備忘録194 カウリスマキの敗者3部作 その2
2022年8月某日  備忘録193 カウリスマキの敗者3部作 その1
2022年8月某日  備忘録192 ゲイリー・クーパーが主演した戦後の西部劇 その3
2022年8月某日  備忘録191 ゲイリー・クーパーが主演した戦後の西部劇 その2
2022年8月某日  備忘録190 60年前後のアメリカ音楽映画
2022年8月某日  備忘録189 ゲイリー・クーパーが主演した戦後の西部劇 その1
2022年8月某日  備忘録188 30年代のアメリカ映画
2022年7月某日  備忘録187 ロベール・ブレッソンの映画 その2
2022年7月某日  備忘録186 ロベール・ブレッソンの映画 その1
2022年7月某日  備忘録185 最近の映画
2022年7月某日  備忘録184 ベティ・デイヴィスの初期主演映画
2022年7月某日  備忘録183 ロバート・ミッチャムの主演映画
2022年7月某日  備忘録182 2本の異色フィルム・ノワール
2022年6月某日  備忘録181 成瀬巳喜男が手がけた2本のオムニバス映画
2022年6月某日  備忘録180 原節子の主演映画 その2
2022年6月某日  備忘録179 原節子の主演映画 その1
2022年6月25日  余談:ミステリー小説読後感想
        心に触れるアイルランドの風景、初老の男と子供の心の交流

2022年6月某日  備忘録178 川島雄三の映画 その2
2022年6月某日  備忘録177 川島雄三の映画 その1
2022年5月某日  備忘録176 ハワード・ホークスの映画 その3
2022年5月某日  備忘録175 ハワード・ホークスの映画 その2
2022年5月某日  備忘録174 ハワード・ホークスの映画 その1
2022年5月某日  備忘録173 ウィリアム・ワイラーの映画 その3
2022年5月某日  備忘録172 ウィリアム・ワイラーの映画 その2
2022年5月某日  備忘録171 ウィリアム・ワイラーの映画 その1
2022年5月某日  備忘録170 ジョン・フォードの映画 その4
2022年5月某日  備忘録169 ジョン・フォードの映画 その3
2022年5月某日  備忘録168 ジョン・フォードの映画 その2
2022年5月某日  備忘録167 ジョン・フォードの映画 その1
2022年5月8日  余談:『少年王者第10集 怪獣牙虎篇』を読んだ
2022年2月某日  備忘録161 懐かしの日本映画:大学の山賊たち、地獄の底までつき合うぜ
2022年2月某日  備忘録160 懐かしのイタリア映画:激しい季節、わらの男
2022年1月某日  備忘録159 三船敏郎の若き日の知られざる映画
2022年1月某日  備忘録158 ブレッソンの徹底して理解を拒む映画
2022年1月某日  備忘録157 アンドレ・カイヤットの映画 その2
2022年1月某日  備忘録156 アンドレ・カイヤットの映画 その1
2022年1月某日  備忘録155 50年代の西部劇 その2:ハサウェイとマテ
2022年1月某日  備忘録154 50年代の西部劇 その1:ブルックスとローランド
2021年12月某日  2021年海外ミステリー小説ベスト・テン
2021年12月某日  備忘録153 老女優が共演した滋味に富む逸品
2021年12月某日  備忘録152 ナチスと戦う戦争謀略映画
2021年12月某日  備忘録151 大川恵子が出演した2本の映画
2021年12月某日  備忘録150 ハンフリー・ボガートのフィルム・ノワール
2021年11月某日  備忘録149 50年代前期の異色日本映画
2021年11月某日  備忘録148 エリア・カザンの中後期作品
2021年11月某日  備忘録147 エリア・カザンの初期作品
2021年11月某日  備忘録146 大映の娯楽時代劇
2021年11月某日  備忘録145 最近の映画から
2021年10月某日  備忘録144 戦前戦後の音楽映画
2021年10月某日  備忘録143 市川雷蔵の代表作2本
2021年10月某日  備忘録142 日米の秀逸な軍事裁判映画
2021年10月某日  備忘録141 ドン・シーゲルの初期映画 その2
2021年10月某日  備忘録140 ドン・シーゲルの初期映画 その1
2021年10月某日  備忘録139 松本清張原作映画 その2
2021年10月某日  備忘録138 松本清張原作映画 その1
2021年10月某日  備忘録137 山田洋次の2本の初期映画
2021年9月某日  備忘録136 最近の映画から
2021年9月某日  備忘録135 ハリウッド50年代初期の名作
2021年9月某日  備忘録134 英国の宮廷劇と家庭劇
2021年9月某日  備忘録133 ハリウッド40年代後期の名作
2021年8月某日  備忘録132 大映の雷蔵時代劇
2021年7月某日  備忘録131 黄昏期の西部劇
2021年7月某日  備忘録130 黄金時代の西部劇
2021年6月某日  備忘録129 戦前・戦後の珍品日本映画
2021年6月某日  備忘録128 ルルーシュのヴァンチュラ主演映画
2021年6月某日  備忘録127 トリュフォーのアイリッシュ原作映画
2021年5月某日  備忘録126 最近の映画から
2021年5月某日  備忘録125 巨匠ムルナウの古典的サイレント映画
2021年5月某日  備忘録124 アメリカの古いスリラー映画
2021年5月某日  備忘録123 チェコの心に響く音楽映画
2021年5月某日  備忘録122 ロミー・シュナイダー主演映画を観る その4
2021年5月某日  備忘録121 ルイーズ・ブルックスに魅せられて その2
2021年5月某日  備忘録120 ルイーズ・ブルックスに魅せられて その1
2021年5月某日  備忘録119 フィルム・ノワールをさらに掘り起こす その3
2021年5月某日  備忘録118 フィルム・ノワールをさらに掘り起こす その2
2021年5月某日  備忘録117 フィルム・ノワールをさらに掘り起こす その1
2021年4月某日  備忘録116 ロミー・シュナイダー主演映画を観る その3
2021年4月某日  備忘録115 ロミー・シュナイダー主演映画を観る その2
2021年4月某日  備忘録114 スティーヴ・リーヴス主演イタリア製《剣と魔法》映画
2021年3月某日  備忘録113 ドイツ戦前派の巨匠パブストの2作
2021年3月某日  備忘録112 原節子が主演した「智恵子抄」
2021年2月某日  備忘録111 ジェームス・スチュアートとジャック・レモン
2021年2月某日  備忘録110 ジョン・ヒューストンの2本の異色作
2021年2月某日  備忘録109 中原ひとみとアンナ・カリーナ
2021年2月某日  備忘録108 サイレント時代のドイツの巨匠ムルナウを観る
2021年2月某日  備忘録107 ロミー・シュナイダー主演映画を観る その1
2021年2月某日  備忘録106 90年代の新感覚ドイツ映画
2021年1月某日  備忘録105 40年代のフィルム・ノワール その4
2021年1月某日  備忘録104 三船敏郎のドキュメンタリー・ビデオ
2021年1月某日  備忘録103 レスターとパウエルのレアなドキュメンタリー映像
2020年12月某日  2020年海外ミステリー小説ベスト・テン
2020年12月某日  備忘録102 40年代のフィルム・ノワール その3
2020年12月某日  備忘録102 40年代のフィルム・ノワール その2
2020年12月某日  備忘録101 40年代のフィルム・ノワール その1
2020年12月某日  備忘録100 確かな腕の職人監督千葉泰樹の映画3作
2020年12月某日  備忘録99 豊田四郎監督の文芸映画2作
2020年12月某日  備忘録98 成瀬巳喜男の後期の賛否を呼ぶ家族映画2本
2020年12月某日  備忘録97 成瀬巳喜男の夫婦もの3部作を構成する2本
2020年12月某日  備忘録96 キャグニーが真価を発揮したアクション映画
2020年12月某日  備忘録95 好漢ジェームズ・キャグニーのギャング映画代表作
2020年11月某日  備忘録94 さっぱり良さが分からないゴダール映画
2020年11月某日  備忘録93 奇妙だが抗しがたい魅力を放つカウリスマキの映画
2020年11月某日  備忘録92 老いてなお風格を漂わせるジャン・ギャバンの2作
2020年11月某日  備忘録91 50年代後期、成瀬巳喜男と原節子の異色作
2020年11月某日  備忘録90 50年代半ば、黒澤明脚本の逸品2作
2020年11月某日  備忘録89 フィルム・ノワールの名品2作
2020年10月某日  備忘録88 フェデーとカルネの古典的名作
2020年10月某日  備忘録87 デュヴィヴィエの戦前の代表作2本
2020年9月某日  備忘録86 クルーゾーの初期と後期の2本の映画
2020年9月某日  備忘録85 ジャン・ギャバンのメグレ警視もの2本
2020年9月某日  備忘録84 ジャン・ギャバン50年代の犯罪映画2本
2020年9月某日  備忘録83 ブレッソンの迫真的な脱獄映画
2020年9月某日  備忘録82 フランジュの荒唐無稽な活劇映画「ジュデックス」
2020年9月某日  備忘録81 ジョルジュ・フランジュの衝撃作「顔のない眼」
2020年9月某日  備忘録80 トリュフォーによる2本の映画
2020年9月某日  備忘録79 ジャック・フェデーの古典的名作
2020年9月某日  備忘録78 シャブロルの初期の映画3本
2020年9月某日  備忘録77 ブレッソンの独自性が発揮された中期の映画
2020年9月某日  備忘録76 ロベール・ブレッソンの初期映画2本
2020年9月某日  備忘録75 リノ・ヴァンチュラのアクション映画〜その2
2020年9月某日  備忘録74 リノ・ヴァンチュラのアクション映画〜その1
2020年9月某日  備忘録73 モダン・ジャズを使ったフランス往年の犯罪映画
2020年8月某日  備忘録72 ロベール・アンリコ晩年の2作品
2020年8月某日  備忘録71 40年代後期のギャバンの主演作2本
2020年8月某日  備忘録70 ジェラール・フィリップ主演の2作品
2020年8月某日  備忘録69 カルネ&ギャバン・コンビの代表作「霧の波止場」
2020年8月某日  備忘録68 ヴィスコンティの「異邦人」
2020年7月某日  備忘録67 ジャック・ベッケル後期の名品2作
2020年7月某日  備忘録66 ジャック・ベッケル初期の凡作2本
2020年7月某日  備忘録65 ルネ・クレマンとアラン・ドロンのコンビによる2作
2020年7月某日  備忘録64 ルイス・ブニュエルの珍作と名作
2020年7月某日  備忘録63 シモーヌ・シニョレとシャルル・アズナブール
2020年7月某日  備忘録62 原節子が出演した戦前映画を見る その4
2020年7月某日  備忘録61 ピア・アンジェリの初主演作
2020年7月某日  備忘録60 “怒れる若者たち”の映画
2020年7月某日  備忘録59 40年代の2本のフィルム・ノワール
2020年7月某日  備忘録58 原節子が出演した戦前映画を見る その3
2020年7月某日  備忘録57 原節子が出演した戦前映画を見る その2
2020年7月某日  備忘録56 原節子が出演した戦前映画を見る その1
2020年6月某日  備忘録55 戦後のデュヴィヴィエの犯罪サスペンス映画 その2
2020年6月某日  備忘録54 戦後のデュヴィヴィエの犯罪サスペンス映画 その1
2020年6月某日  備忘録53 得るものがほとんどなかった2冊の映画本
2020年6月某日  備忘録53 フリッツ・ラングの初期の珍作と晩年の怪作
2020年6月某日  備忘録53 50年代初期フリッツ・ラングのフィルム・ノワール
2020年6月某日  備忘録53 「デデという娼婦」シモーヌ・シニョレの暗い情念
2020年6月某日  備忘録52 メルヴィルの日本未公開作品2作
2020年6月某日  備忘録51 40年代後半の対照的なフランス映画2本
2020年6月某日  備忘録50 日仏の興味深い映画ドキュメンタリー2本
2020年6月某日  備忘録49 50年代の地味なフランス映画
2020年6月某日  備忘録48 ルネ・クレマンの初期作品2本
2020年6月某日  備忘録47 戦後民主主義の教条映画
2020年6月某日  備忘録46 伊丹万作のコメディ2本
2020年6月某日  備忘録45 グレアム・グリーン原作の2本
2020年6月某日  備忘録44 ロバート・アルドリッチの隠れた逸品2本
2020年6月某日  備忘録43 ノワール風味の作品2本
2020年6月某日  備忘録42 市川崑の50年代風刺映画
2020年6月某日  備忘録41 戦前の時代劇2作
2020年5月某日  備忘録40 見逃していたルノワールとデュヴィヴィエ
2020年5月某日  備忘録39 原節子の戦前作と芦川いづみの初期作
2020年5月某日  備忘録38 ルノワールの未見映画を制覇する〜その6
2020年5月某日  備忘録37 ルノワールの未見映画を制覇する〜その5
2020年5月某日  備忘録36 ルノワールの未見映画を制覇する〜その4
2020年5月某日  備忘録35 ルノワールの未見映画を制覇する〜その3
2020年5月某日  備忘録34 ルノワールの未見映画を制覇する〜その2
2020年5月某日  備忘録33 ルノワールの未見映画を制覇する〜その1
2020年5月某日  備忘録32 成瀬巳喜男の戦前未見映画を制覇する〜その3
2020年5月某日  備忘録32 成瀬巳喜男の戦前未見映画を制覇する〜その2
2020年5月某日  備忘録31 成瀬巳喜男の戦前未見映画を制覇する〜その1
2020年5月某日  備忘録30 トリュフォーによる後期の2作
2020年5月某日  備忘録29 心に残った最近の2本の映画
2020年5月某日  備忘録28 グールディングの手腕が光る40年代の2作
2020年5月某日  備忘録27 ドイツ時代のフリッツ・ラングの2作
2020年5月某日  備忘録26 ドイツの表現主義と映画人の亡命を追う2本のドキュメンタリー
2020年5月某日  備忘録25 久松静児の代表作2本
2020年5月某日  備忘録24 ベティカーの「七人の無頼漢」をようやく鑑賞
2020年5月某日  備忘録23 ジェーン・フォンダとフェイ・ダナウェイ
2020年5月某日  備忘録22 70年代米国の話題作2本を再見
2020年5月某日  備忘録21 溝口のドキュメンタリー映画とドイツの歴史的映画
2020年5月某日  備忘録20 成瀬巳喜男の無名の作品3本
2020年5月某日  備忘録19 「カッコーの巣の上で」
2020年5月某日  備忘録18 木下恵介の2作、「夕やけ雲」と「肖像」
2020年5月某日  備忘録17 若きピア・アンジェリが美しい「The Light Touch」
2020年5月某日  備忘録16 オフュルスの流麗なカメラ「たそがれの女心」
2020年5月某日  備忘録15 50年代の知られざる日本映画
2020年5月某日  備忘録14 60年代と70年代の逸品米映画
2020年5月某日  備忘録13 成瀬巳喜男の2作、名品「秋立ちぬ」に涙する
2020年4月某日  映画備忘録 12 シオドマクとベティカーの初期作品
2020年4月某日  映画備忘録 11 初期のマンキウィッツ作品2本
2020年4月某日  映画備忘録 10 隠れた名作、山田と三船の「下町」
2020年4月某日  映画備忘録 9 ジョセフ・ロージー70年代
2020年4月某日  映画備忘録 8 ジョセフ・ロージー60年代
2020年4月某日  映画備忘録 7 3本の異色日本映画
2020年4月某日  映画備忘録 6 渋いフィルム・ノワール3本
2020年4月某日  映画備忘録 5 「欲望の砂漠」と「大いなる夜」
2020年4月某日  映画備忘録 4 溝口健二の2作
2020年4月某日  映画備忘録 3 ヴィスコンティの2作
2020年4月某日  映画備忘録 2 芦川いづみの2作ともう1本
2020年4月某日  映画備忘録 1 原節子の2作
2019/12/26 (木)  2019年ミステリー&映画ベスト10
2019/04/03 (水)  新元号について思う
2019/01/11 (金)  2018年ミステリー&映画ベスト10
2018/06/16 (土)  ポーランドという国
2017/12/30 (土)  2017年ミステリー&映画ベスト10
2017/10/24 (火)  衆院選挙雑感
2017/01/10 (火)  年始雑感
2016/12/26 (月)  2016年海外映画ベスト10
2016/12/22 (木)  2016年海外ミステリー・ベスト10
2016/10/10 (月)  5月のバルト3国ではバード・チェリーが花開いていた
2016/09/03 (土)  若きサッチモが活躍する異色ジャズ・ミステリー
2016/08/20 (土)  リオ五輪で吉田沙保里選手が流した涙
2016/08/09 (火)  天皇の「お気持ち表明」を聞いて感じたこと
2016/08/06 (土)  北朝鮮のミサイル攻撃
2016/08/03 (水)  天皇の生前退位表明
2016/07/28 (木)  クーデター未遂事件後のトルコの行く末
2016/06/25 (土)  英国のEU離脱とナショナリズムの台頭
2016/05/29 (土)  オバマ大統領の広島での演説に思う
2016/04/16 (土)  あのリスベットが帰ってきた、『ミレニアム4』とともに
2016/04/02 (土)  秘話が明かされるブラウニーのドキュメンタリーDVD
2016/02/28 (日)  昨年公開の外国映画ベストテン
2016/02/14 (日)  「夜は千の眼を持つ」をめぐって
2016/01/30 (土)  ベルリンの壁と冷戦
2016/01/16 (土)  年始雑感
2015/12/28 (月)  2015年海外ミステリー・ベスト10
2015/12/16 (水)  最大の不正と欺瞞を生み出しているのは安倍政権だ
2015/11/29 (日)  追想の原節子
2015/02/15 (日)  2014年海外ミステリー&映画ベスト10
2014/11/20 (木)  健さんが死んでしまった
2014/06/22 (日)  6月のリスボンではジャカランダの花が咲く
2014/05/26 (月)  日本が危ない
2014/05/18 (日)  2013年海外ミステリー・ベスト10
2014/05/10 (土)  春を寿ぐジャズ
2013/09/12 (木)  藤圭子が逝ってしまった
2013/07/26 (金)  ジャズ・ヴォーカル・ベスト3
2013/07/14 (日)  ニコラス・W・レフンの「ドライヴ」は凄い映画だ
2013/07/07 (日)  暗殺者の正義
2013/06/28 (金)  桜井ユタカさんの思い出
2013/01/18 (金)  2012年海外映画ベスト10
2012/12/16 (日)  2012年海外ミステリー・ベスト10
2012/12/08 (土)  映画「アルゴ」とイラン米大使館員人質事件の真実
2012/11/29 (木)  アメリカの裏の世界をテーマにした2冊のミステリ小説
2012/11/15 (木)  維新の会のお粗末さと維新八策の空虚な中身
2012/11/01 (木)  都知事を辞職して我執と老醜をさらす石原慎太郎
2012/10/24 (水)  週刊朝日の「ハシシタ」報道をめぐって
2012/10/22 (月)  野田政権の末期的症状
2012/09/22 (土)  危機的な日中関係に手をこまねくだけの無能な野田政権
2012/09/10 (月)  『花かげ』 その2
2012/09/09 (日)  『花かげ』 その1
2012/08/31 (金)  オスプレイ配備反対運動はなぜ盛り上がらないのか
2012/08/22 (火)  領土問題と日本のとるべき道
2012/07/31 (火)  久しぶりにすぐれた冒険小説の書き手が登場した
2012/07/14 (土)  佐々部清監督と同席した至福の5時間
2012/06/28 (木)  小沢一郎よ奮起の時だ、民主党は自滅せよ
2012/02/17 (金)  ホイットニー・ヒューストンが死んだ
2012/02/08 (水)  橋下徹信者たちの異常な行動
2012/01/31 (火)  橋下徹大阪市長の言動への違和感
2012/01/11 (水)  帰って来たナチス・ドイツの探偵ベルンハルト・グンター
2011/12/27 (火)  年末雑感〜さらば民主党
2011/12/17 (土)  2011年海外映画ベスト10
2011/12/10 (土)  2011年海外ミステリー・ベスト10
2011/11/19 (土)  トルコという国
2011/10/29 (土)  だけど・・・美しい
2011/06/14 (火)  永見緋太郎の事件簿
2011/06/02 (木)  『人生譜』
2011/05/16 (月)  彼らはただ去っていく、ムーンライト・マイルの彼方に
2011/05/01 (日)  脱原発の気運が盛り上がらないのはなぜか
2011/04/23 (土)  『何人に対しても悪意を抱かず』
2011/04/16 (土)  石原都知事4選に思う
2011/04/14 (木)  原発事故に関する海外での風評とアメリカ頼みの復旧対策
2011/04/02 (土)  東電と癒着した原子力安全委員会の手抜き管理が原発事故を生んだ
2011/03/29 (火)  震災にまつわる言動で醜悪さを露呈した3人
2011/03/21 (月)  原発事故の真の原因は、ずさんな原発政策にある
2011/03/19 (土)  大地震被災地救援の遅れは許しがたい
2010/12/29 (水)  2010年海外映画ベスト10
2010/12/26 (日)  2010年海外ミステリー・ベスト10
2010/12/22 (水)  ジャコの魂に触れる
2010/12/19 (日)  フランキー・マシーンに春は来るのか
2010/11/07 (日)  巻き込まれ型サスペンス・ミステリーの面白さ
2010/10/31 (日)  リスベットの圧倒的な存在感の前ではすべてが霞んでしまう
2010/10/24 (日)  感涙を誘うブラウニー若き日の破天荒な演奏
2010/10/17 (日)  再訪、黄昏の大英帝国
2010/10/10 (日)  凶悪な少女売買組織を殲滅し、アティカスは去って行った
2010/10/03 (日)  武家社会に生きる男たちの戦いが胸を熱くする
2010/09/26 (日)  マーカス・ミラーと交響楽団の共演を堪能した一日
2010/09/19 (日)  少年と刑事の崩壊した家庭に救いは訪れるのか
2010/09/12 (日)  長崎の四海楼で太麺皿うどんを食べた
2010/07/25 (日)  相撲界汚染報道の影でのさばる巨悪
2010/07/19 (月)  混迷する政治に打開の手立てはあるのか
2010/06/29 (火)  天木直人著『さらば日米同盟』が指し示す日本のとるべき道
2010/06/21 (月)  国民を裏切る菅新首相の露骨な現実路線
2010/06/12 (土)  ユダヤとイスラムの対立にほの見える、かすかな希望
2010/06/02 (水)  マスコミが黙殺する2つの疑惑――その2「官房機密費の使途」
2010/06/01 (火)  マスコミが黙殺する2つの疑惑――その1「創価学会と後藤組」
2010/05/25 (火)  沖縄基地問題で放置される日米同盟に関する論議
2010/05/24 (月)  米軍クラスター弾投下訓練と韓国艦沈没事件
2010/05/17 (月)  エコー・パークに幽かに響くモンクとコルトレーン
2010/03/22 (月)  ひたすら逃げる“祖国なき男”のたどる道は
2010/03/11 (木)  洋楽曲名あれこれ――その3「ジャズ・スタンダード」
2010/03/04 (木)  2つの涙
2010/03/01 (月)  洋楽曲名あれこれ――その2
2010/02/22 (月)  洋楽曲名あれこれ
2010/02/16 (火)  耐える男の美しさを描き続けたディック・フランシス
2009/12/26 (土)  2009年映画ベスト10
2009/12/20 (日)  2009年海外ミステリー・ベスト10
2009/12/11 (金)  「少年王者」――幻の「怪獣牙虎篇」
2009/11/29 (日)  永遠のスター、中村錦之助
2009/11/15 (日)  山川惣治の「少年王者」が愛と勇気を教えてくれた
2009/10/19 (月)  美空ひばり考
2009/10/08 (木)  “犬の力”に突き動かされた人々がたどる運命は
2009/09/18 (金)  黄昏の大英帝国
2009/08/31 (月)  総選挙で圧勝した民主党に期待する
2009/08/28 (金)  クリフォード・ブラウンの2枚のレアCD
2009/08/07 (金)  ジャンゴの洒脱とフレディの熱気
2009/07/30 (木)  「野望」と「復讐」をテーマにした2冊の本
2009/07/24 (金)  植草一秀氏の痴漢冤罪事件と最高裁の不当判決
2009/07/16 (木)  醜さをさらけ出す末路の自民党
2009/07/09 (木)  ジェファーソン・ボトルをめぐる謎と騒動
2009/07/02 (木)  村上春樹について思うこと
2009/02/18 (水)  五輪招致、築地移転という石原の愚挙に怒リの声を
2009/02/16 (月)  小泉発言を過大報道するマスコミの荒廃と堕落
2009/01/31 (土)  フレディ・ハバードの思い出――その2
2009/01/29 (木)  フレディ・ハバードの思い出――その1
2009/01/25 (日)  イスラエルのガザ攻撃とオバマ新政権
2009/01/23 (金)  オバマの大統領就任に思う
2009/01/21 (水)  官僚も政治もメディアもみんな劣化している――その2
2009/01/20 (火)  官僚も政治もメディアもみんな劣化している――その1
2008/12/30 (火)  読み逃していた久々の傑作冒険小説
2008/12/26 (金)  映画ベスト・テン2008
2008/12/22 (月)  ジャズ・ベスト・テン2008
2008/12/20 (土)  今年、心を動かされた2冊のノンフィクション
2008/12/18 (木)  ミステリー・ベスト・テン2008
2008/11/27 (木)  ボデイガードから逸脱したアティカスはどこに行くのか
2008/11/18 (火)  田母神論文から見えてくる異常な風景
2008/11/15 (土)  給付金問題で麻生首相の見識のなさがさらけ出された
2008/11/09 (日)  B級アクションの面白さを満喫できる2本の洋画
2008/10/30 (木)  銀行ギャングとカンサス・シティ・ジャズ
2008/10/22 (月)  破滅に向って突き進む兄弟――ルメットの圧倒的な新作映画
2008/10/06 (月)  7年ぶりのフロスト警部シリーズの新作を堪能
2008/09/30 (火)  ポール・ニューマンの思い出
2008/09/19 (金)  心惹かれるクラウス・オガーマンのニュー・アルバム
2008/09/04 (木)  日本を舞台にしたハンターの新作にがっくり
2008/08/01 (金)  ヘレン・ミアーズ「アメリカの鏡・日本」が解き明かす真実
2008/07/23 (水)  9.11テロはアメリカの陰謀だったのか
2008/07/16 (水)  資本主義の末期的症状が露呈している
2008/07/10 (木)  民主党のアキレス腱、前原誠司
2008/07/04 (金)  官僚と自公政治家の劣悪さ加減
2008/06/30 (月)  痛風発症顛末記
2008/05/19 (月)  「長いお別れ」と「ロング・グッドバイ」
2008/05/12 (月)  ヴァネッサ・レッドグレイヴの2本の新作映画
2008/05/05 (月)  違憲判決はなぜ下せないのか――日本の裁判制度(その3)
2008/04/27 (日)  裁判官の過ちは誰が裁くのか――日本の裁判制度(その2)
2008/04/25 (金)  いまの日本の裁判制度はこれでいいのか(その1)
2008/03/29 (土)  ジャズ・コンポーザー、ファンタジー小説、フィルム・ノワール
2008/03/17 (月)  新銀行東京 責任逃れに終始する石原都知事の醜さ
2008/03/14 (金)  孤独と妄執の作家、ウィリアム・アイリッシュ
2008/01/24 (木)  団塊オヤジのヒーローはビートルズなんかじゃない
2008/01/19 (土)  ペリー・コモの思い出
2007/12/26 (水)  今年のミステリーは「キューバ・コネクション」が1位だ
2007/12/10 (月)  太麺皿うどんにはまる
2007/12/06 (木)  W.C.フィールズ語録
2007/11/25 (日)  新たに発掘されたジャコの驚くべき演奏
2007/11/05 (月)  ギリシャで見た虹は大きかった
2007/11/03 (土)  女暗殺者タラ・チェイスはアラブに向かう
2007/11/01 (木)  目をくぎ付けにする迫力満点のコルトレーンのDVD
2007/10/06 (土)  刑事に復職したハリー・ボッシュを待っていた事件は
2007/10/04 (木)  ベラ――日本にも本物のレディ・ソウルがいた
2007/09/29 (土)  暗いベルリンと明るいプロヴァンス
2007/09/17 (月)  忘れられた作家 W.P.マッギヴァーン
2007/09/14 (金)  ハードボイルドの戦後史
2007/09/11 (火)  もうひとつの「カサブランカ」
2007/07/31 (火)  米国ネオコンの陰謀を図書館員は阻止できるか
2007/07/18 (水)  酔余の果てのジャズ・トーク
2007/07/16 (月)  むかしバニー・ベリガンというトランペッターがいた――その2
2007/07/15 (日)  むかしバニー・ベリガンというトランペッターがいた――その1
2007/07/12 (木)  ジャズとエロティシズム
2007/07/08 (日)  今年の翻訳ミステリーは不作、でも掘り出し物もあるぞ
2007/07/07 (土)  クリフォード・ブラウンのプライヴェート盤
2007/07/06 (金)  最近のアクション映画はけっこうおもしろい
2007/06/07 (木)  ロイ・ヘインズのドラミングに酔った一夜
2007/05/20 (日)  この国のゆくえ
2007/05/15 (火)  黒澤明の空白の5年間
2007/01/08 (月)  ディック・フランシス6年ぶりの新作に拍手
2006/12/17 (日)  ミステリー・ランキングの好ましからぬ風潮に喝!
2006/12/03 (日)  最近のヴォーカル・アルバム――グラディス・ナイトと水林史
2006/11/12 (日)  藤沢周平の映画化作品をめぐって
2006/11/11 (土)  バルセロナを吹く風には影があったか
2006/11/10 (金)  サンセット77のロジャー・スミスは颯爽としていた
2006/11/05 (日)  ラッシュ・ライフに込められたストレイホーンの悲痛な思い
2006/10/15 (日)  チンドンとバルカンが融け合うとき
2006/10/14 (土)  TWA800便墜落の真相は究明されたか
2006/10/10 (火)  クリフォード・ブラウン断章
2006/10/09 (月)  カリフォルニア・ワインとヴァージニア・マドセン
2006/09/22 (金)  ガルヴェストンの殺し屋の血はいつ鎮まるのか
2006/09/21 (木)  真のコスモポリタン、ザヴィヌル
2006/09/09 (土)  ミュンヘン行き夜行列車の乗り心地は
2006/09/03 (日)  ブガッティは占領下のパリを疾走したか
2006/09/02 (土)  コルトレーン異論
2006/09/01 (金)  ハリー・ボッシュはどこに行くのか


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